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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。
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「わ、たし……制服でコンビニ来たの、初めて」
緊張しながらそう言うと、矢野くんの目が丸くなる。
「ぁ、ごめっ! そうだよな、登下校の際の買い食いは禁止されてるもんな。ごめん、いつもの調子で入っちゃって」
「ううん、そうじゃなくて! 矢野くんにコンビニ連れてきてもらえて、嬉しいっていうか……」
矢野くんは、たくさんの初めてを私にくれる。
告白も、ふたりで一緒に帰ることも、コンビニに寄ることも……そのひとつひとつが嬉しくて、とても愛おしい。
矢野くんがホットウォーマーから、あったかい緑茶を手に取る。
「水嶋さんは、どれがいい?」
「ぁ。いいよ、私自分で!」
そう言ってから、お財布なんて持ってきてないことに気づいた。
「お茶ぐらい、おごらせて」
「あ、ありがとう……」
彼氏に奢られるのも、初めて……って、わ、私、彼氏って。か、彼氏……なんだ、なぁ。矢野くん……私たち、ほんとに恋人同士、みたい。
後ろ姿を感動の眼差しで見つめてると、会計を済ませた矢野くんが振り返り、顔を赤くした。
「ちょ……照れるっ……だ、けど……」
「あぁっ!! ご、ごめんなさいっ!!」
眩しすぎるコンビニの出口が開くと、冷たい風が頬に思いっきり当たる。と、目の前にペットボトルを差し出された。
「ありが、とう」
手袋からお茶の温かさがじんわりと伝わってきて、体の芯まで伝わってくるよう。
「それから、これ……」
矢野くんが白い小さなビニール袋から中華まんを出して、半分に割る。
「はい、肉まん。お腹、空いたでしょ?」
「う、ん……嬉、しい」
こんな風に矢野くんと半分こ、出来るなんて。
片方の手袋を外し、ドキドキしながら白い湯気を出す中華まんを受け取った。
「ここのコンビニの肉まんが、一番具が入っててうまいって知ってた?」
「知らなかった」
「ハハッ、そうなんだ」
矢野くんが嬉しそうに笑うから、私も笑いたくなって。さっきまでの寒さなんか忘れてしまう。少し経っただけで肉まんの外側はもう冷たくなりかけてたけど、内側はあったかくて、今まで食べたどの肉まんよりも美味しかった。
「うん、美味しい。美味しいよ、矢野くん……」
「ハハッ、良かった」
なんだか二人とも変なテンションになってて。頬が緩みっぱなし。ふわふわする。いいな、こういうの。すごく、いいな。
矢野くんが、とっても嬉しそうで、いいな。
いつもは向かい側の道を歩くから、今日視界に映る景色は違ってて。でも、それだけじゃなく。矢野くんが隣にいるから……何もかもが、違って見えた。夜空の星も、いつもよりキラキラして見える。
「野中と……仲直り出来たみたいで、良かった」
矢野くんがお茶を一口飲むと、白い息を吐いた。
「うん……ありがとう。お互いにね、心の中に溜めてたもの吐き出したら前よりももっと仲良くなれて、今はあの時多恵ちゃんが本音を話してくれて良かったって思ってる」
「……俺、水嶋さんがすげぇ辛そうにしてるの分かってたのに、慰めることも励ますことも、声すらかけられなくて……っとに、情けないよな」
「そんなことないよ!」
「そんなこと、あるって。前川は……水嶋さんのこと気にして、声かけに行ってたのに……」
前川くんの話題が出て、心臓がドクッと嫌な音を立てた。矢野くんが飲み干したボトルをゴミ箱に捨てる音がゴトンと響き、私の視線を捉える。
「水嶋さん、は……前川と、どんな関係、なの?」
「関係なんて、何もないない! ない、の……ほん、とに……」
俯いて小さく震える私の上から、小さく溜息が零れた。
「キスしたって……本当?」
ドクドクと脈がうねり出し、気持ち悪い汗が背中を伝う。
「そ、れは……」
緊張しながらそう言うと、矢野くんの目が丸くなる。
「ぁ、ごめっ! そうだよな、登下校の際の買い食いは禁止されてるもんな。ごめん、いつもの調子で入っちゃって」
「ううん、そうじゃなくて! 矢野くんにコンビニ連れてきてもらえて、嬉しいっていうか……」
矢野くんは、たくさんの初めてを私にくれる。
告白も、ふたりで一緒に帰ることも、コンビニに寄ることも……そのひとつひとつが嬉しくて、とても愛おしい。
矢野くんがホットウォーマーから、あったかい緑茶を手に取る。
「水嶋さんは、どれがいい?」
「ぁ。いいよ、私自分で!」
そう言ってから、お財布なんて持ってきてないことに気づいた。
「お茶ぐらい、おごらせて」
「あ、ありがとう……」
彼氏に奢られるのも、初めて……って、わ、私、彼氏って。か、彼氏……なんだ、なぁ。矢野くん……私たち、ほんとに恋人同士、みたい。
後ろ姿を感動の眼差しで見つめてると、会計を済ませた矢野くんが振り返り、顔を赤くした。
「ちょ……照れるっ……だ、けど……」
「あぁっ!! ご、ごめんなさいっ!!」
眩しすぎるコンビニの出口が開くと、冷たい風が頬に思いっきり当たる。と、目の前にペットボトルを差し出された。
「ありが、とう」
手袋からお茶の温かさがじんわりと伝わってきて、体の芯まで伝わってくるよう。
「それから、これ……」
矢野くんが白い小さなビニール袋から中華まんを出して、半分に割る。
「はい、肉まん。お腹、空いたでしょ?」
「う、ん……嬉、しい」
こんな風に矢野くんと半分こ、出来るなんて。
片方の手袋を外し、ドキドキしながら白い湯気を出す中華まんを受け取った。
「ここのコンビニの肉まんが、一番具が入っててうまいって知ってた?」
「知らなかった」
「ハハッ、そうなんだ」
矢野くんが嬉しそうに笑うから、私も笑いたくなって。さっきまでの寒さなんか忘れてしまう。少し経っただけで肉まんの外側はもう冷たくなりかけてたけど、内側はあったかくて、今まで食べたどの肉まんよりも美味しかった。
「うん、美味しい。美味しいよ、矢野くん……」
「ハハッ、良かった」
なんだか二人とも変なテンションになってて。頬が緩みっぱなし。ふわふわする。いいな、こういうの。すごく、いいな。
矢野くんが、とっても嬉しそうで、いいな。
いつもは向かい側の道を歩くから、今日視界に映る景色は違ってて。でも、それだけじゃなく。矢野くんが隣にいるから……何もかもが、違って見えた。夜空の星も、いつもよりキラキラして見える。
「野中と……仲直り出来たみたいで、良かった」
矢野くんがお茶を一口飲むと、白い息を吐いた。
「うん……ありがとう。お互いにね、心の中に溜めてたもの吐き出したら前よりももっと仲良くなれて、今はあの時多恵ちゃんが本音を話してくれて良かったって思ってる」
「……俺、水嶋さんがすげぇ辛そうにしてるの分かってたのに、慰めることも励ますことも、声すらかけられなくて……っとに、情けないよな」
「そんなことないよ!」
「そんなこと、あるって。前川は……水嶋さんのこと気にして、声かけに行ってたのに……」
前川くんの話題が出て、心臓がドクッと嫌な音を立てた。矢野くんが飲み干したボトルをゴミ箱に捨てる音がゴトンと響き、私の視線を捉える。
「水嶋さん、は……前川と、どんな関係、なの?」
「関係なんて、何もないない! ない、の……ほん、とに……」
俯いて小さく震える私の上から、小さく溜息が零れた。
「キスしたって……本当?」
ドクドクと脈がうねり出し、気持ち悪い汗が背中を伝う。
「そ、れは……」
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