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26.父との過去
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「こ、んなの……ありえないよ。
お父さんは類と一緒に住んでたんだから、遺産を相続する権利は類にある。私は、受け取れない……」
お父さんがそんな遺言書を遺していたことを知っていたら、絶対にアメリカには来なかった……
こんな形で類を傷つけてしまったことに、美羽自身も深く傷ついていた。
隣に座っていた類が美羽の腕にそっと触れ、弱々しく微笑む。
「ミュー、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
でも、いいんだ。これは、父さんの遺志だから……」
それは、幼稚園の時に虐められていた類が、自分を心配させまいとした表情そのものだった。
一気に父への不信感と怒りがフツフツと湧き上がり、美羽は声を荒げた。
「そんなの間違ってる! 本当にこの遺言書はお父さんが書いたものなの!? お父さんがそんなこと言うなんて、信じられない……
ブラウン弁護士! 遺産は遺言書通りにしないといけないんですか!?」
美羽はブラウン弁護士に食ってかかるように、身を乗り出した。
義昭は見たこともない感情的な美羽の様子に戸惑いつつも、ブラウン弁護士に美羽の言葉を伝えた。さすがブラウン弁護士は、こういった状況に慣れているのか、しごく冷静に返答した。
「ルイは法定相続人として認められているから、例え遺言書があったとしても、美羽が承諾し、ルイを相続人として認めるということであれば、遺言書の内容に関わらず遺産分割することが出来るそうだ」
良かった……
それを聞き、美羽は安堵の息を漏らした。
美羽は遺産は全て類が受け取るべきだと主張したが、ブラウン弁護士はこういったケースでどちらか一方だけ遺産を受け取ることにすると後々トラブルになる可能性があり、遺産相続後に財産分与することになった場合、遺産とは違い贈与税が発生すると説明した。
父の両親は既に他界し、兄弟もいないので、遺産は彼の子供である類と美羽が半分ずつ受け取るのが妥当だろうという彼のアドバイスを聞き、義昭の勧めもあって美羽はそれに従うことにした。類はそれに異論も反論もすることはなかった。
ブラウン弁護士は自分の仕事をこなすべく淡々と書類を読み上げ、今後どうすればいいかについて話をして帰っていった。その間、義昭が話の要点をメモしてくれていた。
だが、類は肩を落としたまま、聞いているのかいないのか分からないような虚ろな表情で目が据わっていた。そんな彼の様子に気持ちが重くなり、美羽は深い溜息を吐いた。
重苦しい空気の中、美羽は『ホテルに帰りたい』と言い出すきっかけを見つけられず、沈黙した。テーブルに置かれた書類は誰も目を通すことなく、時計が針を刻む音だけが静かに響いている。
今は、類の気持ちが落ち着くまでここにいよう……
「ルイ……お父さんとの間に、何かあったのか?」
沈黙を破り、義昭が切り込んだ質問をした。美羽の肌に、ピリピリと刺すような痛みを感じる。
「義昭さん……」
「済まない。家族の問題だとは分かっているが、こうして再会出来たのも何かの縁だ。それにもう、他人じゃない。僕は……少しでもルイの助けになれたらと思うんだ」
膝の上で両手を組み合わせた義昭の眼差しは真剣だった。類が、ゆっくりと顔を上げる。その儚く悲しげな表情にグッと胸を突かれ、美羽は思わず抱き締めたい衝動に駆られた。
類が切ない笑みを義昭に向けた。
「ヨシ、ありがとう。
そう、だね……僕たちはもう、他人じゃない。ヨシにだって、知る権利があるよね」
類が立ち上がる。
「僕と父さんに何があったのか、教えてあげる……」
リビングルームの先、地下に続く階段を下り始める。義昭も立ち上がり、ゆっくりと類に続いた。
「美羽」
義昭に促され、美羽は立ち上がるものの、膝がわなないていた。一歩一歩引き摺るようにして階段へと向かう。
階上から見下ろすと、類が地下の扉に手をかけ鍵穴に鍵を挿している。その後ろには、義昭が立っていた。
ガチャリと音がして類が扉を開けた途端、「ウッ……」と義昭の低い呻き声が漏れた。美羽の心臓がビクンと跳ね上がる。
階下に、何があるの!?
お父さんは類と一緒に住んでたんだから、遺産を相続する権利は類にある。私は、受け取れない……」
お父さんがそんな遺言書を遺していたことを知っていたら、絶対にアメリカには来なかった……
こんな形で類を傷つけてしまったことに、美羽自身も深く傷ついていた。
隣に座っていた類が美羽の腕にそっと触れ、弱々しく微笑む。
「ミュー、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
でも、いいんだ。これは、父さんの遺志だから……」
それは、幼稚園の時に虐められていた類が、自分を心配させまいとした表情そのものだった。
一気に父への不信感と怒りがフツフツと湧き上がり、美羽は声を荒げた。
「そんなの間違ってる! 本当にこの遺言書はお父さんが書いたものなの!? お父さんがそんなこと言うなんて、信じられない……
ブラウン弁護士! 遺産は遺言書通りにしないといけないんですか!?」
美羽はブラウン弁護士に食ってかかるように、身を乗り出した。
義昭は見たこともない感情的な美羽の様子に戸惑いつつも、ブラウン弁護士に美羽の言葉を伝えた。さすがブラウン弁護士は、こういった状況に慣れているのか、しごく冷静に返答した。
「ルイは法定相続人として認められているから、例え遺言書があったとしても、美羽が承諾し、ルイを相続人として認めるということであれば、遺言書の内容に関わらず遺産分割することが出来るそうだ」
良かった……
それを聞き、美羽は安堵の息を漏らした。
美羽は遺産は全て類が受け取るべきだと主張したが、ブラウン弁護士はこういったケースでどちらか一方だけ遺産を受け取ることにすると後々トラブルになる可能性があり、遺産相続後に財産分与することになった場合、遺産とは違い贈与税が発生すると説明した。
父の両親は既に他界し、兄弟もいないので、遺産は彼の子供である類と美羽が半分ずつ受け取るのが妥当だろうという彼のアドバイスを聞き、義昭の勧めもあって美羽はそれに従うことにした。類はそれに異論も反論もすることはなかった。
ブラウン弁護士は自分の仕事をこなすべく淡々と書類を読み上げ、今後どうすればいいかについて話をして帰っていった。その間、義昭が話の要点をメモしてくれていた。
だが、類は肩を落としたまま、聞いているのかいないのか分からないような虚ろな表情で目が据わっていた。そんな彼の様子に気持ちが重くなり、美羽は深い溜息を吐いた。
重苦しい空気の中、美羽は『ホテルに帰りたい』と言い出すきっかけを見つけられず、沈黙した。テーブルに置かれた書類は誰も目を通すことなく、時計が針を刻む音だけが静かに響いている。
今は、類の気持ちが落ち着くまでここにいよう……
「ルイ……お父さんとの間に、何かあったのか?」
沈黙を破り、義昭が切り込んだ質問をした。美羽の肌に、ピリピリと刺すような痛みを感じる。
「義昭さん……」
「済まない。家族の問題だとは分かっているが、こうして再会出来たのも何かの縁だ。それにもう、他人じゃない。僕は……少しでもルイの助けになれたらと思うんだ」
膝の上で両手を組み合わせた義昭の眼差しは真剣だった。類が、ゆっくりと顔を上げる。その儚く悲しげな表情にグッと胸を突かれ、美羽は思わず抱き締めたい衝動に駆られた。
類が切ない笑みを義昭に向けた。
「ヨシ、ありがとう。
そう、だね……僕たちはもう、他人じゃない。ヨシにだって、知る権利があるよね」
類が立ち上がる。
「僕と父さんに何があったのか、教えてあげる……」
リビングルームの先、地下に続く階段を下り始める。義昭も立ち上がり、ゆっくりと類に続いた。
「美羽」
義昭に促され、美羽は立ち上がるものの、膝がわなないていた。一歩一歩引き摺るようにして階段へと向かう。
階上から見下ろすと、類が地下の扉に手をかけ鍵穴に鍵を挿している。その後ろには、義昭が立っていた。
ガチャリと音がして類が扉を開けた途端、「ウッ……」と義昭の低い呻き声が漏れた。美羽の心臓がビクンと跳ね上がる。
階下に、何があるの!?
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