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34.あの日の過ちー6

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 甘えるだけ甘えて、こちらが困るのにも構わず悪戯してきて、いつでも美羽の心を掻き乱す猫のような類。マイペースでワガママなのに愛おしくて、甘えられると胸がキュンと疼いて、どんな頼みでも聞いてしまいたくなる。

 ダメだと思いながらも、美羽にはもう否定することは出来なかった。

「絶対に……誰にも見せないでね。類、だから……許すんだよ?」
「ミュー、ありがとう。大好きだよ」

 頬にキスされて、擽ったくなる。愛おしい気持ちが溢れてきて、自分は類が好きなのだと、とことん自覚させられてしまう。

「ねぇ、ミュー。ミューも僕にして欲しいこと言って? どんなワガママでも聞いてあげるから」

 類の舌が美羽の首筋を舐め、ゾクゾクと快感が立ち上る。

 あれほど恥ずかしいと感じていたはずなのに、美羽は今度は自らスカートを捲り上げ、頬を紅潮させて類を見つめた。

「お、願い……これ以上、焦らさないで」

 こうすれば、類が自分に欲情せずにはいられないと知っているから。

 いつもそう。嵌められたつもりで、嵌めている。お互いのことを知り尽くしているからこそ、互いの欲情を最大に引き出す方法で誘いたくなる。

 類の背筋にゾクリと震えが走った。

「欲情に濡れたミューの顔、すっごくそそられる……
 学校じゃ『クールビューティー』って呼ばれてるミューが、こんなに淫乱だなんて、誰も知らないんだろうね」

 『淫乱』と呼ばれて全身がドクドクと熱くなる。

 学校で美羽が『クールビューティー』と男子から呼ばれるようになったのは、類のせいだ。

 高校に入って知り合いが誰もいない美羽は、男女分け隔てなく友達が作りたかったのに……

『ねぇ、ミューが男に笑顔を振りまいたら、僕、嫉妬で我を忘れて……僕たちが本当はどんな関係にあるのか、喋っちゃうかもしれないよ? だから、ね……僕以外の男にはたとえ教師でも笑顔を見せないで。約束だよ?』

 類から一方的に押し付けられた約束を、美羽は律儀に守っている。

 けれどそれは、美羽にとって寧ろ快感だった。学校にいても、彼が側にいなくても、視線が届かなくてすら……類に束縛されている。独占されている。

 見えない、甘い鎖。

 クラスメート達が二人の関係を知ったらどうなるのだろう。学校では男性に対して無関心を装ってる自分が、家ではこんなにも激しく深く類を求めていることを知ったら。乳房を曝け出し、スカートを捲り上げ、弟に欲情する自分は狂ってる……

 ゾクゾクと震えるのは背徳感からなのか、快感からなのか。

「淫乱な女は、嫌い?」

 長い睫毛を揺らし、アーモンド型の瞳を潤ませ、頬を紅潮させる。

 類が目を細め、片側の口角を僅かにあげた。

「淫乱な女は嫌いだよ。女はみんな、嫌いだ」

 類は嫌悪の表情を浮かべた。

「表でいい顔しときながら裏で陰口叩いたり、友達だとか言いながら平気で裏切ったり、力ある癖に頼りない女を演じたり、ブスな癖に可愛い子ぶったり、それではっきり言ってやると泣き出して、集団で罵ってきて厄介だし」

 幼稚園から小学校低学年にかけて、類は女みたいな顔だと虐められていた。

 それが中学年から高学年になるにつれてだんだん『かっこいい』と認識されるようになり、中学では持て囃されるようになっていた。

 二人の仲が噂されるようになったのは、類を好きな女子からのやっかみが元々の原因でもあった。なぜなら、類は女子から告白される度に『君みたいなブス、興味ないんだよね』とか『ねぇ、鏡見たことあるの?』とか『僕に告白できるレベルだと思ってるの?』とか返すので、恐ろしくて誰も類に告白できなくなり、行き場を失った怒りがそこへ向かったからだった。

 高校でも類の口の悪さは健在で、美羽の『クールビューティー』に対し、類は『鬼畜王子』と密かに呼ばれていた。類が陰口を叩かれているのを聞くと胸が痛くなるけれど、他の女子と仲良くしているのを見るよりは、ずっといい。

『女はみんな、嫌いだ』という言葉に、美羽は傷付いた表情を浮かべる。

「ねぇ、私のこともそう思ってるの? だって……私だって女だよ」
 
 お願い。嫌わないで……
 類に嫌われたら私、どうしていいか分からない。
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