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12.申し出
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最後に類が喪主としての挨拶をした。さすが長年アメリカに暮らしているだけあってすらすらと英語でスピーチをしていて、先ほど控室で会った時とは比べものにならないほどしっかりした印象があった。それは、喪主としての責任をこなすためにそうしているのか、控室の態度が演技だったのか、美羽には分かり兼ねた。
類のスピーチが終わると係から案内があり、皆がぞろぞろと立ち上がり、出口へと向かう。
「これから、埋葬が行われるそうだ」
義昭の言葉に頷いた。
葬儀場を出ると、建物の背後にメモリアルパークと呼ばれる集団墓地が広がっていた。そこに、父の棺が埋葬されるらしい。
案内された先には、既にその区画の土が掘り起こされていた。改めて参列者を見渡してみると、喪服を着ているのは遺族である自分たち3人だけで、他はフォーマルな服装ではあるものの、色味を抑えたスーツやワンピースといった装いで、昔見た映画の光景とは随分異なる印象を受けた。
ガガガーッと音が響いてきて振り返ると、墓地の芝生の上を小型のクレーン車が走ってきた。クレーンが石の箱の蓋を穴の中に降ろし、棺が箱の中に密封される。牧師が祈りの言葉を捧げ、参列者がそれぞれにお別れを告げた。
墓石に刻まれた『R.I.P』、「Requiescat in Peace=安らかに眠れ」の言葉。父は果たして、安らかに眠りにつくことが出来るのだろうかという想いが、美羽の胸を過ぎった。
今、お父さんは私と類の再会をどこかで見ているの? どんな思いでいるの? 私たちのせいで、お母さんと離婚したことを恨んでる?
ごめんなさい……ごめんなさい、お父さん……
埋葬が終わると、葬儀場へ戻る。
このまま直接帰る者もいるが、この後はケータリングが用意されており、皆で食事を食べながら故人を悼むとのことだった。長テーブルにはピザやハンバーガー、フィンガーフード等が並び、お酒も用意されていたが、空腹のはずなのに美羽はとても飲食する気になれず、ペットボトルの水だけを手に取った。
類が美羽と義昭を連れ、参列者たちにふたりを紹介してくれた。
参列者たちの多くは父の仕事関係の人間だった。皆が皆、類と美羽があまりにも容姿が似ていることと、娘がいることを言及したことがなかったため、その事実に驚いているようだった。その度に美羽は微笑みながら軽くお辞儀をしつつも、会話に入ることが出来ず、居心地の悪さを感じてストレスが募っていった。
一通り挨拶が終わったところで、美羽は決心して類に話しかけた。
「類……申し訳ないんだけど、ロングフライトでそのまま葬儀場に来たし、疲れてるの。今日はもう、ホテルに帰ってもいいかな?」
そう言いつつ、明日以降、類に会うことはもうないと決めていた。
「じゃ、送るよ」
「え、いいよ! 類は喪主だし、ここにいてあげて」
「大丈夫、大丈夫。あとは勝手にみんな帰るだけだから。せっかく会ったんだから、それぐらいさせて」
断固として断ろうと決めていたにも関わらず、類はもう既に皆に別れの言葉を告げ、先頭を切って歩いていた。
「ちょ、ちょっと類……」
「いいじゃないか、美羽。せっかくルイがそう言ってくれてるんだから、好意に甘えよう」
義昭は、もう類の車に乗る気だった。美羽は肩を落とし、ふたりの後ろを歩いた。
ホテルに着くまでの間だけ……そうしたら、もう類とはお別れ。
今後は、二度と会うことはない……
類のスピーチが終わると係から案内があり、皆がぞろぞろと立ち上がり、出口へと向かう。
「これから、埋葬が行われるそうだ」
義昭の言葉に頷いた。
葬儀場を出ると、建物の背後にメモリアルパークと呼ばれる集団墓地が広がっていた。そこに、父の棺が埋葬されるらしい。
案内された先には、既にその区画の土が掘り起こされていた。改めて参列者を見渡してみると、喪服を着ているのは遺族である自分たち3人だけで、他はフォーマルな服装ではあるものの、色味を抑えたスーツやワンピースといった装いで、昔見た映画の光景とは随分異なる印象を受けた。
ガガガーッと音が響いてきて振り返ると、墓地の芝生の上を小型のクレーン車が走ってきた。クレーンが石の箱の蓋を穴の中に降ろし、棺が箱の中に密封される。牧師が祈りの言葉を捧げ、参列者がそれぞれにお別れを告げた。
墓石に刻まれた『R.I.P』、「Requiescat in Peace=安らかに眠れ」の言葉。父は果たして、安らかに眠りにつくことが出来るのだろうかという想いが、美羽の胸を過ぎった。
今、お父さんは私と類の再会をどこかで見ているの? どんな思いでいるの? 私たちのせいで、お母さんと離婚したことを恨んでる?
ごめんなさい……ごめんなさい、お父さん……
埋葬が終わると、葬儀場へ戻る。
このまま直接帰る者もいるが、この後はケータリングが用意されており、皆で食事を食べながら故人を悼むとのことだった。長テーブルにはピザやハンバーガー、フィンガーフード等が並び、お酒も用意されていたが、空腹のはずなのに美羽はとても飲食する気になれず、ペットボトルの水だけを手に取った。
類が美羽と義昭を連れ、参列者たちにふたりを紹介してくれた。
参列者たちの多くは父の仕事関係の人間だった。皆が皆、類と美羽があまりにも容姿が似ていることと、娘がいることを言及したことがなかったため、その事実に驚いているようだった。その度に美羽は微笑みながら軽くお辞儀をしつつも、会話に入ることが出来ず、居心地の悪さを感じてストレスが募っていった。
一通り挨拶が終わったところで、美羽は決心して類に話しかけた。
「類……申し訳ないんだけど、ロングフライトでそのまま葬儀場に来たし、疲れてるの。今日はもう、ホテルに帰ってもいいかな?」
そう言いつつ、明日以降、類に会うことはもうないと決めていた。
「じゃ、送るよ」
「え、いいよ! 類は喪主だし、ここにいてあげて」
「大丈夫、大丈夫。あとは勝手にみんな帰るだけだから。せっかく会ったんだから、それぐらいさせて」
断固として断ろうと決めていたにも関わらず、類はもう既に皆に別れの言葉を告げ、先頭を切って歩いていた。
「ちょ、ちょっと類……」
「いいじゃないか、美羽。せっかくルイがそう言ってくれてるんだから、好意に甘えよう」
義昭は、もう類の車に乗る気だった。美羽は肩を落とし、ふたりの後ろを歩いた。
ホテルに着くまでの間だけ……そうしたら、もう類とはお別れ。
今後は、二度と会うことはない……
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