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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。
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「前川くんは、無意識で……わたし、は……怖、くて……抵抗、出来なくて……一瞬の、出来事で……ウッ……わた、し……ショック、でウゥッ……ファ、ファースト……キッッグ」
「わわっ、み、水嶋さんごめんっっ!! せ、責めるつもりじゃなくて、なんか悔しかったってゆうか、嫉妬したってゆうか……って、俺何言ってんだ! べ、別に水嶋さんにキスしたいとかじゃなくて、って、いや……したいけど……そう、じゃなくて……ごめ、なんか、もう……」
それから、歩きながらふたりの間に沈黙が流れる。既に飲み終わったお茶のボトルを捨てられず、ずっと握り締めてる。
誤解、されたくないよ……
「あの……私の好きなのは、矢野くん、だから」
「うん」
「前川くんじゃなくて、矢野くんだから」
「う、ん……」
「ちゃんと、知っていて欲しいの……」
「うん……」
その後に続くのもやっぱり沈黙で。でも、さっきとは、二人の間に流れる空気が変わったのを感じた。
「あの、ね……矢野くんは、前川くんに嫉妬してたって言ってたけど、私、も……紀子ちゃんに、嫉妬……してたん、だよ?」
矢野くんが怪訝な表情を浮かべる。
「え、花岡に?」
矢野くんの表情に、モヤモヤする。
「だって……矢野くん、紀子ちゃんと付き合ってたんでしょ?」
「な、なんでそのこと!?」
狼狽した声が響く。
「それに……チョコ、もらってたし……」
悲しい気持ちでそう告げると、矢野くんは眉を寄せて頭を掻いた。
「いや、あのチョコは義理だから! 『私の美紗ちゃん、よろしくね』って花岡に言われて、思わず受け取っただけだし!
って……確、かに……花岡とは付き合ってたけど……」
やっぱり、そうだったんだ……
心のどこかでは、嘘であって欲しいと願ってた。私と同じように、矢野くんにとっても私が初めての彼女だったらいいなぁって。それが、目の前で壊されてしまった。
「誤解なんだ! 花岡に突然『付き合って!』って言われて、なんの冗談だって思ってビックリしてるうちに、強引に付き合ってることにされてて。ちゃんと断らなかった俺が悪いんだけど……
そのうちに花岡は別の男好きになったからって、また突然言われて、それで終わって。だから、別に何もないし、付き合ってたって意識も……なかったから」
「でも……私たちだって、付き合ってるって言っても何もなかったし……」
「ち、違う! 俺、は……水嶋さんのこと好きだって思って……告白、したのも初めて、だったし、自分から電話したのだって、一緒に帰ろうって誘ったのも……すげぇ、勇気いったし。
全然、違う。頑張れてないかもしれないけど、俺の中ではあれが精一杯ってぐらい、頑張ってたんだ……」
そうだ。矢野くんは、精一杯頑張ってくれてた。
「ご、ごめんなさい。そう、だよね……頑張れてなかったのは、私の方、だよね……」
私はいつも待ってるだけで……自分から勇気を出しても、結局怖気づいて逃げてるだけだった。
フーッと息を吐き出すと、矢野くんが慌てて手を振った。
「いや! 水嶋さんも自分から電話かけてくれたし、一緒に帰ろうってメモ渡してくれたし、この前だって『おはよう』って階段とこで声かけてくれたの、めっちゃ嬉しかったし……
野中に散々言われた。内気で受け身な水嶋さんがあんなに頑張ってるんだから、ちゃんと気持ち伝えて行動しなきゃダメだって」
多恵ちゃん……そんなこと、矢野くんに言ってたんだ。
胸がブワッと熱くなった。
「わわっ、み、水嶋さんごめんっっ!! せ、責めるつもりじゃなくて、なんか悔しかったってゆうか、嫉妬したってゆうか……って、俺何言ってんだ! べ、別に水嶋さんにキスしたいとかじゃなくて、って、いや……したいけど……そう、じゃなくて……ごめ、なんか、もう……」
それから、歩きながらふたりの間に沈黙が流れる。既に飲み終わったお茶のボトルを捨てられず、ずっと握り締めてる。
誤解、されたくないよ……
「あの……私の好きなのは、矢野くん、だから」
「うん」
「前川くんじゃなくて、矢野くんだから」
「う、ん……」
「ちゃんと、知っていて欲しいの……」
「うん……」
その後に続くのもやっぱり沈黙で。でも、さっきとは、二人の間に流れる空気が変わったのを感じた。
「あの、ね……矢野くんは、前川くんに嫉妬してたって言ってたけど、私、も……紀子ちゃんに、嫉妬……してたん、だよ?」
矢野くんが怪訝な表情を浮かべる。
「え、花岡に?」
矢野くんの表情に、モヤモヤする。
「だって……矢野くん、紀子ちゃんと付き合ってたんでしょ?」
「な、なんでそのこと!?」
狼狽した声が響く。
「それに……チョコ、もらってたし……」
悲しい気持ちでそう告げると、矢野くんは眉を寄せて頭を掻いた。
「いや、あのチョコは義理だから! 『私の美紗ちゃん、よろしくね』って花岡に言われて、思わず受け取っただけだし!
って……確、かに……花岡とは付き合ってたけど……」
やっぱり、そうだったんだ……
心のどこかでは、嘘であって欲しいと願ってた。私と同じように、矢野くんにとっても私が初めての彼女だったらいいなぁって。それが、目の前で壊されてしまった。
「誤解なんだ! 花岡に突然『付き合って!』って言われて、なんの冗談だって思ってビックリしてるうちに、強引に付き合ってることにされてて。ちゃんと断らなかった俺が悪いんだけど……
そのうちに花岡は別の男好きになったからって、また突然言われて、それで終わって。だから、別に何もないし、付き合ってたって意識も……なかったから」
「でも……私たちだって、付き合ってるって言っても何もなかったし……」
「ち、違う! 俺、は……水嶋さんのこと好きだって思って……告白、したのも初めて、だったし、自分から電話したのだって、一緒に帰ろうって誘ったのも……すげぇ、勇気いったし。
全然、違う。頑張れてないかもしれないけど、俺の中ではあれが精一杯ってぐらい、頑張ってたんだ……」
そうだ。矢野くんは、精一杯頑張ってくれてた。
「ご、ごめんなさい。そう、だよね……頑張れてなかったのは、私の方、だよね……」
私はいつも待ってるだけで……自分から勇気を出しても、結局怖気づいて逃げてるだけだった。
フーッと息を吐き出すと、矢野くんが慌てて手を振った。
「いや! 水嶋さんも自分から電話かけてくれたし、一緒に帰ろうってメモ渡してくれたし、この前だって『おはよう』って階段とこで声かけてくれたの、めっちゃ嬉しかったし……
野中に散々言われた。内気で受け身な水嶋さんがあんなに頑張ってるんだから、ちゃんと気持ち伝えて行動しなきゃダメだって」
多恵ちゃん……そんなこと、矢野くんに言ってたんだ。
胸がブワッと熱くなった。
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