私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

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盲点でしたっっ

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 それからジュリエッタはジェントリになるため、みっちりと修行を受けることになった。

 ジュリエッタにとって父ニコラスについて領地を回ったり、毛織物工場で最新の機械を見学することはとても楽しく、刺激があった。積極的に領民や工場で働く従業員たちに質問し、彼らの悩みや問題を熱心に紙に書き留めた。

 中でも印象的だったのは、ニコラスが寄付している養護院を訪れたことだった。両親が亡くなったり、事情があって預けられたりした子供たちに対して、どう接していいものかと考えていたジュリエッタだったが、そんな考えは彼らの明るく人懐っこい笑顔に迎えられた途端に吹き飛んでしまった。

 そこでは、舞踏会やサロンのようにジュリエッタを見た目で判断することなく、慕ってくれる。手を引いて、甘えてくれる。ジュリエッタは、子供がこんなに無邪気で可愛い存在だとは思いもしなかった。

 ニコラスの代だけでなく、祖父の代からの農作物の収穫量や税収を調べ、その年の天候や関わった戦争についても調べた。また、ニコラスが関わっている農業、工業、産業のあらゆる本を読み漁り、これから携わっていけそうな分野の事業についても調べた。

 あぁ、時間がいくらあっても足りないわ……
 ジェントリって、なんて興味深い役割なのかしら。これからやりたいことがどんどん出てきて、ワクワクしちゃう。

 その一方で、弟のミッチェルは花嫁修行に勤しんでいた。あれ以来、ミッチェルは女装でいることを常とし、家族や使用人もそれに対して違和感を持たなくなっていた。

 ミッチェルは礼儀作法、針仕事、刺繍、ダンス、ピアノといった、ジュリエッタが苦手とする分野を嬉々として取り組み、こなしていった。

 マリエンヌはミッチェルは本当に娘だったのではないかと錯覚するほどだった。

 アーロンはまめにミッチェルに手紙を送り、遠方に住んでいるにもかかわらず月に最低1度は訪れた。ミッチェルが男性であることは見破られておらず、順調に愛を育んでいるようだった。

 それから1年が経ったある日、すっかりジェントリの後継として仕事が身についたジュリエッタは、ニコラスとともにヨーロッパの商談旅行から3週間ぶりに帰ってきた。

「お姉様、おかえりなさいませ」

 ミッチェルに出迎えられて、ふとジュリエッタは違和感を覚えた。

「ミッチェル……貴方、いつのまにそんなに背が高くなったのですか。それに、なんだか体つきも……以前とは違ってしまったような」

 それまでは、毎日顔を合わせていたので気がつかなかったが、ずっとジュリエッタよりも背が低いと思っていたミッチェルの目線がいつのまにか同じになっていて、筋肉などおよそ感じられないと思っていた腕のラインに膨らみが出ていた。肩も、以前のような華奢さが失われている。

 少女のように可愛らしかったミッチェルは第二次性徴を迎え、少しずつ変化していたのだった。

 あぁ、なぜ私は気がつかなかったの!? 盲点だったわ!!
 ミッチェルがいつまでも少女のままでいられるはずなどないのに。いくら顔立ちが美しく、華奢な体型であっても、思春期に入り第二次性徴を迎えることによって、少しずつ男性らしさが出てくると、少し考えれば分かったはずなのに!!

 ミッチェルが瞳に涙を溜めてウルウルさせたかと思うと、ワッと泣き出した。

「あぁ、ジュリエッタお姉様に気づかれてしまいました……
 近いうちにきっと、アーロン様にも私が本当は男性だと、気づかれてしまいますわ!!」

 ミッチェルは、ジュリエッタが気づくかなり前から体の変化を自覚していた。それを隠そうとヒールの靴を履くのをやめたり、肩や腕がなるべくでないドレスを着たり、ムダ毛の処理をしたりと努力していた。

 けれど、そうしたところで自然の摂理からは逃れられない。ミッチェルは、確実に大人の男性への階段を上っていた。

「ウッ、ウッ……アーロン様に嫌われたら、私はもう生きていけません」

 絶望する弟を目の前にし、ジュリエッタはミッチェルが不憫になった。

「分かったわ、ミッチェル……なんとか、するから」
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