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113.情事の爪痕

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 12月に入ってから街はすっかりクリスマス一色となっているが、『Lieuリュウ  deドゥ  detenteデタント 』も例外ではなかった。店内には大きなクリスマスツリーが飾られ、ガラス窓もステッカーで彩られ、店の外は電飾ライトが煌めき、クリスマスの様相を呈していた。

 ランチタイムのラッシュを過ぎ、お客がまばらになった店内の客をボーッと美羽は眺めていた。最近、忙しい仕事の合間のふとした隙間時間に類との情事が無意識に思い返されてしまう。時には、その記憶に躰の芯が熱くなって欲情が燻ることすらあった。 

「……美羽。美羽!」

 強い調子で呼ばれて、美羽はハッと後ろを振り返った。後ろのオープンキッチンの厨房から、隼斗が険しい顔つきで見ていた。

「これ、3番」
「は、はい! すみませんっっ」

 何してるの、ちゃんと仕事に集中しないと……

 慌ててトレーにトマトのカプレーゼを載せ、3番テーブルへと運んだ。

  美羽の後ろ姿を見つめていた隼斗の隣に浩平が立ち、頭の後ろで手を組んだ。

「なーんか最近の美羽さん、おかしくないっすか? 前だったら暇な時間帯でも補充とか掃除とか忙しく動き回ってたのに、たまにボーッとしてたり、かと思うと急にビクッとして顔赤くしたり。
 なんかあったんすかね?」

 浩平の瞳には心配する気持ちだけでなく、好奇も覗いていた。

 隼斗が浩平を上からジロッと睨みつける。強面に加えて背が高くガタイがいいので、更に凄みが増す。

「余計なこと喋ってないで、仕事に集中しろ。エビの下処理、終わったのか?」
「いえ、まだっす」
「さっさとしろ!」
「は、はいぃぃ!!」

 その迫力に浩平は頭の後ろに組んだ手を即座に外し、ビシッと右手を揃えて敬礼した。

 ったく隼斗さん、美羽さんのことになると恐いんだから。

 浩平は首をすくめると、業務用冷蔵庫からエビをいそいそと取り出し、下処理を始めた。

 そんな浩平に隼斗は短く溜息を吐いてから再び顔を上げ、客に笑顔で対応する美羽を見つめた。

 ランチタイムのラッシュが過ぎ去り、休憩が終わった香織と交代で、美羽は隼斗から出来立てのアッシェ・パルマンティエとタブレを受け取り、休憩室へと向かった。アッシェ・パルマンティエはフランスの国民食とも呼ばれるほどに一般的なフランスの家庭料理で、シェパーズパイのようなものだ。タブレはクスクスを使ったサラダで、健康志向の女子に人気がある。

 休憩室に入ると、いつもなら帰り支度を済ませている芳子がまだのんびりとテーブルに座って水を飲んでいる。

 あれっ、今日はコーヒーじゃないんだ。

 芳子は豆から挽く本格的なここのカフェのコーヒーが好きで、まかないを食べた後の食後のコーヒーを欠かさなかった。

「お疲れ様です」

 まかないを手に芳子の向かいの席に座ると、『お疲れ様』すら言う時間が惜しいとばかりに、芳子が口火を切った。



「実は、美羽に報告があって……」


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