私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

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フランツ様に、求婚されました

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 フランツが目を見開いて、ジュリエッタを見つめた。

「君、が……ジェントリに?
 自由に、結婚相手を選ぶことができる?」

 たっぷりと間をおいてから、ジュリエッタは頷いた。

「えぇ。それで最近はお父様の仕事の引き継ぎで忙しく、社交界に顔を出すことができませんでしたの。
 まぁ、今は別の意味で顔を出せなくなっていますが」

 フランツ様は、それを聞いてどう思われたかしら。私のことを、未だに好いていてくださるのなら……婚約の申し込みをしてくださるといいのだけど。

「では……」

 フランツがいったん言葉を切り、気持ちを落ち着かせるように息を吐き出した。



「で、では……もし僕が、君に婚姻の申し込みをしたら……結婚相手として、考えてくれるだろうか」



 待ち焦がれていたフランツの言葉を聞き、ジュリエッタの胸が高揚した。

「もちろんですわ、フランツ様!」

 婚約の申し込みではなく、婚姻だなんて。フランツ様のお心は、固いということね。
 あぁ、私が結婚できるだなんて、夢みたい……!!

 その時、扉がノックされる音が響いた。

「ジュリエッタ、フランツ様はいらしているかしら?」
「えぇ、お母様。入ってらして」

 マリエンヌが気まずそうな表情で応接間に入ると、引き攣った笑みを見せた。

「ごきげんよう、フランツ様」
「ちょうど良かったです」

 フランツに言われ、マリエンヌは体をビクッと震わせた。

「実は……ご夫人にお話したいことがありますので、掛けていただいてもよろしいですか」

 いつもはマリエンヌに対しても笑顔で対応するフランツが固い表情をしているのを見て、マリエンヌは激しく動揺した。

 どうしましょう。ミッチェルが舞踏会を台無しにしたことで、グローセスター公爵から言伝をいただいているのかしら。
 うちとの仕事上の取引をやめると言われたら、ニコラスになんと言えばいいのかしら……

 不安な気持ちでジュリエッタの隣に腰掛け、フランツに深く頭を下げた。

「先日の舞踏会では、大変失礼致しました……グローセスター公爵にも、なんとお詫びしていいのか……申し訳ございませんっっ」

 謝罪するマリエンヌを前に、フランツが慌てた。

「ど、どうぞ顔を上げてください!
 父も気にしておりませんし、僕も……ジュリエッタから事情は窺いましたので」

 それを聞き、マリエンヌは『なんと余計なことを……』と言いたそうに、ジュリエッタを横目で見た。『社交界の華』で通っているマリエンヌは外面がよく、自分の悪い面を誰にも知られたくなかった。

 ジュリエッタが、わざとらしく咳払いをした。

「お母様……ご迷惑をおかけしたフランツ様には、正直にお話した方がいいと思いましたの」
「ぇ。えぇ、そうね……もちろんだわ」

 マリエンヌは取り繕った笑顔を見せた。

 フランツは少し頬を引き攣らせ、改まった表情でマリエンヌを見上げた。

「私がお話したいのは、先日の舞踏会の話ではありません」
「では、なんですの?」

 マリエンヌがきょとんとした表情でフランツを見上げると、彼の顔がみるみるうちに赤くなった。膝の上で拳を握り、決心したように話し始める。

「先、ほど……ジュリエッタに、婚姻の申し込みをしました。彼女は、僕……いや、私の申し出を受け入れてくださいました。
 それ、で……ジュリエッタの母君にもご了承していただきたいと、思いまして……」
「まぁっ!!」

 マリエンヌから非難めいた声が上がる。

「ですが、フランツ様は公爵家の三男……」

 ジュリエッタがドスのきいた低い声で、マリエンヌの言葉を遮る。

「お母様……約束を忘れたのですか。ジェントリを継ぐ私は、結婚相手を自由に選んでもよいと」
「そ、そうだったわね……」

 そう答えながらも、明らかにマリエンヌの顔には失望の色が見えていた。それを認めたフランツが、不安気な様子を見せる。

 ジュリエッタが、そんな彼を安心させるように力強く宣言した。

「フランツ様、ご安心を。両親がなんと言おうと、私はフランツ様と婚姻を結びます。
 ただ、グローセスター公爵夫妻がなんと仰るか不安ですが……」

 今度は、フランツがジュリエッタを安心させるように力強く答えた。

「僕の両親なら、君が結婚相手だと知ったら喜ぶよ……その……以前に、婚姻の申し込みを相談した時にも、後押しをしてくれたんだ」
「そうでしたの」

 ジュリエッタは、フランツの両親がまだジュリエッタがジェントリを継ぐと決まる前から婚姻を了承してくれていたことを知り、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。

 フランツはジュリエッタに笑顔を向けてから、眉を下げて心配そうに尋ねた。

「ジュ、ジュリエッタ……ほんとに、こんな僕でいいのかい? 公爵家の人間とはいえ、僕は三男で大した財産も家もない……」
「私はそんなもの望んでおりません。家でしたら、ここがあります。財産も事業も、私が立派にジェントリとして請け負っていきますわ」
「ハハッ、頼もしいな。僕も君の夫として、ジェントリの仕事を支えさせてほしい」
「フランツ様……」

 あぁ、こんなに幸せなことがあっていいのかしら。

 幸福な思いで満たされながらも、婚約破棄されて傷心のミッチェルのことが思い出され、ジュリエッタの胸が痛んだ。
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