【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

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29.あの日の過ちー1

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「もう、類ってば! そんなにくっついたら料理出来ないよ」
「だって、学校ではこんなこと出来ないから。ミューと片時も離れたくない」

 父のアメリカ出張に母が伴って1週間不在となり、学校から帰った美羽は母の代わりにキッチンに立っていたが、類に後ろから抱き付かれて包丁を持つ手を止め、困ったように振り向いた。

「類がお腹空いたって騒ぐから、すぐに夕飯作ろうとしてるのに。だったら、類も手伝ってよ」
「ふふっ、いいよ。そしたらもっと二人で一緒にいられる時間があるもんね」

 類は美羽の腰に回していた手を離すと、横に立った。

「何すればいい?」
「じゃ、にんじん切ってくれる? あ、このぐらいの大きさね」

 目を離すと適当に切ってしまう類のため、見本のにんじんを切るともう一枚のまな板を類の手前に置き、その上に載せた。見た目はそっくりなのに、性格は全然違う。類の自由奔放さが美羽には眩しく、羨ましく思う。だからこそ、こんなに強く惹かれるのかもしれない。

「はーい」
「もうっ、類。ちゃんとやってね」

 肉と野菜が柔らかくなってきたのを確認して一旦火を止めてカレールーを入れ、かき混ぜる。その途端、食欲をそそるスパイスの香りが辺り一面に広がっていく。早く作らなくてはと制服にエプロンをかけて料理してしまったことを後悔する。明日は学校にいても、カレーの匂いに悩まされそうだ。

「こうしてるとさ、なんか新婚夫婦みたいじゃない?」

 類が甘えて肩に寄りかかってきて、美羽は口角を上げて微笑んだ。

「そう、だね……」

 目の前には、透き通るような肌理《きめ》の細かい白い肌に、艶のある濡羽色《ぬればいろ》の少し長めの前髪を揺らし、零れそうな程に大きなアーモンド型の黒曜石の猫目の瞳、ほんのりと色づいたピンクの頬、それよりももっと紅く濡れた艶のあるふっくらとした唇の、人形のように美しく均整のとれた顔立ちがあった。

 それは、自分が最もよく見ている顔そのものだった。

 まるで鏡に向かって答えているかのよう。
 でも、私たちは別々の人間。双子の、姉弟なんだ。



 ーー当然、この関係が赦されないものだとは知っている。罪悪感だって、背徳心だって、ある。



 幼稚園から小学校低学年までは、ずっと二人で一緒に行動していても、何か言われたり、怪しまれることはなかった。

 それが中学年から高学年へと上がるにつれて、二人が一緒に登下校し、休み時間の度に類が美羽の元を訪れ、手を握ったり、肩を抱くことについて、友人に指摘されたり、クラスメートから揶揄われるようになった。

 中学に入ると、表だっては言われないものの、二人が実は恋人同士なのではないかと影でこそこそ噂話され、二人でいる度に周りからの視線が突き刺さるようになった。美羽と類は一人でいても人目を惹く容姿をしているのに、そんな同じ顔が男女でいちゃついているのだから、噂にならないはずがない。

 そんな思いをしないよう、高校は知り合いのいない難関である私立の中高一貫校を受験し、類と違う高校に行くことを美羽は考えていた。

 けれど、類はそれを知ると自分も同じ高校に行くと言い出した。美羽は二人が一緒にいれば、また秘密の関係を疑われることを説明し、説得しようとしたが、類は離れ離れになることは耐えられないと訴え、同じように感じていた美羽には類をそれ以上拒否することは出来ず、二人揃って合格したのだった。

 そこで美羽は、二人が同じ学校に通う条件として、必要な時以外は接触しないよう、話しかけないようにお願いし、節度ある『普通の姉弟』しての態度を守るようにし、誰にも秘密の関係を悟られないようにしていた。

 類への思いが深まれば深まるほど、この禁断の関係が露呈したらどうしようという不安が大きくなる。

 学校で類とすれ違っても軽く挨拶することしか出来ず、他の友達、ましてや自分以外の女子と類が話しているのを見ると辛くなる。

 けれど、この関係を守る為には必要なことなのだ。それに、家に帰れば愛する人との愛しい時間が待っているのだと思えば堪えられる。

 誰になんと言われても、類を愛する感情は止められない。止める術を、知らないのだ。類は美羽にとって、恋人よりも深い感情で結ばれており、躰の一部、自分自身でもあるのだから。
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