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75.類との生活
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タクシーが自宅の前で停車すると、美羽は窓に身を乗り出して周囲を確認した。その間に類がお金を清算し、ふたりは車から降りた。
「類、早く入って……」
小さな門扉を開けると類を急き立てるようにして、玄関へと歩かせる。こんなところを近所の、特に山川なんかに見られたら、どんな噂をたてられるか分からない。
急いで玄関の扉を開けて類を入れると、美羽は大きく息を吐いた。
やっぱり、類との生活なんて無理だよ……
類はそんな美羽の気持ちなどお構いなしで、早速靴を脱いで家の中に入った。
「うわー、ここがミューの家なんだー!」
「類の住んでた家と比べたら、すごく狭いでしょ? 3人で暮らすには無理があるよね」
それは暗に、類に早く新しい家を探して欲しいという意味を指していたが、類はにっこりと笑みを浮かべた。
「いや、これぐらいの方が落ち着くよ。それに、ミューとヨシがいてくれるのが嬉しいし」
昔も今も……この笑顔を見せられるとダメだな、私。
無邪気に言われてしまうと、もうそれ以上何も言えなくなってしまう。
類は濡れた髪を触り、美羽を振り返った。
「ミュー、タオルある?」
「ちょっと待ってて……」
そう類に言い残すと、美羽は2階へと駆け上がっていった。浴室へ入るとタオルを手に取り、1階へと戻ろうとしたものの、思い直して自分の部屋へと向かった。
もしもの時のため……
内側から鍵を掛け、扉を閉める。もう一度取っ手に手をかけると、鍵がかかって開かなかった。
ホッと息を吐き、1階に下りた美羽は類にタオルを渡した。
「はい。でも、タオルで拭くよりもシャワー浴びた方がいいんじゃない? もし寒いなら、お風呂入ってもいいし」
そう声を掛けると、美羽が被っていたハンチングを類が取り、先ほど渡したはずのタオルが頭にフワッとおりてきた。
「うん、そうするよ。でもまずは、ミューの髪を拭かないと。この後、また仕事に戻るんでしょ?
はい、ここ座って!」
「じ、自分で拭けるから大丈夫!!」
「いいから、いいから」
強引にダイニングテーブルの椅子に座らされると、バレッタが外された。ふわっと広がった髪がタオルで挟み込まれ、丁寧に水気が拭かれる。
「濡れてるのは毛先だけだね」
あぁ……類の拭き方だ……
大切に、大切にされていることを感じるその手の温もりに、胸が熱くなる。
正面から類の瞳に覗き込まれ、美羽の心臓がバクンと大きく飛び跳ねる。
「うん、大丈夫。メイクは崩れてない」
「も、もう大丈夫! あとは、自分でやるから……」
美羽は立ち上がって類からタオルを受け取ると、首筋やシャツやパンツを拭いた。これ以上されたら、身がもたない。
その間、類はキッチンやリビングルーム、お風呂やトイレとじっくり見回していた。
水気を拭き取った美羽は、玄関を挟んでリビングの向かい側の部屋を開けた。
「類の部屋は、ここね」
「わっ、僕の部屋? 見たい!」
類のゲストルームの半分ほどの狭い部屋には、クイーンサイズのベッドとクローゼットが置かれただけ……の状態だった、以前は。
「あれっ、このデスク新品だね。最近買ったの?」
ベッドのすぐ横にはシンプルな木製の白い事務用デスクが置かれていた。椅子はまだビニールが被せられたままだ。
類がデスクをさらっと撫で、美羽を振り返る。美羽は小さく笑みを浮かべた。
「そう、なの……類が来るならあった方がいいだろうって……義昭さんが」
美羽は3日前の出来事を思い出し、キリリと胃が絞られた。
「類、早く入って……」
小さな門扉を開けると類を急き立てるようにして、玄関へと歩かせる。こんなところを近所の、特に山川なんかに見られたら、どんな噂をたてられるか分からない。
急いで玄関の扉を開けて類を入れると、美羽は大きく息を吐いた。
やっぱり、類との生活なんて無理だよ……
類はそんな美羽の気持ちなどお構いなしで、早速靴を脱いで家の中に入った。
「うわー、ここがミューの家なんだー!」
「類の住んでた家と比べたら、すごく狭いでしょ? 3人で暮らすには無理があるよね」
それは暗に、類に早く新しい家を探して欲しいという意味を指していたが、類はにっこりと笑みを浮かべた。
「いや、これぐらいの方が落ち着くよ。それに、ミューとヨシがいてくれるのが嬉しいし」
昔も今も……この笑顔を見せられるとダメだな、私。
無邪気に言われてしまうと、もうそれ以上何も言えなくなってしまう。
類は濡れた髪を触り、美羽を振り返った。
「ミュー、タオルある?」
「ちょっと待ってて……」
そう類に言い残すと、美羽は2階へと駆け上がっていった。浴室へ入るとタオルを手に取り、1階へと戻ろうとしたものの、思い直して自分の部屋へと向かった。
もしもの時のため……
内側から鍵を掛け、扉を閉める。もう一度取っ手に手をかけると、鍵がかかって開かなかった。
ホッと息を吐き、1階に下りた美羽は類にタオルを渡した。
「はい。でも、タオルで拭くよりもシャワー浴びた方がいいんじゃない? もし寒いなら、お風呂入ってもいいし」
そう声を掛けると、美羽が被っていたハンチングを類が取り、先ほど渡したはずのタオルが頭にフワッとおりてきた。
「うん、そうするよ。でもまずは、ミューの髪を拭かないと。この後、また仕事に戻るんでしょ?
はい、ここ座って!」
「じ、自分で拭けるから大丈夫!!」
「いいから、いいから」
強引にダイニングテーブルの椅子に座らされると、バレッタが外された。ふわっと広がった髪がタオルで挟み込まれ、丁寧に水気が拭かれる。
「濡れてるのは毛先だけだね」
あぁ……類の拭き方だ……
大切に、大切にされていることを感じるその手の温もりに、胸が熱くなる。
正面から類の瞳に覗き込まれ、美羽の心臓がバクンと大きく飛び跳ねる。
「うん、大丈夫。メイクは崩れてない」
「も、もう大丈夫! あとは、自分でやるから……」
美羽は立ち上がって類からタオルを受け取ると、首筋やシャツやパンツを拭いた。これ以上されたら、身がもたない。
その間、類はキッチンやリビングルーム、お風呂やトイレとじっくり見回していた。
水気を拭き取った美羽は、玄関を挟んでリビングの向かい側の部屋を開けた。
「類の部屋は、ここね」
「わっ、僕の部屋? 見たい!」
類のゲストルームの半分ほどの狭い部屋には、クイーンサイズのベッドとクローゼットが置かれただけ……の状態だった、以前は。
「あれっ、このデスク新品だね。最近買ったの?」
ベッドのすぐ横にはシンプルな木製の白い事務用デスクが置かれていた。椅子はまだビニールが被せられたままだ。
類がデスクをさらっと撫で、美羽を振り返る。美羽は小さく笑みを浮かべた。
「そう、なの……類が来るならあった方がいいだろうって……義昭さんが」
美羽は3日前の出来事を思い出し、キリリと胃が絞られた。
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