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55.滾る欲情

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 それから4日間、義昭と美羽はLAのホテルに滞在した。

 類とは遺産相続のことでブラウン弁護士と共に毎日のように顔を合わせたが、あれから類の自宅に呼ばれることは一度もなく、毎回弁護士事務所で会っていた。義昭が類を観光に誘っても、まだ遺産整理が終わっていないからということで断られ、打ち合わせの後で夕食を共にしても、遅くまで引き止められるようなことはなかった。

 これからぐいぐい類に迫られるのでは……と心配していた美羽は、すっかり肩透かしをくらい、寂しい気分にすらなってしまった。

 それなら、アメリカでひとりで暮らしていけるんじゃ……

 そう感じたものの、会う度に日本に帰ったらこれを食べたいとか、ここに行きたいだとか嬉しそうに話す類は、すっかり日本に行く気になっていて、そんな彼に来て欲しくないなどとは言えなかった。

 食事の席で幼い頃の昔話で盛り上がっていると、類は純粋に弟として姉との同居を楽しみにしているかのように錯覚してしまいそうになる。

 何度類に会っても、未だに彼の真意や目的が読み取れない。

 ーーそれよりも問題なのは、自分自身の気持ちだった。

 たとえ類が、今は自分を姉として慕っているだけだとしても……美羽には、やはりどうしても割り切れない思いがあった。

 一緒にいれば、どうしたって意識してしまう。あの、恋人として過ごした濃密な時間を思い出してしまうのだ。

 甘い声が、伝わる吐息が、触れる指先が、向けられる視線が……肌をさざめかせ、細胞ひとつひとつがまるで眠りから醒めたかのように騒ぎ出す。

 長年抑え込んでいた類への気持ちがとめどなく溢れ出てきそうで恐かった。

 事実、レストランで食事をしている時も、隣に座っている義昭の存在などすっかり忘れ、気がつけば類ばかり見つめてしまっていた。懐かしい彼の声に、匂いに、自然と心が誘われる。その熱を辿りたくなる。

 類の美しい黒曜石の瞳を見つめ、なまめかしい視線の先に自分がいることに気がつくと、それだけで躰が熱くなり、下半身が疼いた。

 LAのホテルに滞在している間、義昭からはなんの誘いもなかった。ふたつ並んだベッドでそれぞれ思い思いに過ごし、眠くなったら自分のタイミングで眠りにつく。そのことを寂しく思う一方で、ホッとしている自分もいた。

 いや、本当に寂しく思っていたわけではない。寂しく思わなければいけないと自分に言い聞かせていたのだ。

 実際は、美羽の中で義昭とセックスすることに対しての嫌悪感、躰に触れて欲しくないという気持ちが、少しずつ高まっていた。

 類に再会したことで、退屈なセックスに満足しようとあざむいていた自分に嘘をつけなくなっている。あの快楽を、絶頂を再び味わいたいと、躰の深奥が訴えている。

 ダメ……そんなこと考えちゃ。
 もう、諦めたはずなのに……

 美羽は枕に突っ伏し、たぎる欲情を必死に抑えた。

 こんな状態で義昭との夫婦関係を続けていけるのか、類が同居することになったらどうなってしまうのか、不安と恐怖で押し潰されそうだった。
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