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56.帰国
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いよいよ日本への帰国日。類は義昭と美羽とは帰らず、遺産整理や家の売却等が終わってから日本に来ることになった。
空港まで見送りに来てくれた類は、薄手のベビーピンクのV字のサマーニットにシルバークロスのネックレスをつけ、黒のスキニーパンツにショートブーツを履いている。肌の白い中性的な顔立ちにピンクがよく映えていて、175センチと目立って背が高いわけではないのに、まるでモデルのような存在感がある。168センチの義昭と並ぶと細身のせいもあって随分類の背が高く見え、義昭は完全に類の引き立て役となっていた。
美羽はLA滞在中に購入したオフホワイトに赤と黄色とオレンジのドットが入ったフリルの七分袖のアンティーク風ドレスを着ていた。それは、義昭と類と食事をした帰りに通った店のショーウィンドーに飾られていて目に留まったもので、ちょっと派手かもしれないと思ったが、類の勧めもあって義昭が購入してくれたのだった。
類と美羽、そっくりな美しい容姿が並んでいると、たちまち周囲から驚きと羨望の視線が集まった。
「それじゃ、気をつけて帰ってね」
「あぁ。日本に来る日が決まったら、連絡してくれ」
ふたりの会話を聞きながら、美羽の心が泥のように沈んでいく。
類と一緒に帰らなくて済んだのはホッとしたけど、いつかは来ることになるんだ……
突然ギュッと抱き締められたと思ったら、小さな美羽は類の腕の中にすっぽりとおさまっていた。
もう何度も夫の前で抱き締められているけれど、10年ぶりの再会でもなく、父が亡くなったという悲しみや辛い過去を労わるためのものとは違うその状況に、戸惑いと焦燥が駆け巡る。
「ミュー、僕を受け入れてくれてありがとう」
「ッッ……」
受け、入れて……私は類を、受け入れてしまったの?
長い睫毛を震わせて瞳孔を大きくする美羽に類がクスッと笑い、顔を覗き込んだ。
「だーいじょうぶ。ヨシとの夫婦生活を邪魔するつもりはないから!」
「なっ……!!」
美羽は顔を真っ赤にした。
夫婦なんだからそういうことをするのは当たり前だと世間一般で思われていても、類には、類にだけは、義昭との情事を想像されたくなかった。
今すぐにでも大声で否定して、誤解を解きたい……
そう思っている自分を、強く認識させられてしまう。
「フフッ、じゃあね! 今度は日本で会おう」
類は美羽の両肩に手を置いてゆっくりと離れると、斜め後ろに立っていた義昭に手を振り、くるりと背を向けた。その瞬間、フワッと類の甘い香りが美羽の鼻腔を擽り、官能を掻き立てられる。
去っていく後ろ姿にすら色香を感じて、追いかけたくなる。
いつでも私の心を強く掻き乱すのは、類だけ……
類のピンクの背中を見送り、小さく息を吐いた。
「それじゃ、僕たちも行こうか」
事務的な義昭の言葉に美羽は頷き、スーツケースを手に航空会社のカウンターへと向かう。
時計を確認するフリをしてチラッと振り返ってみたが、もう類の姿はどこにも見えなかった。
空港まで見送りに来てくれた類は、薄手のベビーピンクのV字のサマーニットにシルバークロスのネックレスをつけ、黒のスキニーパンツにショートブーツを履いている。肌の白い中性的な顔立ちにピンクがよく映えていて、175センチと目立って背が高いわけではないのに、まるでモデルのような存在感がある。168センチの義昭と並ぶと細身のせいもあって随分類の背が高く見え、義昭は完全に類の引き立て役となっていた。
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類と美羽、そっくりな美しい容姿が並んでいると、たちまち周囲から驚きと羨望の視線が集まった。
「それじゃ、気をつけて帰ってね」
「あぁ。日本に来る日が決まったら、連絡してくれ」
ふたりの会話を聞きながら、美羽の心が泥のように沈んでいく。
類と一緒に帰らなくて済んだのはホッとしたけど、いつかは来ることになるんだ……
突然ギュッと抱き締められたと思ったら、小さな美羽は類の腕の中にすっぽりとおさまっていた。
もう何度も夫の前で抱き締められているけれど、10年ぶりの再会でもなく、父が亡くなったという悲しみや辛い過去を労わるためのものとは違うその状況に、戸惑いと焦燥が駆け巡る。
「ミュー、僕を受け入れてくれてありがとう」
「ッッ……」
受け、入れて……私は類を、受け入れてしまったの?
長い睫毛を震わせて瞳孔を大きくする美羽に類がクスッと笑い、顔を覗き込んだ。
「だーいじょうぶ。ヨシとの夫婦生活を邪魔するつもりはないから!」
「なっ……!!」
美羽は顔を真っ赤にした。
夫婦なんだからそういうことをするのは当たり前だと世間一般で思われていても、類には、類にだけは、義昭との情事を想像されたくなかった。
今すぐにでも大声で否定して、誤解を解きたい……
そう思っている自分を、強く認識させられてしまう。
「フフッ、じゃあね! 今度は日本で会おう」
類は美羽の両肩に手を置いてゆっくりと離れると、斜め後ろに立っていた義昭に手を振り、くるりと背を向けた。その瞬間、フワッと類の甘い香りが美羽の鼻腔を擽り、官能を掻き立てられる。
去っていく後ろ姿にすら色香を感じて、追いかけたくなる。
いつでも私の心を強く掻き乱すのは、類だけ……
類のピンクの背中を見送り、小さく息を吐いた。
「それじゃ、僕たちも行こうか」
事務的な義昭の言葉に美羽は頷き、スーツケースを手に航空会社のカウンターへと向かう。
時計を確認するフリをしてチラッと振り返ってみたが、もう類の姿はどこにも見えなかった。
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