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24.妻と友人
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「もし辛かったら、座っててもいいよ」
類は美羽を促すように、ダイニングテーブルの椅子を引いた。
「い、いい……大丈夫、だから」
制するように、美羽は薄力粉とベーキングパウダーを持って調理台へと運んだ。
美羽が怪我をしたり、病気になると、一番始めに気がつくのはいつだって類だった。初潮を迎えた時も……それに気がついて、労ってくれた。
裸を見られるよりも更に深く、類には自分の躰を知り尽くされている。それを今、痛感する。
類がバターを切り、ガラス容器に入れる。
「バターは溶かすの面倒だから、レンジでいいよね。あ、薄力粉をボウルに入れたら卵と牛乳も入れて」
薄力粉の袋を開けた美羽は、きょろきょろと目を動かし、棚を下から順に開けていった。
「ねぇ、計量器と計量カップは?」
「いつも目分量で入れてる」
「えっ、薄力粉も?」
「うん。ガバッてボウルに開けてる」
美羽の表情が綻んだ。
「フフッ……類ってば、相変わらず適当なんだから」
「でも、いっつもちゃんと食べれてるから大丈夫」
変わらない類の性格が嬉しく思える。
こんな風に一緒にワッフルを作っていると幼かった頃の楽しい思い出ばかりが蘇ってきて、このまま仲のいい姉弟に戻れるんじゃないかとそんな気にまでなってしまう。
ねぇ、類?
昨夜のこと……あれは、夢だったって思っていいんだよね?
ワッフルが焼きあがった頃、義昭が下りてきた。
「じゃ、朝ごはんにしようか。もうブランチになっちゃうけど」
「ルイ、済まないな。食事まで用意させて」
義昭の言葉に、美羽の心に影が差す。付き合い当初の頃は、そんな気遣いを見せてくれていたが、結婚してからは義昭から感謝の気持ちなど聞いたことがなかった。
妻と友達じゃ、立場が違うんだもの。当然、だよね……
美羽は自分を納得させ、テーブルについた。目の前の大きな平皿の上には焼きたてのふわふわのワッフルが2枚載っていて、ホイップクリームとイチゴとブラックベリーが添えられ、粉糖が掛かっている。側にはアンティークの白い陶磁器のミルクピッチャーが置かれていて、中にはメープルシロップが入っていた。
インスタ映えしそうな可愛らしい見た目とほんわかと漂う甘い匂いに一気に食欲がそそられ、幸せな気分になる。
「はいミュー、カモミールティー。ヨシはコーヒーでいい?」
義昭の前にコーヒーカップが置かれ、慌てて美羽が類を見上げる。
「あ、あの義昭さんは……」
『朝はアールグレイティーじゃないと……』という言葉は、義昭の「あぁ、ありがとう」という言葉によって飲み込まれた。
「このワッフル、美味しいな。ルイが作ったのか?」
「ミューも手伝ったよ。ね?」
「う、うん……」
以前、たまには気分を変えてと朝食にコーヒーを出したら、義昭は口をつけることなくコーヒーカップを手にしたまま、アールグレイティーが用意されるまでじっと見つめていた。美羽の心が重く沈む。
私以外の人なら許せるし、こんなに笑顔で話すのね……
類は美羽を促すように、ダイニングテーブルの椅子を引いた。
「い、いい……大丈夫、だから」
制するように、美羽は薄力粉とベーキングパウダーを持って調理台へと運んだ。
美羽が怪我をしたり、病気になると、一番始めに気がつくのはいつだって類だった。初潮を迎えた時も……それに気がついて、労ってくれた。
裸を見られるよりも更に深く、類には自分の躰を知り尽くされている。それを今、痛感する。
類がバターを切り、ガラス容器に入れる。
「バターは溶かすの面倒だから、レンジでいいよね。あ、薄力粉をボウルに入れたら卵と牛乳も入れて」
薄力粉の袋を開けた美羽は、きょろきょろと目を動かし、棚を下から順に開けていった。
「ねぇ、計量器と計量カップは?」
「いつも目分量で入れてる」
「えっ、薄力粉も?」
「うん。ガバッてボウルに開けてる」
美羽の表情が綻んだ。
「フフッ……類ってば、相変わらず適当なんだから」
「でも、いっつもちゃんと食べれてるから大丈夫」
変わらない類の性格が嬉しく思える。
こんな風に一緒にワッフルを作っていると幼かった頃の楽しい思い出ばかりが蘇ってきて、このまま仲のいい姉弟に戻れるんじゃないかとそんな気にまでなってしまう。
ねぇ、類?
昨夜のこと……あれは、夢だったって思っていいんだよね?
ワッフルが焼きあがった頃、義昭が下りてきた。
「じゃ、朝ごはんにしようか。もうブランチになっちゃうけど」
「ルイ、済まないな。食事まで用意させて」
義昭の言葉に、美羽の心に影が差す。付き合い当初の頃は、そんな気遣いを見せてくれていたが、結婚してからは義昭から感謝の気持ちなど聞いたことがなかった。
妻と友達じゃ、立場が違うんだもの。当然、だよね……
美羽は自分を納得させ、テーブルについた。目の前の大きな平皿の上には焼きたてのふわふわのワッフルが2枚載っていて、ホイップクリームとイチゴとブラックベリーが添えられ、粉糖が掛かっている。側にはアンティークの白い陶磁器のミルクピッチャーが置かれていて、中にはメープルシロップが入っていた。
インスタ映えしそうな可愛らしい見た目とほんわかと漂う甘い匂いに一気に食欲がそそられ、幸せな気分になる。
「はいミュー、カモミールティー。ヨシはコーヒーでいい?」
義昭の前にコーヒーカップが置かれ、慌てて美羽が類を見上げる。
「あ、あの義昭さんは……」
『朝はアールグレイティーじゃないと……』という言葉は、義昭の「あぁ、ありがとう」という言葉によって飲み込まれた。
「このワッフル、美味しいな。ルイが作ったのか?」
「ミューも手伝ったよ。ね?」
「う、うん……」
以前、たまには気分を変えてと朝食にコーヒーを出したら、義昭は口をつけることなくコーヒーカップを手にしたまま、アールグレイティーが用意されるまでじっと見つめていた。美羽の心が重く沈む。
私以外の人なら許せるし、こんなに笑顔で話すのね……
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