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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

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 矢野くんはプレゼントを受け取ると、はにかんだ笑顔を見せた。

「あ、ありがと……すげぇ、嬉しい……
 これ、食べていい?」
「ぇ。今?」
「うん、今……ダメ、かな?」

 今渡したプレゼントを目の前で開けて食べられるという事態を想定していなかったので一瞬たじろいだけど、すぐにでも食べたいと言ってくれた矢野くんの反応が何よりも嬉しかった。

「えと、どうぞ……」

 矢野くんがリボンを解き、包み紙を開ける音が深まっていく夕闇に静かに響く。矢野くんの指の動きを、固唾を飲んで見つめる。

 心臓が、さっきよりももっと苦しくなってくる……

 緊張が高まる中、矢野くんは箱を開けると指で一つチョコレートを摘み、口に入れた。

「ん……美味い」

 その言葉に、顔が綻んでいく。

「良かった……味見はしたんだけど、矢野くんに美味しいって思ってもらえるか心配だったから」
「えぇっ! これ、もしかして作ったの!?」
「うん……そう、なの。多恵ちゃんにもね、手伝ってもらったんだけど」
「すげぇっ! 店で買ってきたもんかと思ってた! めちゃめちゃ美味いし、めちゃめちゃ綺麗に出来てる!!」

 興奮したように捲し立てた矢野くんが、それから噛み締めるようにして呟いた。

「すっげぇ、嬉しい……」

 そう言って私に笑顔を向けてくれた矢野くんに安心して、今まで心の中にしまっていた気持ちが溢れてくる。

「私、ね……矢野くんからラブレターもらった時、すごく嬉しかったの。公園で待ち合わせして、直接気持ちを伝えてくれた時もドキドキして……

 でも、私は弱気で意気地がなくて、何も出来なくて……矢野くんの気持ちが離れてっちゃうんじゃないかって、ずっと不安だった」

 矢野くんが、声を上げた。

「水嶋さんの気持ちが分からなくて不安だったのは、俺の方だ!」

 ぇ……

 唖然と見つめていると、矢野くんは拳を固く握り締め、唇を噛んでから、声を絞り出した。

「俺……水嶋さんの気持ちがほんっと分かんなくて……
 ラブレターの返事はそっけないし、目が合っても逸らされるし、電話した時はちゃんと聞いてなかったり、クリスマスプレゼントは俺からだけだったし……あんな、勇気出してハートマークまで書いたのに、なんの反応もなかったし……

 それに、前川のことも……」

 あまりにも思い当たることの数々に、矢野くんに申し訳ない気持ちが募っていき、ズーンと重くなった。

 そ、そうだよね……私って、どれだけ酷いことを矢野くんにしてきたんだろう。そりゃあ、気持ちが分からないって言われるのも……無理、ないよね。

「だから……俺、だけが……水嶋さんのこと好きなんだって、思ってた」

 矢野くんの言葉が胸の奥深くに突き刺さり、ビーンと振動する。胸が、きつくきつく絞られるように痛くなった。

 そうじゃ、ない……そうじゃない、の……

 ずっとずっと言えなかった、矢野くんへの想いが溢れてくる。


「好、き……」

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