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48.話し合い
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シャワーを浴び終えてからも暫く部屋に籠もっていたものの、ずっと逃げ続けることなど出来ない。鬱々とした気持ちで階段を下りていくと、美羽は妙な違和感を覚えた。
それは、先ほどまであったソファがなくなっているせいだと気づき、ゾッとする。ガラス窓越しに庭を見ると、乱暴にソファが打ち捨てられていた。
言葉にせずとも、そこにふたりの行為に対する非難と嫌悪感を嫌という程感じ、美羽の心は一層重くなった。
目が痛み、息苦しくなりコンコンと咳が出る。華江が神経質に消臭スプレーを部屋中に撒いていて、その匂いが充満していた。
「美羽、ここに座りなさい。華江もここへ」
宏典に声を掛けられ、美羽は小さく頷くとゆっくりとダイニングテーブルへと向かった。
キッチンに脱ぎ捨てたパンティーがゴミ箱に捨てられているのを見て、心臓がドクリと嫌な音を立てる。シャワーを浴びてさっぱりしたはずなのに、自分がまだ汚れている気持ちになり、頸から、背中から、脂汗が出てくる。
キッチンにはカレーと消臭剤の匂いが混じり合った臭いが漂い、食欲をそそるどころか吐き気さえ覚えた。だが、たとえカレーの匂いだけがしていたとしても、今の美羽にはもう食欲など感じられなかった。
どこに座ろうか迷い、少し躊躇ったものの、類の隣に腰掛ける。
類は顔を上げ、少し引き攣った笑顔を美羽に見せて安心させるように背中を撫でてくれた。いつもなら何気無いそんな行為も、ふたりの関係が暴かれた今、居心地の悪いものになっていた。
続いて華江も宏典の隣に腰掛け、見せつけるようにして消臭スプレーをテーブルの上にドンッと置いた。
家にいる時ですら完璧にメイクし、おしゃれを怠らない華江が、涙でマスカラが落ちて目の周りが真っ黒になり、ファンデーションも崩れ、口紅もとれ、髪が乱れ、一気に10年も20年も年をとってしまったように見えた。
4人揃ってダイニングテーブルで顔を突き合わせている状況が耐えられず、美羽は全身を震わせた。
これからどんなに恐ろしい審判が下るのかと思うと、逃げ出したくて仕方ない。
けれど、宏典の視線が真っ直ぐに美羽を捉え、それをさせない。
「いつからふたりは……そういう関係に、なったんだ」
静かだけれど重く響く宏典の声に、グッと美羽は喉を詰まらせた。
類が手を組んで腕を真っ直ぐに前方に伸ばしてから緩め、肩をリラックスさせてから答えた。
「そういう関係ってどういう関係? 恋人って意味? それとも、セックスするようになってからってこと?」
あまりに直接的な表現に、美羽はますます縮こまった。髪を完全に乾かしていなかったせいだろうか、寒気がする。まだ熱気に躰が包まれているはずなのに、震えが止まらない。歯がガチガチ鳴る。
宏典はテーブルの上で強く拳を握り締めて震わせ、大きく息を吐き出した。
冷静にならなくては……
この状況で、家族の絆を取り戻せるかは俺にかかっているんだ。類の言動に感情を惑わされてはいけない。
とはいえ、心の中では激しく動揺していた。
宏典はふたりが幼い頃から仕事に追われ、プライベートな時間をあまり過ごすことがなく、育児はほとんど妻の華江に任せきりだった。
だからといって、子供たちに対して愛情がなかったわけではない。愛する妻の華江にそっくりな類と美羽は、本当に自分の子供だろうかという気持ちにさせられるぐらいに可愛く、愛おしい存在だった。
華江は宏典が今までに付き合っただけでなく、自分の人生で出会った全ての女性の中で群を抜いて美しく、魅力的な女性だった。
華やかで多くの男性を虜にする外見で受付嬢をしていた華江が、内向的で口下手で女性経験が少ない研究者である自分に振り向いてくれるはずなどないと諦めていたが、宏典の研究が会社で認められて特許を取得し、その披露パーティーの際に華江から声を掛けられ、付き合いが始まったのだった。
ずっと憧れていた華江を妻にし、その妻とそっくりの子供が二人も生まれ、幸福を感じていた。
そんな彼らに何不自由ない生活を与えてやるのが自分の使命だと、仕事に打ち込んできた。たまに休みがあって子供と過ごす時にはどこかに連れて行ってやることもあったし、誕生日やクリスマスのプレゼントだって、子供たちが大きくなってからですら、欠かしたことがない。
宏典は、父親として十分な役目を果たしてきたつもりだった。
今まで性的な話を子供としたことはないし、風呂に一緒に入ったこともない。だが、自分だって父親とそんな話をしたことなどなかったし、それ相応の年齢になれば、そういった知識は自然と身についていくものだと思っていた。
姉弟間の姦通をしてはならないなど、口にするのもおこがましいほどに常識だ。
宏典はそんな事態になるなど、露ほども思っていなかった。
それは、先ほどまであったソファがなくなっているせいだと気づき、ゾッとする。ガラス窓越しに庭を見ると、乱暴にソファが打ち捨てられていた。
言葉にせずとも、そこにふたりの行為に対する非難と嫌悪感を嫌という程感じ、美羽の心は一層重くなった。
目が痛み、息苦しくなりコンコンと咳が出る。華江が神経質に消臭スプレーを部屋中に撒いていて、その匂いが充満していた。
「美羽、ここに座りなさい。華江もここへ」
宏典に声を掛けられ、美羽は小さく頷くとゆっくりとダイニングテーブルへと向かった。
キッチンに脱ぎ捨てたパンティーがゴミ箱に捨てられているのを見て、心臓がドクリと嫌な音を立てる。シャワーを浴びてさっぱりしたはずなのに、自分がまだ汚れている気持ちになり、頸から、背中から、脂汗が出てくる。
キッチンにはカレーと消臭剤の匂いが混じり合った臭いが漂い、食欲をそそるどころか吐き気さえ覚えた。だが、たとえカレーの匂いだけがしていたとしても、今の美羽にはもう食欲など感じられなかった。
どこに座ろうか迷い、少し躊躇ったものの、類の隣に腰掛ける。
類は顔を上げ、少し引き攣った笑顔を美羽に見せて安心させるように背中を撫でてくれた。いつもなら何気無いそんな行為も、ふたりの関係が暴かれた今、居心地の悪いものになっていた。
続いて華江も宏典の隣に腰掛け、見せつけるようにして消臭スプレーをテーブルの上にドンッと置いた。
家にいる時ですら完璧にメイクし、おしゃれを怠らない華江が、涙でマスカラが落ちて目の周りが真っ黒になり、ファンデーションも崩れ、口紅もとれ、髪が乱れ、一気に10年も20年も年をとってしまったように見えた。
4人揃ってダイニングテーブルで顔を突き合わせている状況が耐えられず、美羽は全身を震わせた。
これからどんなに恐ろしい審判が下るのかと思うと、逃げ出したくて仕方ない。
けれど、宏典の視線が真っ直ぐに美羽を捉え、それをさせない。
「いつからふたりは……そういう関係に、なったんだ」
静かだけれど重く響く宏典の声に、グッと美羽は喉を詰まらせた。
類が手を組んで腕を真っ直ぐに前方に伸ばしてから緩め、肩をリラックスさせてから答えた。
「そういう関係ってどういう関係? 恋人って意味? それとも、セックスするようになってからってこと?」
あまりに直接的な表現に、美羽はますます縮こまった。髪を完全に乾かしていなかったせいだろうか、寒気がする。まだ熱気に躰が包まれているはずなのに、震えが止まらない。歯がガチガチ鳴る。
宏典はテーブルの上で強く拳を握り締めて震わせ、大きく息を吐き出した。
冷静にならなくては……
この状況で、家族の絆を取り戻せるかは俺にかかっているんだ。類の言動に感情を惑わされてはいけない。
とはいえ、心の中では激しく動揺していた。
宏典はふたりが幼い頃から仕事に追われ、プライベートな時間をあまり過ごすことがなく、育児はほとんど妻の華江に任せきりだった。
だからといって、子供たちに対して愛情がなかったわけではない。愛する妻の華江にそっくりな類と美羽は、本当に自分の子供だろうかという気持ちにさせられるぐらいに可愛く、愛おしい存在だった。
華江は宏典が今までに付き合っただけでなく、自分の人生で出会った全ての女性の中で群を抜いて美しく、魅力的な女性だった。
華やかで多くの男性を虜にする外見で受付嬢をしていた華江が、内向的で口下手で女性経験が少ない研究者である自分に振り向いてくれるはずなどないと諦めていたが、宏典の研究が会社で認められて特許を取得し、その披露パーティーの際に華江から声を掛けられ、付き合いが始まったのだった。
ずっと憧れていた華江を妻にし、その妻とそっくりの子供が二人も生まれ、幸福を感じていた。
そんな彼らに何不自由ない生活を与えてやるのが自分の使命だと、仕事に打ち込んできた。たまに休みがあって子供と過ごす時にはどこかに連れて行ってやることもあったし、誕生日やクリスマスのプレゼントだって、子供たちが大きくなってからですら、欠かしたことがない。
宏典は、父親として十分な役目を果たしてきたつもりだった。
今まで性的な話を子供としたことはないし、風呂に一緒に入ったこともない。だが、自分だって父親とそんな話をしたことなどなかったし、それ相応の年齢になれば、そういった知識は自然と身についていくものだと思っていた。
姉弟間の姦通をしてはならないなど、口にするのもおこがましいほどに常識だ。
宏典はそんな事態になるなど、露ほども思っていなかった。
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