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6.訃報
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封を切ると、そこから類の匂いが流れ込んでくるようで、美羽の胸が熱くなった。
間違いない。これは、類からの手紙だ。類は、生きていたんだ……
封筒に入っていたのは1枚のハガキのみだった。英字で印刷されたそれは美羽には解読が難しかったが、父の名前と『funeral』という言葉、日付と場所が示されていることから、どうやら父の葬儀を伝えるものらしいと分かった。
嘘……お父さんが、死んだ。
呆然とハガキに目を落としたまま、立ち尽くす。
仕事で忙しくて一緒に過ごした時間は短かったが、出来うる限り美羽を大切にし、愛してくれた。いつも穏やかで、優しくて、大好きだった父。
あんなことがあるまでは……父との穏やかな生活はずっと続いていくんだと思っていた。
こんなハガキじゃ信じられない。
お父さんが死んだっていうのは、類が私を呼び出すためについた嘘かもしれない。
そう思うと、ストンと納得が出来る気がした。
こんなタチの悪いイタズラ……でも、類ならやりかねない。私の居場所を知ったなら……。
知っているなら、どうして会いに来ないの? 私を試しているの?
ハガキの裏には、『ミュー、お願い。来て欲しい』と走り書きが書かれていた。
類の、文字……
癖のある懐かしいその文字を見るだけで、胸が締め付けられる。
これは罠、なの?
いったい、何が目的なの……類。
「美羽? 大丈夫か?」
その声に美羽はビクッと躰を震わせ、顔を上げた。
「どうしたんだ? 電気もつけないで」
「え……」
美羽はあれからソファに座り、時間が経つのも忘れて類から届いたハガキについて考え込んでいたらしい。窓を見ると既に外は真っ暗で、今日は掃除も洗濯も何もしていないことに気づき、慌てて飛び起きた。
「ご、ごめんなさい、私……」
「その、手に持ってるハガキは?」
「ぇ。あ、これは……」
まだ美羽の手にはハガキが握られたままだった。今更隠すわけにはいかない。観念して手渡すと、ハガキを手にした義昭の表情が変わった。
「これ、アメリカで行われる葬儀の案内じゃないか。『Hironori Uchiyama』って、誰なんだ?」
美羽は顔を引き攣らせ、口ごもった。
「……それ、私の実父なの」
「えっ」
「義昭さんが会ったのは、母が再婚した継父だから、私とは血の繋がりはないの」
「そう、だったのか……」
義昭は目を大きく見開き、口に手をやった。こんな重大な事実を結婚して3年も過ぎてから告白したことに、美羽は心苦しさを感じて目を伏せた。
「葬儀は明日じゃないか……俺も、仕事を休んで一緒に行くよ」
思いもよらなかった義昭の言葉に、美羽は驚愕して顔を上げる。
「で、でも義昭さんは仕事忙しいだろうからだいじょ……」
「美羽がこんなにお父さんの死にショックを受けているのに、一人で行かせるわけにはいかないよ」
美羽は言われて愕然とした。真っ暗になったことさえ気づかず、ソファに呆然と座っていた美羽は、父の死にショックを受けているのだと義昭に思われていたのだ。
こんな優しい気遣いをされたのは、どれぐらいぶりだろう。そうだ、夫は以前は優しい人だったと美羽は思い出した。
「それに、美羽はアメリカに行っても英語が喋れないから困るだろうし」
「そ、れは……そう、だけど」
「大丈夫。義父の葬儀がアメリカであると説明すれば、いくら仕事が忙しくたって4日ぐらいの休みならとれるさ」
「うん……」
義昭は完全にアメリカに行く気になっていて、既にスマホを手にし、飛行機のチケットを調べ始めていた。新婚旅行の時でさえ一切美羽に任せきりだったのに、珍しい。これも、父の死で弱っている自分を労わってのことなのか……
美羽は、スマホを弄る義昭の背中に溜息を吐いた。
封筒の宛名には、『朝野 美羽様』と書かれていた。ということは、類は私が結婚して姓が変わっていることも知ってるんだ。
もしかして、昔のことにこだわっているのは私だけなのかな。類はただ、お父さんが亡くなって心細くて、私に来て欲しいと思っているだけなのかも。夫を紹介するのはいい機会なのかもしれない。
そうであれば、これは断ち切れなかった類への思いにけじめをつけるいい機会になる。
類、だって……あれから恋愛して、結婚して、もしかしたら子供だっているかもしれないんだから。
そう考えた美羽の胸に、突き刺すような痛みが走った。
間違いない。これは、類からの手紙だ。類は、生きていたんだ……
封筒に入っていたのは1枚のハガキのみだった。英字で印刷されたそれは美羽には解読が難しかったが、父の名前と『funeral』という言葉、日付と場所が示されていることから、どうやら父の葬儀を伝えるものらしいと分かった。
嘘……お父さんが、死んだ。
呆然とハガキに目を落としたまま、立ち尽くす。
仕事で忙しくて一緒に過ごした時間は短かったが、出来うる限り美羽を大切にし、愛してくれた。いつも穏やかで、優しくて、大好きだった父。
あんなことがあるまでは……父との穏やかな生活はずっと続いていくんだと思っていた。
こんなハガキじゃ信じられない。
お父さんが死んだっていうのは、類が私を呼び出すためについた嘘かもしれない。
そう思うと、ストンと納得が出来る気がした。
こんなタチの悪いイタズラ……でも、類ならやりかねない。私の居場所を知ったなら……。
知っているなら、どうして会いに来ないの? 私を試しているの?
ハガキの裏には、『ミュー、お願い。来て欲しい』と走り書きが書かれていた。
類の、文字……
癖のある懐かしいその文字を見るだけで、胸が締め付けられる。
これは罠、なの?
いったい、何が目的なの……類。
「美羽? 大丈夫か?」
その声に美羽はビクッと躰を震わせ、顔を上げた。
「どうしたんだ? 電気もつけないで」
「え……」
美羽はあれからソファに座り、時間が経つのも忘れて類から届いたハガキについて考え込んでいたらしい。窓を見ると既に外は真っ暗で、今日は掃除も洗濯も何もしていないことに気づき、慌てて飛び起きた。
「ご、ごめんなさい、私……」
「その、手に持ってるハガキは?」
「ぇ。あ、これは……」
まだ美羽の手にはハガキが握られたままだった。今更隠すわけにはいかない。観念して手渡すと、ハガキを手にした義昭の表情が変わった。
「これ、アメリカで行われる葬儀の案内じゃないか。『Hironori Uchiyama』って、誰なんだ?」
美羽は顔を引き攣らせ、口ごもった。
「……それ、私の実父なの」
「えっ」
「義昭さんが会ったのは、母が再婚した継父だから、私とは血の繋がりはないの」
「そう、だったのか……」
義昭は目を大きく見開き、口に手をやった。こんな重大な事実を結婚して3年も過ぎてから告白したことに、美羽は心苦しさを感じて目を伏せた。
「葬儀は明日じゃないか……俺も、仕事を休んで一緒に行くよ」
思いもよらなかった義昭の言葉に、美羽は驚愕して顔を上げる。
「で、でも義昭さんは仕事忙しいだろうからだいじょ……」
「美羽がこんなにお父さんの死にショックを受けているのに、一人で行かせるわけにはいかないよ」
美羽は言われて愕然とした。真っ暗になったことさえ気づかず、ソファに呆然と座っていた美羽は、父の死にショックを受けているのだと義昭に思われていたのだ。
こんな優しい気遣いをされたのは、どれぐらいぶりだろう。そうだ、夫は以前は優しい人だったと美羽は思い出した。
「それに、美羽はアメリカに行っても英語が喋れないから困るだろうし」
「そ、れは……そう、だけど」
「大丈夫。義父の葬儀がアメリカであると説明すれば、いくら仕事が忙しくたって4日ぐらいの休みならとれるさ」
「うん……」
義昭は完全にアメリカに行く気になっていて、既にスマホを手にし、飛行機のチケットを調べ始めていた。新婚旅行の時でさえ一切美羽に任せきりだったのに、珍しい。これも、父の死で弱っている自分を労わってのことなのか……
美羽は、スマホを弄る義昭の背中に溜息を吐いた。
封筒の宛名には、『朝野 美羽様』と書かれていた。ということは、類は私が結婚して姓が変わっていることも知ってるんだ。
もしかして、昔のことにこだわっているのは私だけなのかな。類はただ、お父さんが亡くなって心細くて、私に来て欲しいと思っているだけなのかも。夫を紹介するのはいい機会なのかもしれない。
そうであれば、これは断ち切れなかった類への思いにけじめをつけるいい機会になる。
類、だって……あれから恋愛して、結婚して、もしかしたら子供だっているかもしれないんだから。
そう考えた美羽の胸に、突き刺すような痛みが走った。
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