117 / 498
113.情事の爪痕
しおりを挟む
12月に入ってから街はすっかりクリスマス一色となっているが、『Lieu de detente 』も例外ではなかった。店内には大きなクリスマスツリーが飾られ、ガラス窓もステッカーで彩られ、店の外は電飾ライトが煌めき、クリスマスの様相を呈していた。
ランチタイムのラッシュを過ぎ、お客がまばらになった店内の客をボーッと美羽は眺めていた。最近、忙しい仕事の合間のふとした隙間時間に類との情事が無意識に思い返されてしまう。時には、その記憶に躰の芯が熱くなって欲情が燻ることすらあった。
「……美羽。美羽!」
強い調子で呼ばれて、美羽はハッと後ろを振り返った。後ろのオープンキッチンの厨房から、隼斗が険しい顔つきで見ていた。
「これ、3番」
「は、はい! すみませんっっ」
何してるの、ちゃんと仕事に集中しないと……
慌ててトレーにトマトのカプレーゼを載せ、3番テーブルへと運んだ。
美羽の後ろ姿を見つめていた隼斗の隣に浩平が立ち、頭の後ろで手を組んだ。
「なーんか最近の美羽さん、おかしくないっすか? 前だったら暇な時間帯でも補充とか掃除とか忙しく動き回ってたのに、たまにボーッとしてたり、かと思うと急にビクッとして顔赤くしたり。
なんかあったんすかね?」
浩平の瞳には心配する気持ちだけでなく、好奇も覗いていた。
隼斗が浩平を上からジロッと睨みつける。強面に加えて背が高くガタイがいいので、更に凄みが増す。
「余計なこと喋ってないで、仕事に集中しろ。エビの下処理、終わったのか?」
「いえ、まだっす」
「さっさとしろ!」
「は、はいぃぃ!!」
その迫力に浩平は頭の後ろに組んだ手を即座に外し、ビシッと右手を揃えて敬礼した。
ったく隼斗さん、美羽さんのことになると恐いんだから。
浩平は首を竦めると、業務用冷蔵庫からエビをいそいそと取り出し、下処理を始めた。
そんな浩平に隼斗は短く溜息を吐いてから再び顔を上げ、客に笑顔で対応する美羽を見つめた。
ランチタイムのラッシュが過ぎ去り、休憩が終わった香織と交代で、美羽は隼斗から出来立てのアッシェ・パルマンティエとタブレを受け取り、休憩室へと向かった。アッシェ・パルマンティエはフランスの国民食とも呼ばれるほどに一般的なフランスの家庭料理で、シェパーズパイのようなものだ。タブレはクスクスを使ったサラダで、健康志向の女子に人気がある。
休憩室に入ると、いつもなら帰り支度を済ませている芳子がまだのんびりとテーブルに座って水を飲んでいる。
あれっ、今日はコーヒーじゃないんだ。
芳子は豆から挽く本格的なここのカフェのコーヒーが好きで、まかないを食べた後の食後のコーヒーを欠かさなかった。
「お疲れ様です」
まかないを手に芳子の向かいの席に座ると、『お疲れ様』すら言う時間が惜しいとばかりに、芳子が口火を切った。
「実は、美羽に報告があって……」
ランチタイムのラッシュを過ぎ、お客がまばらになった店内の客をボーッと美羽は眺めていた。最近、忙しい仕事の合間のふとした隙間時間に類との情事が無意識に思い返されてしまう。時には、その記憶に躰の芯が熱くなって欲情が燻ることすらあった。
「……美羽。美羽!」
強い調子で呼ばれて、美羽はハッと後ろを振り返った。後ろのオープンキッチンの厨房から、隼斗が険しい顔つきで見ていた。
「これ、3番」
「は、はい! すみませんっっ」
何してるの、ちゃんと仕事に集中しないと……
慌ててトレーにトマトのカプレーゼを載せ、3番テーブルへと運んだ。
美羽の後ろ姿を見つめていた隼斗の隣に浩平が立ち、頭の後ろで手を組んだ。
「なーんか最近の美羽さん、おかしくないっすか? 前だったら暇な時間帯でも補充とか掃除とか忙しく動き回ってたのに、たまにボーッとしてたり、かと思うと急にビクッとして顔赤くしたり。
なんかあったんすかね?」
浩平の瞳には心配する気持ちだけでなく、好奇も覗いていた。
隼斗が浩平を上からジロッと睨みつける。強面に加えて背が高くガタイがいいので、更に凄みが増す。
「余計なこと喋ってないで、仕事に集中しろ。エビの下処理、終わったのか?」
「いえ、まだっす」
「さっさとしろ!」
「は、はいぃぃ!!」
その迫力に浩平は頭の後ろに組んだ手を即座に外し、ビシッと右手を揃えて敬礼した。
ったく隼斗さん、美羽さんのことになると恐いんだから。
浩平は首を竦めると、業務用冷蔵庫からエビをいそいそと取り出し、下処理を始めた。
そんな浩平に隼斗は短く溜息を吐いてから再び顔を上げ、客に笑顔で対応する美羽を見つめた。
ランチタイムのラッシュが過ぎ去り、休憩が終わった香織と交代で、美羽は隼斗から出来立てのアッシェ・パルマンティエとタブレを受け取り、休憩室へと向かった。アッシェ・パルマンティエはフランスの国民食とも呼ばれるほどに一般的なフランスの家庭料理で、シェパーズパイのようなものだ。タブレはクスクスを使ったサラダで、健康志向の女子に人気がある。
休憩室に入ると、いつもなら帰り支度を済ませている芳子がまだのんびりとテーブルに座って水を飲んでいる。
あれっ、今日はコーヒーじゃないんだ。
芳子は豆から挽く本格的なここのカフェのコーヒーが好きで、まかないを食べた後の食後のコーヒーを欠かさなかった。
「お疲れ様です」
まかないを手に芳子の向かいの席に座ると、『お疲れ様』すら言う時間が惜しいとばかりに、芳子が口火を切った。
「実は、美羽に報告があって……」
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる