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弟の元婚約者が、弟を訪ねてきました
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それから、ジュリエッタはジェントリとしての仕事をこなしながら結婚式の準備を進め、目まぐるしい毎日を過ごすこととなった。
しかも、マリエンヌの強い要望により、もうしなくてもいいと思っていた針仕事や刺繍、ダンス、ピアノといった花嫁修行も再開されることとなった。
「結婚して、針仕事のひとつもできないようでは困りますよ」
「お母様。そういったことは、メイドに全てやらせます」
「あら、ダンスやピアノはメイドに任せることはできないでしょう? 社交界で恥をかきますよ。私は平民出身で何も出来ず、社交界にデビューした頃はバカにされ、苦労したのですから」
母の気遣いはありがたかったが、正直、放っておいてほしかった。ダンスやピアノにかける時間があれば、少しでもジェントリとしての仕事を学びたかった。
ジェントリとなっても、女性であることからは逃れられないのね……
教会で結婚するためには、挙式前の日曜ごとに3回ほど婚姻予告を公示する必要がある。これは、秘密婚や重婚を避けるための制度で、申し立ての意義がなければ結婚を許可される。
だが、忙しいスケジュールの合間を縫って教会に足を運ぶことは、今のジュリエッタにとっては難しい。それに、上流階級の人間はそういった手間をとらずにお金を払って結婚許可証をとって結婚することが一種のステータスであったため、ジュリエッタもそれに習うことにしようとしたのだが、フランツはその提案に対していい顔をしなかった。
「これは、僕たちに結婚とは何か、夫婦の在り方とは何かを学ばせてくれる素晴らしい機会でもあるんだ。それをお金を払って学んだことにしようとする考え、僕は好きじゃないな」
いつもジュリエッタの意見を尊重してくれるフランツにも譲れないことがあり、自分の意思を伝えてくれることを知ることになった。ジュリエッタはフランツに謝り、なんとか時間を作って教会に通った。
あとでフランツに、少しでもジュリエッタと会う時間が欲しかったこともあると打ち明けられ、そんな彼を可愛く思った。
そんなこともあり、ジュリエッタは時間に追われていた。ウェディングドレスのフィッティングを人に任せることはできないし、ドレスやブーケは自分で選びたいし、その後のパーティーのセッティングも趣向を凝らしたものにしたかった。招待客は両親の意思だけではなく、自分の希望も反映させたい。
それは、結婚式後のパーティーでジュリエッタとフランツが婚姻を結んだことだけでなく、ジュリエッタがニコラスの後継であることを正式に発表する場となることもあった。
考えなければならないのは、結婚式だけではなく、その後の生活のこともだ。
ジュリエッタは両親だけでなく、引きこもりの弟ととも同居しなくてはならないフランツに対して申し訳なく思い、別宅を構えることを提案したのだが、フランツは笑ってそれを断った。
「僕は、君のご両親も弟のミッチェルも大切にしたいんだ。彼らにも、僕を家族として受け入れてもらいたいし」
自分だけでなく、自分の家族のことも考えてくれるフランツの思いに触れ、ジュリエッタはますます彼に心を惹かれた。
だが、自分が幸せであればあるほどに、ミッチェルのことが気にかかるのだった。
それというのも、婚約を結んだアーロンもまた、結婚に向けて急ピッチで動いているらしいという情報を耳にしていたからだった。
もちろん、招待状は送られてきていない。
ミッチェルには未だアーロンが結婚するどころか、婚約したことさえも伝えていなかった。
ジュリエッタは、ハァと大きな溜息を吐いた。
アーロン様が結婚すると、ミッチェルが知ったとしたら……これで、アーロン様への想いを断ち切ることができるようになるのかしら。
それとも……更に、心を閉ざすことになってしまうのかしら。
弟であるミッチェルには、ぜひ自分とフランツの結婚式に参加してほしいし、出来れば笑顔で祝ってほしい。
けれど、ジュリエッタはどうするべきか分からずにいた。
それから1ヶ月経ったある日、ジュリエッタが刺繍に四苦八苦していると扉が叩かれた。
メイドがおずおずと顔を出す。
「すみません、お客様が見えているのですが……」
「どなたですか?」
ジュリエッタが聞くと、メイドが返事を躊躇っている。隣に座っていたマリエンヌも、ジュリエッタ同様に怪訝な表情を浮かべた。
「いったい、どうしたのですか?」
マリエンヌに強い口調で問いただされ、メイドが俯いて答える。
「それ、が……アーロン様が、ミッチェル様にお会いしたいと仰っておりまして……」
えっ、なんですって!?
ジュリエッタとマリエンヌは同時に顔を合わせた。
しかも、マリエンヌの強い要望により、もうしなくてもいいと思っていた針仕事や刺繍、ダンス、ピアノといった花嫁修行も再開されることとなった。
「結婚して、針仕事のひとつもできないようでは困りますよ」
「お母様。そういったことは、メイドに全てやらせます」
「あら、ダンスやピアノはメイドに任せることはできないでしょう? 社交界で恥をかきますよ。私は平民出身で何も出来ず、社交界にデビューした頃はバカにされ、苦労したのですから」
母の気遣いはありがたかったが、正直、放っておいてほしかった。ダンスやピアノにかける時間があれば、少しでもジェントリとしての仕事を学びたかった。
ジェントリとなっても、女性であることからは逃れられないのね……
教会で結婚するためには、挙式前の日曜ごとに3回ほど婚姻予告を公示する必要がある。これは、秘密婚や重婚を避けるための制度で、申し立ての意義がなければ結婚を許可される。
だが、忙しいスケジュールの合間を縫って教会に足を運ぶことは、今のジュリエッタにとっては難しい。それに、上流階級の人間はそういった手間をとらずにお金を払って結婚許可証をとって結婚することが一種のステータスであったため、ジュリエッタもそれに習うことにしようとしたのだが、フランツはその提案に対していい顔をしなかった。
「これは、僕たちに結婚とは何か、夫婦の在り方とは何かを学ばせてくれる素晴らしい機会でもあるんだ。それをお金を払って学んだことにしようとする考え、僕は好きじゃないな」
いつもジュリエッタの意見を尊重してくれるフランツにも譲れないことがあり、自分の意思を伝えてくれることを知ることになった。ジュリエッタはフランツに謝り、なんとか時間を作って教会に通った。
あとでフランツに、少しでもジュリエッタと会う時間が欲しかったこともあると打ち明けられ、そんな彼を可愛く思った。
そんなこともあり、ジュリエッタは時間に追われていた。ウェディングドレスのフィッティングを人に任せることはできないし、ドレスやブーケは自分で選びたいし、その後のパーティーのセッティングも趣向を凝らしたものにしたかった。招待客は両親の意思だけではなく、自分の希望も反映させたい。
それは、結婚式後のパーティーでジュリエッタとフランツが婚姻を結んだことだけでなく、ジュリエッタがニコラスの後継であることを正式に発表する場となることもあった。
考えなければならないのは、結婚式だけではなく、その後の生活のこともだ。
ジュリエッタは両親だけでなく、引きこもりの弟ととも同居しなくてはならないフランツに対して申し訳なく思い、別宅を構えることを提案したのだが、フランツは笑ってそれを断った。
「僕は、君のご両親も弟のミッチェルも大切にしたいんだ。彼らにも、僕を家族として受け入れてもらいたいし」
自分だけでなく、自分の家族のことも考えてくれるフランツの思いに触れ、ジュリエッタはますます彼に心を惹かれた。
だが、自分が幸せであればあるほどに、ミッチェルのことが気にかかるのだった。
それというのも、婚約を結んだアーロンもまた、結婚に向けて急ピッチで動いているらしいという情報を耳にしていたからだった。
もちろん、招待状は送られてきていない。
ミッチェルには未だアーロンが結婚するどころか、婚約したことさえも伝えていなかった。
ジュリエッタは、ハァと大きな溜息を吐いた。
アーロン様が結婚すると、ミッチェルが知ったとしたら……これで、アーロン様への想いを断ち切ることができるようになるのかしら。
それとも……更に、心を閉ざすことになってしまうのかしら。
弟であるミッチェルには、ぜひ自分とフランツの結婚式に参加してほしいし、出来れば笑顔で祝ってほしい。
けれど、ジュリエッタはどうするべきか分からずにいた。
それから1ヶ月経ったある日、ジュリエッタが刺繍に四苦八苦していると扉が叩かれた。
メイドがおずおずと顔を出す。
「すみません、お客様が見えているのですが……」
「どなたですか?」
ジュリエッタが聞くと、メイドが返事を躊躇っている。隣に座っていたマリエンヌも、ジュリエッタ同様に怪訝な表情を浮かべた。
「いったい、どうしたのですか?」
マリエンヌに強い口調で問いただされ、メイドが俯いて答える。
「それ、が……アーロン様が、ミッチェル様にお会いしたいと仰っておりまして……」
えっ、なんですって!?
ジュリエッタとマリエンヌは同時に顔を合わせた。
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