7 / 25
ジュリエッタの条件
しおりを挟む
応接間から出て、声が届かない場所まで移動すると、ジュリエッタは堪らず声を上げた。
「お父様! どういうつもりですか!?
ミッチェルが男性だということは、いずれ分かりますのよ! その場凌ぎしなど、意味がありませんわ!!」
「だ、だが……婚約から婚姻までなんとか漕ぎつければ、たとえ一時であっても私は貴族の縁戚となれるのだ」
そこまでして自分の野望を叶えようとする愚かな父の考えに、ジュリエッタは大きな溜息を吐いた。
「婚姻後の初夜に男性であることが明らかになれば、相手方がなんと仰るか……世間にも、私達は笑い者にされますわ」
マリアンヌが娘を宥めながら、笑いかけた。
「これほど美しいミッチェルですもの、たとえ男性であることが分かっても、なんとか穏便に済みますわ」
だめだわ、このふたり……まるで話が通じない。
頭を抱えたジュリエッタは、最後の綱とばかりにミッチェルを見つめた。
「貴方だって、ずっと女性の格好をしていなくてはいけないなんて、嫌でしょう?」
「僕は……男性でいるよりも、女性でいる方が生きやすいと気付きました」
ウッ……
ジュリエッタは、ミッチェルに迫った。
「ア、アーロン様は男性なのですよ」
「アーロン様は素敵な方です! 僕は、あの方に……恋してしまいました」
ミッチェルが頬を染めて告白する。それはまさに、可憐な少女のようだった。
なんですって!?
「で、ですが……お慕いするアーロン様に嘘をつき続けなくてはいけないだなんて、胸が痛むでしょう?
それに、男性であることが分かったら非難され、糾弾されるかもしれないのですよ。アーロン様に、憎まれるかもしれません」
それを聞いてミッチェルは顔を青褪めたが、唇をキュッと結んでから口を開いた。
「それでも……たとえ一時であってもアーロン様の婚約者となれるのなら、僕は構いません」
いやいやいやいや!!
ありえないでしょう!!
狼狽えているのは、ジュリエッタひとりだけだった。
どうやら両親とミッチェルは、この突拍子もないプランBを決行するつもりらしい。
このままいくと、我が家が危機に陥ってしまうわ。だいたい、ミッチェルはこの家を継ぐべき嫡男だというのに、いったい何を考えているの!
そうジュリエッタは考えて、ハッとした。
そうだわ、打開策があるじゃない!!
ジュリエッタが大仰に咳をし、皆の注目を集める。
「このプランを承諾すれば、この家、および私にも危害が及ぶ危険性が非常に高いことは、お父様もお母様も分かっていらっしゃいますよね?」
両親が頼りなく頷く。
「では、約束してください。このプランが成功しようが、失敗しようが、この家を継いでジェントリとなるのは、弟のミッチェルではなく、私だと」
「な、なに!?」
ニコラスが口をあんぐりと開けた。
「考えてみれば、ミッチェルよりもジェントリに関する知識が豊富で賢く、要領が良く、社交性にも優れた私の方がジェントリに向いています」
「確かに、そうね……」
マリエンヌが同意した。
「だ、だが……家を継ぐのは男子と……」
「その男子に女装させて嫁がせようとしてるのは、どこのどなたですか!」
ジュリエッタにピシャリと言われ、ニコラスは黙った。
「私がジェントリとなった暁には、私の結婚についてとやかく口を出すのはやめて下さい。私は相手が貴族でなくとも、上流階級の男性でなくとも……私を婚姻相手に選んでくださるのであれば、どなたでもいいのです。そんな方が現れなかったら……一生を独身で過ごします」
「ジュリエッタ!! 貴女、なんてことを!!」
女の幸せは結婚にあると考えているマリエンヌが、目を飛び出さんばかりに驚愕の声を上げた。
「その代わり、私は女ジェントリとして事業の発展に力を尽くし、領民の幸せの為に働きます。必ずや、立派なジェントリになってみせますわ!!」
「だ、だが……」
言い募ろうとするニコラスに、ジュリエッタが凄んだ。
「この条件が飲めないというのでしたら……
今すぐに、ミッチェルが女装とした男性であることをバラしますわよ?」
「わ、分かった!!
ジュリエッタの条件を、飲もう」
ニコラスが両手を上げて降参のポーズを示した。
あぁ、これて私は晴れて自由の身になれるのだわ!
ウキウキした気持ちで、ジュリエッタはアーロン一家の待つ応接間へと戻った。
「お父様! どういうつもりですか!?
ミッチェルが男性だということは、いずれ分かりますのよ! その場凌ぎしなど、意味がありませんわ!!」
「だ、だが……婚約から婚姻までなんとか漕ぎつければ、たとえ一時であっても私は貴族の縁戚となれるのだ」
そこまでして自分の野望を叶えようとする愚かな父の考えに、ジュリエッタは大きな溜息を吐いた。
「婚姻後の初夜に男性であることが明らかになれば、相手方がなんと仰るか……世間にも、私達は笑い者にされますわ」
マリアンヌが娘を宥めながら、笑いかけた。
「これほど美しいミッチェルですもの、たとえ男性であることが分かっても、なんとか穏便に済みますわ」
だめだわ、このふたり……まるで話が通じない。
頭を抱えたジュリエッタは、最後の綱とばかりにミッチェルを見つめた。
「貴方だって、ずっと女性の格好をしていなくてはいけないなんて、嫌でしょう?」
「僕は……男性でいるよりも、女性でいる方が生きやすいと気付きました」
ウッ……
ジュリエッタは、ミッチェルに迫った。
「ア、アーロン様は男性なのですよ」
「アーロン様は素敵な方です! 僕は、あの方に……恋してしまいました」
ミッチェルが頬を染めて告白する。それはまさに、可憐な少女のようだった。
なんですって!?
「で、ですが……お慕いするアーロン様に嘘をつき続けなくてはいけないだなんて、胸が痛むでしょう?
それに、男性であることが分かったら非難され、糾弾されるかもしれないのですよ。アーロン様に、憎まれるかもしれません」
それを聞いてミッチェルは顔を青褪めたが、唇をキュッと結んでから口を開いた。
「それでも……たとえ一時であってもアーロン様の婚約者となれるのなら、僕は構いません」
いやいやいやいや!!
ありえないでしょう!!
狼狽えているのは、ジュリエッタひとりだけだった。
どうやら両親とミッチェルは、この突拍子もないプランBを決行するつもりらしい。
このままいくと、我が家が危機に陥ってしまうわ。だいたい、ミッチェルはこの家を継ぐべき嫡男だというのに、いったい何を考えているの!
そうジュリエッタは考えて、ハッとした。
そうだわ、打開策があるじゃない!!
ジュリエッタが大仰に咳をし、皆の注目を集める。
「このプランを承諾すれば、この家、および私にも危害が及ぶ危険性が非常に高いことは、お父様もお母様も分かっていらっしゃいますよね?」
両親が頼りなく頷く。
「では、約束してください。このプランが成功しようが、失敗しようが、この家を継いでジェントリとなるのは、弟のミッチェルではなく、私だと」
「な、なに!?」
ニコラスが口をあんぐりと開けた。
「考えてみれば、ミッチェルよりもジェントリに関する知識が豊富で賢く、要領が良く、社交性にも優れた私の方がジェントリに向いています」
「確かに、そうね……」
マリエンヌが同意した。
「だ、だが……家を継ぐのは男子と……」
「その男子に女装させて嫁がせようとしてるのは、どこのどなたですか!」
ジュリエッタにピシャリと言われ、ニコラスは黙った。
「私がジェントリとなった暁には、私の結婚についてとやかく口を出すのはやめて下さい。私は相手が貴族でなくとも、上流階級の男性でなくとも……私を婚姻相手に選んでくださるのであれば、どなたでもいいのです。そんな方が現れなかったら……一生を独身で過ごします」
「ジュリエッタ!! 貴女、なんてことを!!」
女の幸せは結婚にあると考えているマリエンヌが、目を飛び出さんばかりに驚愕の声を上げた。
「その代わり、私は女ジェントリとして事業の発展に力を尽くし、領民の幸せの為に働きます。必ずや、立派なジェントリになってみせますわ!!」
「だ、だが……」
言い募ろうとするニコラスに、ジュリエッタが凄んだ。
「この条件が飲めないというのでしたら……
今すぐに、ミッチェルが女装とした男性であることをバラしますわよ?」
「わ、分かった!!
ジュリエッタの条件を、飲もう」
ニコラスが両手を上げて降参のポーズを示した。
あぁ、これて私は晴れて自由の身になれるのだわ!
ウキウキした気持ちで、ジュリエッタはアーロン一家の待つ応接間へと戻った。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています


邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる