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離れていても

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 ついに、別れの時が来てしまったんですのね……

 ルチアは正門に立ち、見送りに来てくれたクロードへ寂しさを押し隠し、挨拶をする。

「クロード様、お忙しい中私とのお時間を作って下さり、本当にありがとうございました」

 クロード様のお顔を見てしまえば、きっと泣いてしまう……

 ルチアはクロードの顔を見ることが出来ず、俯いたまま震える声で伝えることしか出来なかった。

「ルチア、顔を上げよ」
「ですが……」

 ルチアが躊躇していると、クロードが低く告げた。

「私から目を逸らすなと、言ったはずだ」
「クロード、様……」

 ルチアが見上げると、クロードの美しい瞳にルチアの泣き顔が映りこむ。耐えきれず、クロードの胸に顔を寄せると、きつく抱き締められた。

「寂しいのは、私も同じだ」
「クロード様……」

 離れたく、ありません……

 すると、クロードがルチアの腰を両手でグッと支えて持ち上げた。

「えっ!?」

 驚く間もなく、胸元にクロードの薄い艶のある唇が寄せられ、きつく吸い上げられる。

「んんっ……!」

 離された後には、紅い華が咲いていた。

「これ、は……」

 以前、同じ場所にクロードにこの印をつけられた時の事が、鮮やかに蘇る。

「この印が消える前に、必ずお前に会いに行くと約束しよう」
「はいっ」

 二人の後ろには、ニヤニヤと笑みを浮かべるユリアーノと、口に手を当て、真っ赤な顔をして目を見張るヒューバートが控えていた。

「お前と過ごすここでの三日間は、私にとって変え難いものとなった」

 クロードが遠くを見つめる。

「……ようやく、過去の呪縛から解き放たれ、未来へと踏み出す事が出来た」

 ふっと笑みを浮かべたクロードの晴れやかな表情にルチアまで嬉しくなり、微笑む。

「お前のお陰だ」
「えっ!? 私は何もしてなど……」
「いや。私だけでなく、過去の幼い私をも救ってくれた。夢の中で……」
「夢の中、ですか?」

 なんのことでしょう?

「いや、こちらの話だ」

 クロードはかぶりを振り、ルチアの頬へ手を添えた。

「私にとってお前は、特別な存在だということだ」

 その言葉に躰が震え、ルチアの瞳に再び涙が溢れてくる。

「クロード様、私もです」

 クロードの指先がルチアの目尻から零れ落ちる涙を掬い上げる。強く抱き締め、耳元で熱い囁きを落とした。

「ルチアだけを永遠に愛すると、再びこの場所で誓おう」
「クロード様……私、も……クロード様をこれからもずっと愛し、支えていくと、誓います」

 惹かれ合うように唇が寄せられる二人の元へ、迎えの馬車が近づいていた。

 寂しいと言ったら、嘘になる。
 けれど、私は……クロード様のこの言葉があれば、もう、大丈夫。

 躰は離れていても、心の奥深くで繋がっていると知っていますから……
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