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58.夫の本来の目的は?
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始まりは、類からのハガキだった。
それを偶然義昭さんに見られてしまって、いつもなら関心を示さない彼がお父さんの葬儀についてきてくれると言ってくれて驚いた。
確かに、いくら疎遠になっていたとはいえ妻の父親の葬儀なのだから参列するのは当然なのかもしれないけど、アメリカでの、しかも翌日の葬儀のために上司に無理を承知で頼み込んで長期休暇を取るなんて、最近の義昭さんの態度から考えると普通じゃない。
ーーあれは、本当に偶然だったの?
義昭さんは、本当に類に会うまで彼の存在を忘れていたの?
義昭さんが類に出会ったのは彼が大学4年生の時だと話していた。だとしたら、私に会ったのはその2年後ってことになる。知り合い程度だったなら、2年経てば忘れてしまっているかもしれないし、アメリカと日本でこんなに離れてるんだもの。私と類を結びつけるはずが……
そこまで考えて美羽はハッとし、あやうくカップを落としそうになった。
ううん。いくら大学で会話を交わさなかったとはいえ、義昭さんは類に再会した時に6年も前に会った彼のことをちゃんと覚えていた。
類ほど人目を惹く容姿の日本人はまずいない。きっと、その日本人との交流サークルでも類は一際目立っていたはず。だからこそ、義昭さんは忘れなかったんだ。
そんな彼が、留学から帰ってきてから2年経った時点で類の顔を忘れるとは思えないし、類とそっくりな顔をした私を見たらビックリして思わず『知り合いに男性だけど君とそっくりな子がいるんだ』って話をするのが自然なはず。
けれど、義昭さんは一度も類の話をしたことはなかった。アメリカ留学してたことについては話してたのに、類の話題に触れないなんておかしい……
心臓がコトリと嫌な音を立てた。ドクドクと脈が打ち響き、喉がカラカラに乾く。
それでも、美羽は聞かずにいられなかった。
「義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?」
突然の質問に義昭はワインの入ったカップを持ったまま、一瞬なんのことか分からないといった表情を浮かべた後、ワインをグイッと飲みほした。
「……いや、美羽に会った時にはルイのことはすっかり忘れていたよ。LAに来て美羽のお父さんの葬儀で再会して、その時に思い出したんだ。
……どうして?」
「ぇ。類と義昭さんが知り合いだったって聞いて、ビックリして……」
その後の言葉を濁すように、美羽は再びコーヒーに口をつけた。カップを持つ手が震え、目を泳がせて明らかに動揺を見せる義昭同様、自分も落ち着く必要があった。
ざわざわと胸の奥が騒めき立っている。
知り合いに対して以上の優しさと気遣い、そして同情。一緒に暮らそうという提案……
それらの要素を合わせて結論を導こうとすると、どうしてもひとつの考えが浮かんできてしまう。
まさか義昭さん……アメリカに留学してた時、類を好きだったんじゃ……
一気に寒気が走り、冷たい汗が全身から噴き出してくる。
もし、義昭さんがアメリカ留学した際に類を好きになったとしたら、彼は帰国後類にそっくりな私に惹かれて告白し、付き合い、結婚したことになる。
それが事実なら、こんな惨めなことはない。
嫌だ、考えたくない……
美羽はガンガン痛む頭を堪え、これまでの義昭との歴史から否定要素を必死に引っ張り出した。
義昭さんは私と知り合う前にも女性と付き合っていたことはあるって言ってたし、私とセックスも出来てるんだから、ゲイであるはずがないじゃない!
それに、類に惹かれていたことが事実だったとしても、憧れのような気持ちだったかもしれない。私を好きになったきっかけが類にそっくりだったからにしても、何度も会ううちに私のことを本当に好きになって告白してくれたのかもしれないし。
けれど、また更にそれを否定しようとする考えが生み出されてしまう。
でも……もし、義昭さんがゲイではなくバイセクシャルだったとしたら? それなら、女性である私のことを抱くこともできる。
義昭さんが出会ってから結婚するまでの間に優しかったのは、私に類を重ねていたからで、結婚してから私が類ではないという事実を思い知って、冷たい態度をとるようになったんじゃ……
恋人時代の優しさは、私ではなく類に向けられたものだったの?
類とは違うと分かった私には、もう用はないってこと?
私たちは、なんのために結婚したの……
美羽はギュッと瞳を閉じ、頭から嫌な考えをなんとか追い出そうとした。
それを偶然義昭さんに見られてしまって、いつもなら関心を示さない彼がお父さんの葬儀についてきてくれると言ってくれて驚いた。
確かに、いくら疎遠になっていたとはいえ妻の父親の葬儀なのだから参列するのは当然なのかもしれないけど、アメリカでの、しかも翌日の葬儀のために上司に無理を承知で頼み込んで長期休暇を取るなんて、最近の義昭さんの態度から考えると普通じゃない。
ーーあれは、本当に偶然だったの?
義昭さんは、本当に類に会うまで彼の存在を忘れていたの?
義昭さんが類に出会ったのは彼が大学4年生の時だと話していた。だとしたら、私に会ったのはその2年後ってことになる。知り合い程度だったなら、2年経てば忘れてしまっているかもしれないし、アメリカと日本でこんなに離れてるんだもの。私と類を結びつけるはずが……
そこまで考えて美羽はハッとし、あやうくカップを落としそうになった。
ううん。いくら大学で会話を交わさなかったとはいえ、義昭さんは類に再会した時に6年も前に会った彼のことをちゃんと覚えていた。
類ほど人目を惹く容姿の日本人はまずいない。きっと、その日本人との交流サークルでも類は一際目立っていたはず。だからこそ、義昭さんは忘れなかったんだ。
そんな彼が、留学から帰ってきてから2年経った時点で類の顔を忘れるとは思えないし、類とそっくりな顔をした私を見たらビックリして思わず『知り合いに男性だけど君とそっくりな子がいるんだ』って話をするのが自然なはず。
けれど、義昭さんは一度も類の話をしたことはなかった。アメリカ留学してたことについては話してたのに、類の話題に触れないなんておかしい……
心臓がコトリと嫌な音を立てた。ドクドクと脈が打ち響き、喉がカラカラに乾く。
それでも、美羽は聞かずにいられなかった。
「義昭さん……私と初めて出会った時、類に似てるって思った?」
突然の質問に義昭はワインの入ったカップを持ったまま、一瞬なんのことか分からないといった表情を浮かべた後、ワインをグイッと飲みほした。
「……いや、美羽に会った時にはルイのことはすっかり忘れていたよ。LAに来て美羽のお父さんの葬儀で再会して、その時に思い出したんだ。
……どうして?」
「ぇ。類と義昭さんが知り合いだったって聞いて、ビックリして……」
その後の言葉を濁すように、美羽は再びコーヒーに口をつけた。カップを持つ手が震え、目を泳がせて明らかに動揺を見せる義昭同様、自分も落ち着く必要があった。
ざわざわと胸の奥が騒めき立っている。
知り合いに対して以上の優しさと気遣い、そして同情。一緒に暮らそうという提案……
それらの要素を合わせて結論を導こうとすると、どうしてもひとつの考えが浮かんできてしまう。
まさか義昭さん……アメリカに留学してた時、類を好きだったんじゃ……
一気に寒気が走り、冷たい汗が全身から噴き出してくる。
もし、義昭さんがアメリカ留学した際に類を好きになったとしたら、彼は帰国後類にそっくりな私に惹かれて告白し、付き合い、結婚したことになる。
それが事実なら、こんな惨めなことはない。
嫌だ、考えたくない……
美羽はガンガン痛む頭を堪え、これまでの義昭との歴史から否定要素を必死に引っ張り出した。
義昭さんは私と知り合う前にも女性と付き合っていたことはあるって言ってたし、私とセックスも出来てるんだから、ゲイであるはずがないじゃない!
それに、類に惹かれていたことが事実だったとしても、憧れのような気持ちだったかもしれない。私を好きになったきっかけが類にそっくりだったからにしても、何度も会ううちに私のことを本当に好きになって告白してくれたのかもしれないし。
けれど、また更にそれを否定しようとする考えが生み出されてしまう。
でも……もし、義昭さんがゲイではなくバイセクシャルだったとしたら? それなら、女性である私のことを抱くこともできる。
義昭さんが出会ってから結婚するまでの間に優しかったのは、私に類を重ねていたからで、結婚してから私が類ではないという事実を思い知って、冷たい態度をとるようになったんじゃ……
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類とは違うと分かった私には、もう用はないってこと?
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美羽はギュッと瞳を閉じ、頭から嫌な考えをなんとか追い出そうとした。
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