62 / 498
58.夫の本来の目的は?
しおりを挟む
始まりは、類からのハガキだった。
それを偶然義昭さんに見られてしまって、いつもなら関心を示さない彼がお父さんの葬儀についてきてくれると言ってくれて驚いた。
確かに、いくら疎遠になっていたとはいえ妻の父親の葬儀なのだから参列するのは当然なのかもしれないけど、アメリカでの、しかも翌日の葬儀のために上司に無理を承知で頼み込んで長期休暇を取るなんて、最近の義昭さんの態度から考えると普通じゃない。
ーーあれは、本当に偶然だったの?
義昭さんは、本当に類に会うまで彼の存在を忘れていたの?
義昭さんが類に出会ったのは彼が大学4年生の時だと話していた。だとしたら、私に会ったのはその2年後ってことになる。知り合い程度だったなら、2年経てば忘れてしまっているかもしれないし、アメリカと日本でこんなに離れてるんだもの。私と類を結びつけるはずが……
そこまで考えて美羽はハッとし、あやうくカップを落としそうになった。
ううん。いくら大学で会話を交わさなかったとはいえ、義昭さんは類に再会した時に6年も前に会った彼のことをちゃんと覚えていた。
類ほど人目を惹く容姿の日本人はまずいない。きっと、その日本人との交流サークルでも類は一際目立っていたはず。だからこそ、義昭さんは忘れなかったんだ。
そんな彼が、留学から帰ってきてから2年経った時点で類の顔を忘れるとは思えないし、類とそっくりな顔をした私を見たらビックリして思わず『知り合いに男性だけど君とそっくりな子がいるんだ』って話をするのが自然なはず。
けれど、義昭さんは一度も類の話をしたことはなかった。アメリカ留学してたことについては話してたのに、類の話題に触れないなんておかしい……
心臓がコトリと嫌な音を立てた。ドクドクと脈が打ち響き、喉がカラカラに乾く。
それでも、美羽は聞かずにいられなかった。
「義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?」
突然の質問に義昭はワインの入ったカップを持ったまま、一瞬なんのことか分からないといった表情を浮かべた後、ワインをグイッと飲みほした。
「……いや、美羽に会った時にはルイのことはすっかり忘れていたよ。LAに来て美羽のお父さんの葬儀で再会して、その時に思い出したんだ。
……どうして?」
「ぇ。類と義昭さんが知り合いだったって聞いて、ビックリして……」
その後の言葉を濁すように、美羽は再びコーヒーに口をつけた。カップを持つ手が震え、目を泳がせて明らかに動揺を見せる義昭同様、自分も落ち着く必要があった。
ざわざわと胸の奥が騒めき立っている。
知り合いに対して以上の優しさと気遣い、そして同情。一緒に暮らそうという提案……
それらの要素を合わせて結論を導こうとすると、どうしてもひとつの考えが浮かんできてしまう。
まさか義昭さん……アメリカに留学してた時、類を好きだったんじゃ……
一気に寒気が走り、冷たい汗が全身から噴き出してくる。
もし、義昭さんがアメリカ留学した際に類を好きになったとしたら、彼は帰国後類にそっくりな私に惹かれて告白し、付き合い、結婚したことになる。
それが事実なら、こんな惨めなことはない。
嫌だ、考えたくない……
美羽はガンガン痛む頭を堪え、これまでの義昭との歴史から否定要素を必死に引っ張り出した。
義昭さんは私と知り合う前にも女性と付き合っていたことはあるって言ってたし、私とセックスも出来てるんだから、ゲイであるはずがないじゃない!
それに、類に惹かれていたことが事実だったとしても、憧れのような気持ちだったかもしれない。私を好きになったきっかけが類にそっくりだったからにしても、何度も会ううちに私のことを本当に好きになって告白してくれたのかもしれないし。
けれど、また更にそれを否定しようとする考えが生み出されてしまう。
でも……もし、義昭さんがゲイではなくバイセクシャルだったとしたら? それなら、女性である私のことを抱くこともできる。
義昭さんが出会ってから結婚するまでの間に優しかったのは、私に類を重ねていたからで、結婚してから私が類ではないという事実を思い知って、冷たい態度をとるようになったんじゃ……
恋人時代の優しさは、私ではなく類に向けられたものだったの?
類とは違うと分かった私には、もう用はないってこと?
私たちは、なんのために結婚したの……
美羽はギュッと瞳を閉じ、頭から嫌な考えをなんとか追い出そうとした。
それを偶然義昭さんに見られてしまって、いつもなら関心を示さない彼がお父さんの葬儀についてきてくれると言ってくれて驚いた。
確かに、いくら疎遠になっていたとはいえ妻の父親の葬儀なのだから参列するのは当然なのかもしれないけど、アメリカでの、しかも翌日の葬儀のために上司に無理を承知で頼み込んで長期休暇を取るなんて、最近の義昭さんの態度から考えると普通じゃない。
ーーあれは、本当に偶然だったの?
義昭さんは、本当に類に会うまで彼の存在を忘れていたの?
義昭さんが類に出会ったのは彼が大学4年生の時だと話していた。だとしたら、私に会ったのはその2年後ってことになる。知り合い程度だったなら、2年経てば忘れてしまっているかもしれないし、アメリカと日本でこんなに離れてるんだもの。私と類を結びつけるはずが……
そこまで考えて美羽はハッとし、あやうくカップを落としそうになった。
ううん。いくら大学で会話を交わさなかったとはいえ、義昭さんは類に再会した時に6年も前に会った彼のことをちゃんと覚えていた。
類ほど人目を惹く容姿の日本人はまずいない。きっと、その日本人との交流サークルでも類は一際目立っていたはず。だからこそ、義昭さんは忘れなかったんだ。
そんな彼が、留学から帰ってきてから2年経った時点で類の顔を忘れるとは思えないし、類とそっくりな顔をした私を見たらビックリして思わず『知り合いに男性だけど君とそっくりな子がいるんだ』って話をするのが自然なはず。
けれど、義昭さんは一度も類の話をしたことはなかった。アメリカ留学してたことについては話してたのに、類の話題に触れないなんておかしい……
心臓がコトリと嫌な音を立てた。ドクドクと脈が打ち響き、喉がカラカラに乾く。
それでも、美羽は聞かずにいられなかった。
「義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?」
突然の質問に義昭はワインの入ったカップを持ったまま、一瞬なんのことか分からないといった表情を浮かべた後、ワインをグイッと飲みほした。
「……いや、美羽に会った時にはルイのことはすっかり忘れていたよ。LAに来て美羽のお父さんの葬儀で再会して、その時に思い出したんだ。
……どうして?」
「ぇ。類と義昭さんが知り合いだったって聞いて、ビックリして……」
その後の言葉を濁すように、美羽は再びコーヒーに口をつけた。カップを持つ手が震え、目を泳がせて明らかに動揺を見せる義昭同様、自分も落ち着く必要があった。
ざわざわと胸の奥が騒めき立っている。
知り合いに対して以上の優しさと気遣い、そして同情。一緒に暮らそうという提案……
それらの要素を合わせて結論を導こうとすると、どうしてもひとつの考えが浮かんできてしまう。
まさか義昭さん……アメリカに留学してた時、類を好きだったんじゃ……
一気に寒気が走り、冷たい汗が全身から噴き出してくる。
もし、義昭さんがアメリカ留学した際に類を好きになったとしたら、彼は帰国後類にそっくりな私に惹かれて告白し、付き合い、結婚したことになる。
それが事実なら、こんな惨めなことはない。
嫌だ、考えたくない……
美羽はガンガン痛む頭を堪え、これまでの義昭との歴史から否定要素を必死に引っ張り出した。
義昭さんは私と知り合う前にも女性と付き合っていたことはあるって言ってたし、私とセックスも出来てるんだから、ゲイであるはずがないじゃない!
それに、類に惹かれていたことが事実だったとしても、憧れのような気持ちだったかもしれない。私を好きになったきっかけが類にそっくりだったからにしても、何度も会ううちに私のことを本当に好きになって告白してくれたのかもしれないし。
けれど、また更にそれを否定しようとする考えが生み出されてしまう。
でも……もし、義昭さんがゲイではなくバイセクシャルだったとしたら? それなら、女性である私のことを抱くこともできる。
義昭さんが出会ってから結婚するまでの間に優しかったのは、私に類を重ねていたからで、結婚してから私が類ではないという事実を思い知って、冷たい態度をとるようになったんじゃ……
恋人時代の優しさは、私ではなく類に向けられたものだったの?
類とは違うと分かった私には、もう用はないってこと?
私たちは、なんのために結婚したの……
美羽はギュッと瞳を閉じ、頭から嫌な考えをなんとか追い出そうとした。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる