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88.迫る過去の記憶
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浴室から出た類は、裸のまま首にタオルを巻き、スマホを起動させた。
ミュー、まだ寝てない……
着替え終わると美羽の寝室を見つめた。
ミュー。
切なく睫毛を揺らしたものの、そこに行くことなく1階へと下りた。
ダイニングテーブルには、まだ突っ伏して眠る義昭の姿があり、類はチッと舌打ちするとガンッと椅子を蹴った。
義昭の耳がピクッと動き、ゆっくりと頭が上がる。
「ん……ルイ?」
寝惚けた様子で目を瞬く義昭に、類が笑みを浮かべた。
「ヨシ、こんなとこで寝てると風邪ひくよ!」
「あ。あぁ……す、済まない……」
赤らんだ顔の義昭が、類の顔色を窺うように見上げた。
「あの、類……今……」
義昭の言葉を遮り、類がにっこりと美麗な笑みを浮かべた。
「僕、今お風呂入ったとこだから、ヨシも入ってきたら?」
「……あぁ、分かった」
義昭はのろのろと立ち上がると、2階へと向かった。そんな彼に一切目を向けることなく、類はさっさと自分の部屋へと戻っていく。
階段を上りながら、義昭は先ほどのことを思い返していた。
ルイが舌打ちして、椅子を蹴られた気がするが……
あれは、夢だったのか?
義昭は頬を硬くし、唇を噛み締めた。
ベッドに潜り込んだ類は、スマホを手にし、アプリを開いた。
まだ眠れていないようで、美羽の布団がごそごそと動いている。
「おやすみ、ミュー」
瞼を閉じて画面にそっとキスし、スマホをオフにするとそっと置いた。ベッドに入った途端、疲れが躰を押さえ込み、重く沈み込んでいく。
あぁ、今夜はミューを愛せそうもないな。
けれど、眠りはなかなか訪れてくれない。躰はきつくベッドに縛り付けられたまま、頭はキンキンに冷えて冴えていく。
昼間は、あんなに気持ちいい眠りにつけたのに……
美羽の匂いに包まれて穏やかな気持ちで眠った午後を思い出す。それでも、2時間ほどで起きてしまったが。
ま、眠れないのはいつものことだけど。
類が深い眠りにつけるのは、美羽の隣でだけだった。アメリカに滞在してた頃は、夜が来るのが憂鬱で寂しかった。美羽のいない夜が、耐えれらなかった。
それが、年を重ねるにつれて、夜が来るのが恐怖へと変わっていった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
動悸が激しくなる。汗が一気に噴き出してくる。呼吸の仕方が、分からなくなる。
ようやく、逃れられたと思ったのに……
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
類はグラスに入れた水に手を伸ばし、ポケットから錠剤を手にすると口に含んで飲み込んだ。
天井が回り、迫ってくる……全身が熱くなり、ぐるぐると胃の中が掻き回されるぐらい気持ち悪くなる。
赤いライト。黒い鉄格子の檻。磔け台。天井から下されたフック。迫る声。白く華奢な下肢。迫る声。寄せられる顔……
過去の記憶の断片が次々に表れては、類の心をズタズタに切り裂いていく。
「ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
もう、恐れるものは何もない。
僕は、自由。自由なんだ……
全身に汗を掻きながら胸に手を当て、深呼吸を繰り返し、眉間に力を入れて唇を震わせた。
※この後、時系列が少し戻って美羽sideに入ります。
ミュー、まだ寝てない……
着替え終わると美羽の寝室を見つめた。
ミュー。
切なく睫毛を揺らしたものの、そこに行くことなく1階へと下りた。
ダイニングテーブルには、まだ突っ伏して眠る義昭の姿があり、類はチッと舌打ちするとガンッと椅子を蹴った。
義昭の耳がピクッと動き、ゆっくりと頭が上がる。
「ん……ルイ?」
寝惚けた様子で目を瞬く義昭に、類が笑みを浮かべた。
「ヨシ、こんなとこで寝てると風邪ひくよ!」
「あ。あぁ……す、済まない……」
赤らんだ顔の義昭が、類の顔色を窺うように見上げた。
「あの、類……今……」
義昭の言葉を遮り、類がにっこりと美麗な笑みを浮かべた。
「僕、今お風呂入ったとこだから、ヨシも入ってきたら?」
「……あぁ、分かった」
義昭はのろのろと立ち上がると、2階へと向かった。そんな彼に一切目を向けることなく、類はさっさと自分の部屋へと戻っていく。
階段を上りながら、義昭は先ほどのことを思い返していた。
ルイが舌打ちして、椅子を蹴られた気がするが……
あれは、夢だったのか?
義昭は頬を硬くし、唇を噛み締めた。
ベッドに潜り込んだ類は、スマホを手にし、アプリを開いた。
まだ眠れていないようで、美羽の布団がごそごそと動いている。
「おやすみ、ミュー」
瞼を閉じて画面にそっとキスし、スマホをオフにするとそっと置いた。ベッドに入った途端、疲れが躰を押さえ込み、重く沈み込んでいく。
あぁ、今夜はミューを愛せそうもないな。
けれど、眠りはなかなか訪れてくれない。躰はきつくベッドに縛り付けられたまま、頭はキンキンに冷えて冴えていく。
昼間は、あんなに気持ちいい眠りにつけたのに……
美羽の匂いに包まれて穏やかな気持ちで眠った午後を思い出す。それでも、2時間ほどで起きてしまったが。
ま、眠れないのはいつものことだけど。
類が深い眠りにつけるのは、美羽の隣でだけだった。アメリカに滞在してた頃は、夜が来るのが憂鬱で寂しかった。美羽のいない夜が、耐えれらなかった。
それが、年を重ねるにつれて、夜が来るのが恐怖へと変わっていった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
動悸が激しくなる。汗が一気に噴き出してくる。呼吸の仕方が、分からなくなる。
ようやく、逃れられたと思ったのに……
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
類はグラスに入れた水に手を伸ばし、ポケットから錠剤を手にすると口に含んで飲み込んだ。
天井が回り、迫ってくる……全身が熱くなり、ぐるぐると胃の中が掻き回されるぐらい気持ち悪くなる。
赤いライト。黒い鉄格子の檻。磔け台。天井から下されたフック。迫る声。白く華奢な下肢。迫る声。寄せられる顔……
過去の記憶の断片が次々に表れては、類の心をズタズタに切り裂いていく。
「ハァッ、ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
もう、恐れるものは何もない。
僕は、自由。自由なんだ……
全身に汗を掻きながら胸に手を当て、深呼吸を繰り返し、眉間に力を入れて唇を震わせた。
※この後、時系列が少し戻って美羽sideに入ります。
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