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78.帰ってきたよ
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慎重に全てのものを元あった位置に戻し、定規だけを持って義昭の部屋を出ると、今度こそ美羽の部屋の前に立つ。
部屋の鍵なんて単純で、定規一本で開いてしまう。定規を横から縦に動かすと、カチリと確かな手応えが指に響いた。
扉を開けると、懐かしいあの頃と同じ美羽の部屋の匂いに包まれた。
帰ってきたよ、ミュー……
美羽の部屋はベッドとドレッサーとクローゼットと書棚は白でまとめられているものの、カーテンやベッドのシーツや枕は小薔薇の散りばめられたデザインとなっており、女性らしい部屋になっていた。
フフッ……ミューを感じるなぁ。
クローゼットの一番上の引き出しを開けると色とりどりのブラジャーとパンティーがセットされて美しく並んでいた。シルク製の繊細なデザインで、淡い色ばかりだ。
ミューの趣味、変わってない。
ふと隣を見るとドレッサーの鏡に自分の姿が映っていて、類はフッと微笑むと、それを覗き込んだ。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだーれ?」
下着姿で鏡の前に立っている美羽を想像する。
丸みのある豊満なバストの膨らみの中心に線が入り、そこから腰にかけてくびれていき、お尻は女性らしい丸みのあるカーブを描いてキュンと持ち上がり、細くしなやかな脚が伸びている。
「世界で一番美しいのはミュー、君だよ……
僕の、愛しいお姫様」
艶麗な笑みを浮かべ、引き出しに向き直ると桜色のブラジャーを手に取って唇を寄せると、慎重に戻して閉めた。
書棚を覗くと、そこに並んでいるのは女流作家が殆どで、美羽が学生の頃から好きだった作家の本もあって懐かしさを覚える。
あぁ、この本。ミューが読んでる時に邪魔して怒られたなぁ。本読んでると、集中して相手してくれないんだから、ミューは。
その中でも美羽が繰り返し読んでいたお気に入りの本を手に取り、パラパラと捲った。紙の匂いが薄まり、少し変色したその本からは、美羽の愛着を感じ取れる。そんな風にして美羽と一緒に長い時間を共に過ごせてきたことに軽い嫉妬すら覚え、類は元の位置に戻した。
パソコンは置いておらず、当然ながらスマホは美羽の手元にある。
室内をくまなく眺め、ポケットから指に収まるほどの超小型カメラを取り出した。ベッドの上に乗ると、美羽が寝る場所からは完全に死角となる蛍光灯の裏側にカメラを取り付ける。
スマホをポケットから取り出し、アプリをダウンロードする。アプリが立ち上がり、全ての設定を終えると、スマホの画面には自分の頭が映っていた。
類は再び義昭の部屋に行き、パソコンを立ち上げると同じアプリをインストールした。デスクトップに表示されたアプリをアプリケーションツールのフォルダへ移動させる。そこからアプリを開くと美羽のベッドが映っていた。次に全ての作業の工程の履歴を削除するとパソコンをスリープにし、閉じた。
定規を戻し、振り返って全て元の状態にあるか確認すると、扉をパタンと閉めて息を吐く。
あぁ、やっぱ久々のロングフライトきついな……
ずっと室内で過ごしてきた類にとって長時間の外出でさえきつく、ストレスになるのに、今日は張り切りすぎた。
開けっ放しの美羽の部屋へと戻るとベッドの海にダイブし、鼻を枕に擦り付けた。
あぁ……安心する。
本格的に布団に潜り込み、タオル以外の衣服を全てベッドの下に落とすと、類は長い睫毛を伏せた。躰が弛緩して、沈み込んでいく。
ミューに、抱き締められてる気持ちになる。
温かくて、優しくて、穏やかな美羽の愛情溢れる眼差しを思い出し、ツンと鼻が痛くなった。躰を縮こませるように丸め、タオルに手を伸ばすとそれをギュッと抱き締めた。
部屋の鍵なんて単純で、定規一本で開いてしまう。定規を横から縦に動かすと、カチリと確かな手応えが指に響いた。
扉を開けると、懐かしいあの頃と同じ美羽の部屋の匂いに包まれた。
帰ってきたよ、ミュー……
美羽の部屋はベッドとドレッサーとクローゼットと書棚は白でまとめられているものの、カーテンやベッドのシーツや枕は小薔薇の散りばめられたデザインとなっており、女性らしい部屋になっていた。
フフッ……ミューを感じるなぁ。
クローゼットの一番上の引き出しを開けると色とりどりのブラジャーとパンティーがセットされて美しく並んでいた。シルク製の繊細なデザインで、淡い色ばかりだ。
ミューの趣味、変わってない。
ふと隣を見るとドレッサーの鏡に自分の姿が映っていて、類はフッと微笑むと、それを覗き込んだ。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだーれ?」
下着姿で鏡の前に立っている美羽を想像する。
丸みのある豊満なバストの膨らみの中心に線が入り、そこから腰にかけてくびれていき、お尻は女性らしい丸みのあるカーブを描いてキュンと持ち上がり、細くしなやかな脚が伸びている。
「世界で一番美しいのはミュー、君だよ……
僕の、愛しいお姫様」
艶麗な笑みを浮かべ、引き出しに向き直ると桜色のブラジャーを手に取って唇を寄せると、慎重に戻して閉めた。
書棚を覗くと、そこに並んでいるのは女流作家が殆どで、美羽が学生の頃から好きだった作家の本もあって懐かしさを覚える。
あぁ、この本。ミューが読んでる時に邪魔して怒られたなぁ。本読んでると、集中して相手してくれないんだから、ミューは。
その中でも美羽が繰り返し読んでいたお気に入りの本を手に取り、パラパラと捲った。紙の匂いが薄まり、少し変色したその本からは、美羽の愛着を感じ取れる。そんな風にして美羽と一緒に長い時間を共に過ごせてきたことに軽い嫉妬すら覚え、類は元の位置に戻した。
パソコンは置いておらず、当然ながらスマホは美羽の手元にある。
室内をくまなく眺め、ポケットから指に収まるほどの超小型カメラを取り出した。ベッドの上に乗ると、美羽が寝る場所からは完全に死角となる蛍光灯の裏側にカメラを取り付ける。
スマホをポケットから取り出し、アプリをダウンロードする。アプリが立ち上がり、全ての設定を終えると、スマホの画面には自分の頭が映っていた。
類は再び義昭の部屋に行き、パソコンを立ち上げると同じアプリをインストールした。デスクトップに表示されたアプリをアプリケーションツールのフォルダへ移動させる。そこからアプリを開くと美羽のベッドが映っていた。次に全ての作業の工程の履歴を削除するとパソコンをスリープにし、閉じた。
定規を戻し、振り返って全て元の状態にあるか確認すると、扉をパタンと閉めて息を吐く。
あぁ、やっぱ久々のロングフライトきついな……
ずっと室内で過ごしてきた類にとって長時間の外出でさえきつく、ストレスになるのに、今日は張り切りすぎた。
開けっ放しの美羽の部屋へと戻るとベッドの海にダイブし、鼻を枕に擦り付けた。
あぁ……安心する。
本格的に布団に潜り込み、タオル以外の衣服を全てベッドの下に落とすと、類は長い睫毛を伏せた。躰が弛緩して、沈み込んでいく。
ミューに、抱き締められてる気持ちになる。
温かくて、優しくて、穏やかな美羽の愛情溢れる眼差しを思い出し、ツンと鼻が痛くなった。躰を縮こませるように丸め、タオルに手を伸ばすとそれをギュッと抱き締めた。
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