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悲報!弟が男性だと婚約者にバレてしまいました
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ジュリエッタが振り向くと、そこには気さくな笑顔を見せたフランツが立っていた。鼻の周りのそばかすが笑うと真ん中によって、それが密かにチャーミングだとジュリエッタは思っていた。
フランツはグローセスター公爵の三男であり、ジュリエッタが社交界の集まりに出ると、毎回声を掛けてくれる稀有な男性だ。
「まぁ、フランツ様。ご無沙汰しております。本日は、舞踏会にご招待くださり、ありがたく存じます」
ジュリエッタはドレスの裾を掴んで、お辞儀した。
「最近、舞踏会やサロンにも顔を出してなかったね」
「えぇ、最近は……忙しくしておりましたので……」
フランツだけにはジェントリを継ぐことになったと伝えたかったが、正式に継いでからにしようと、ジュリエッタは言葉を濁した。
「まさか、婚約したとかではないよね?」
ハッとした顔をフランツがみせ、ジュリエッタは慌てて否定した。
「まさか! そんなわけありませんわ。婚約したのでしたら、婚約者も連れてきていますし」
ミッチェルのように……
自分が連れて歩くはずだった婚約者が、弟の婚約者になってしまったなどとは、言えるはずなかった。
「そっか……それは、良かった。いや、良くないよね……君は、結婚相手を探してるのだから。
ところで、今夜の舞踏会、楽しんでくれているかい?」
ミッチェルのことが心配で、楽しむどころではないわ……
などと言えるはずもなく、ジュリエッタは作り笑いを浮かべた。
「えぇ、まぁ。このような立派な御邸宅にご招待いただきまして、心が弾んでおりますわ」
「まぁ、家督を継ぐのは嫡男であるトレンソ兄さんだから、僕には関係ないんだけどね。それで、君の母君にはしっかりと、『ジュリエッタを貴方の嫁にするつもりはありません』と断られてしまったしね……」
ジュリエッタの心臓がバクン、と飛び出しそうになった。
「え……どういうことですの?」
フランツが顔を真っ赤にして答える。
「そ、その……以前、君のご両親を通じて、婚姻の申し込みをしたんだが……あっけなく断られたんだ。それなのに、まだ君のことが諦められず……今日の舞踏会も、父上に頼んで君とご家族を招待してもらったんだ」
そんなこと……知りませんでしたわ。
ジュリエッタは愕然とした。両親に言われずとも、公爵の三男であるフランツの婚姻申込が却下されることはジュリエッタにも分かっていた。
だが、それは……今までだったなら、の話だ。
弟の婚約了承を条件にジェントリを引き継ぐことになったジュリエッタは、もう結婚相手に縛られることはなくなった。自分で自由に結婚相手を選べるのだ。
フランツ様なら、私のことを見た目ではなく、中身を知って愛してくださる。フランツ様を婿として迎えることができるのだわ……
ジュリエッタの胸が喜びに震えていると、フランツが彼女の顔を覗き込むようにして尋ねた。
「ねぇ、ジュリエッタ……君の妹君がデビュタントとして社交界デビューしたけど……君に妹君がいただなんて、知らなかったよ。ずっと、弟君だと思っていたんだが……しかも同じミッチェルって名前だし。僕の、勘違いだったのかな?」
ジュリエッタは顔を蒼白にした。
まさか将来、ミッチェルが女装して婚約することになるとは思いもせず、フランツに弟がひとりいることや、パブリックスクールに入ったものの虐めを受けて家に引き篭もっていることまで話していたのだ。
社交界では噂は瞬く間に広がる。ジュリエッタはなるべくプライベートなことは話さないように気をつけていたのだが、熱心に話を聞いてくれるフランツは話しやすく、心を打ち解けてそんなことまで話してしまっていた。
あぁ、どう言い訳したらいいの……
動揺していると、ジュリエッタの背後から声が響いてきた。
「ミッチェル・グレース・トンプソン! イースタン校を逃げ出した貴様が、なぜ女装などして婚約者を連れて社交界デビューなどしているのだ!!
我が校の名を汚す、不届き者が! 恥を知れ!!」
背の高い体躯のいい男が、ミッチェルの前に立ちはだかっていた。
ミッチェルは全身を震わせて怯え、隣にいるアーロンは怪訝な表情を浮かべた。
「何を仰っているのですか。ミッチェルが女装など……無礼な発言は許しませんよ。彼女は、私の正式な婚約者なのです」
「フッ……女々しいなりはしているが、ミッチェルは間違いなく男だ。こいつはパブリックスクールに入学したものの、校風についていけず、寮から逃げ出した臆病者だ。女みたいな顔に体つきだとは思っていたが……まさか女装して、婚約までするとはな、ハッ」
馬鹿にしたような笑いを浮かべ、見下す男に耐えきれず、ミッチェルは逃げ出した。
「ミ、ミッチェル!! 待ってください!!」
慌ててアーロンが追いかける。
大変なことになったわ……
「フランツ様、失礼いたします!!」
「え、ジュリエッタ!?」
目を丸くするフランツに背を向け、ドレスを引き上げると、ジュリエッタはミッチェルを追いかけた。
大ホールを抜けると、ミッチェルの靴が片方落ちているのが見えた。
まるで、シンデレラね……
でもミッチェルには、ハッピーエンドどころか……婚約破棄が待っているかもしれないのだわ。
階段へと辿り着くと、ミッチェルが扉を抜けて外へ出て行くのが見えた。
まったく、逃げ足だけは速いんだから!
ジュリエッタはパニエが見えるのも構わず、ドスドスと階段を駆け降りた。
フランツはグローセスター公爵の三男であり、ジュリエッタが社交界の集まりに出ると、毎回声を掛けてくれる稀有な男性だ。
「まぁ、フランツ様。ご無沙汰しております。本日は、舞踏会にご招待くださり、ありがたく存じます」
ジュリエッタはドレスの裾を掴んで、お辞儀した。
「最近、舞踏会やサロンにも顔を出してなかったね」
「えぇ、最近は……忙しくしておりましたので……」
フランツだけにはジェントリを継ぐことになったと伝えたかったが、正式に継いでからにしようと、ジュリエッタは言葉を濁した。
「まさか、婚約したとかではないよね?」
ハッとした顔をフランツがみせ、ジュリエッタは慌てて否定した。
「まさか! そんなわけありませんわ。婚約したのでしたら、婚約者も連れてきていますし」
ミッチェルのように……
自分が連れて歩くはずだった婚約者が、弟の婚約者になってしまったなどとは、言えるはずなかった。
「そっか……それは、良かった。いや、良くないよね……君は、結婚相手を探してるのだから。
ところで、今夜の舞踏会、楽しんでくれているかい?」
ミッチェルのことが心配で、楽しむどころではないわ……
などと言えるはずもなく、ジュリエッタは作り笑いを浮かべた。
「えぇ、まぁ。このような立派な御邸宅にご招待いただきまして、心が弾んでおりますわ」
「まぁ、家督を継ぐのは嫡男であるトレンソ兄さんだから、僕には関係ないんだけどね。それで、君の母君にはしっかりと、『ジュリエッタを貴方の嫁にするつもりはありません』と断られてしまったしね……」
ジュリエッタの心臓がバクン、と飛び出しそうになった。
「え……どういうことですの?」
フランツが顔を真っ赤にして答える。
「そ、その……以前、君のご両親を通じて、婚姻の申し込みをしたんだが……あっけなく断られたんだ。それなのに、まだ君のことが諦められず……今日の舞踏会も、父上に頼んで君とご家族を招待してもらったんだ」
そんなこと……知りませんでしたわ。
ジュリエッタは愕然とした。両親に言われずとも、公爵の三男であるフランツの婚姻申込が却下されることはジュリエッタにも分かっていた。
だが、それは……今までだったなら、の話だ。
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フランツ様なら、私のことを見た目ではなく、中身を知って愛してくださる。フランツ様を婿として迎えることができるのだわ……
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「ねぇ、ジュリエッタ……君の妹君がデビュタントとして社交界デビューしたけど……君に妹君がいただなんて、知らなかったよ。ずっと、弟君だと思っていたんだが……しかも同じミッチェルって名前だし。僕の、勘違いだったのかな?」
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あぁ、どう言い訳したらいいの……
動揺していると、ジュリエッタの背後から声が響いてきた。
「ミッチェル・グレース・トンプソン! イースタン校を逃げ出した貴様が、なぜ女装などして婚約者を連れて社交界デビューなどしているのだ!!
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ミッチェルは全身を震わせて怯え、隣にいるアーロンは怪訝な表情を浮かべた。
「何を仰っているのですか。ミッチェルが女装など……無礼な発言は許しませんよ。彼女は、私の正式な婚約者なのです」
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「ミ、ミッチェル!! 待ってください!!」
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階段へと辿り着くと、ミッチェルが扉を抜けて外へ出て行くのが見えた。
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