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76.家族として
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3日前、類がいつ来てもいいようにと綺麗に掃除をし終えたこの部屋に義昭が入り、「類のためにデスクも買った方がいいな」と話し、美羽は思わず声を荒げた。
「類がここで暮らすって言っても、落ち着くまでの間だけでしょ? デスクまで買う必要はないんじゃない?」
すると義昭は、非難を込めた眼差しで答えた。
「僕たちはルイを支えてやるって話しただろ? どうしてそんな突き放すような言い方するんだ?」
「類はもう子供じゃないし、アメリカでだってちゃんと生活できてたじゃない! 私たちがそこまで過保護にする必要ある? 類だって、夫婦ふたりだけの生活に入りづらいと思うし……」
「ルイは父親から虐待を受けてたんだぞ! あの時のルイの様子、覚えてるだろ? 家族の温もりを必要としてるんだ!! ルイは、僕たちと暮らすことを何より望んでる!!」
いつもならここで大人しく引き下がる美羽だが、一瞬で頭にカーッと血が上り、理性も何かもかも忘れて感情を露わにした。
「義昭さんはどうして類にそんなに肩入れするの!? 何か特別な感情でもあるの!?」
思わず本音を漏らした美羽に義昭が絶句し、目を瞠った。それから、まるで汚いものでも見るかのように美羽を見据える。
「な、に……言ってるんだ。ルイは友達だ。友達でもあり、今は義弟でもある。助けてやりたいと思うのは当然だろう。君こそ、弟に冷たすぎるだろう」
そこまで言うと義昭は背を向けて出て行き、その後ろ姿に美羽は溜息を吐いた。
『友達』って……あなたと類は大学で言葉も交わしたことなかったって言ってたじゃない。この短期間で急速に親しくなった類の方が、妻である私よりも大切なの?
翌日、義昭は仕事帰りに購入したデスクと椅子を持って帰宅したのだった。
「うわーっ、ヨシ気がきく!! ありがとう、ミュー!!」
類がピョンと抱きつき、美羽は狼狽えた。自分の本心を見透かされたくない思いと、見透かしていっそ嫌って出て行って欲しいという思いが交錯する。
「わ、私は何も……」
「だって、ふたりで僕のために色々考えてしてくれたんでしょ? この部屋だってすごく綺麗だし、ミューが掃除してくれたんだよね?」
「う、うん……」
「すっごく嬉しいよ。あぁ、やっぱり日本に来て良かった……」
心臓に針が刺されたようにチクリと痛んでいると、そのうちに類の肩が小刻みに震え始める。
「ほんとは、凄く不安だったんだ……だから、ここにいつ来るのか言えなかった。拒否されるんじゃないかって、恐くて……ッグ
ミューが僕を家族として温かく受け入れてくれて嬉しいよ。僕の家族は、ミューだけだ」
やっぱり類は、本当にお父さんから虐待を受けてたの……?
戸惑いながらも、縋り付く類を振り払うことなど出来ない。その母性本能を擽る声を、仕草を、本能的に受け入れてしまい、美羽は類の背中にそっと回した。
『あぁ、ミュー!! 僕を……ハァッ、ハァッ……僕を、受け入れて……』
夢の中の類の言葉が不意に蘇り、美羽の躰が硬くなる。
「私、も……類を、家族として受け入れるから……」
私たちはもう恋人じゃない。
家族……姉と、弟なんだよ? ちゃんと分かってるよね、類……?
「類がここで暮らすって言っても、落ち着くまでの間だけでしょ? デスクまで買う必要はないんじゃない?」
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「な、に……言ってるんだ。ルイは友達だ。友達でもあり、今は義弟でもある。助けてやりたいと思うのは当然だろう。君こそ、弟に冷たすぎるだろう」
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「わ、私は何も……」
「だって、ふたりで僕のために色々考えてしてくれたんでしょ? この部屋だってすごく綺麗だし、ミューが掃除してくれたんだよね?」
「う、うん……」
「すっごく嬉しいよ。あぁ、やっぱり日本に来て良かった……」
心臓に針が刺されたようにチクリと痛んでいると、そのうちに類の肩が小刻みに震え始める。
「ほんとは、凄く不安だったんだ……だから、ここにいつ来るのか言えなかった。拒否されるんじゃないかって、恐くて……ッグ
ミューが僕を家族として温かく受け入れてくれて嬉しいよ。僕の家族は、ミューだけだ」
やっぱり類は、本当にお父さんから虐待を受けてたの……?
戸惑いながらも、縋り付く類を振り払うことなど出来ない。その母性本能を擽る声を、仕草を、本能的に受け入れてしまい、美羽は類の背中にそっと回した。
『あぁ、ミュー!! 僕を……ハァッ、ハァッ……僕を、受け入れて……』
夢の中の類の言葉が不意に蘇り、美羽の躰が硬くなる。
「私、も……類を、家族として受け入れるから……」
私たちはもう恋人じゃない。
家族……姉と、弟なんだよ? ちゃんと分かってるよね、類……?
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