82 / 91
矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。
2
しおりを挟む
まだ、チャンスはある。お昼休みは20分もあるんだし、次こそ勇気を出して渡そう。
お弁当を食べてお昼休みに入ると、矢野くんが席を立ち上がった。
い、今だ……
私も立ち上がり、矢野くんの席に向かうけれど、
「颯太くん!」
私よりも早く声を掛けたのは……紀子ちゃんだった。
手には、金色のラッピングペーパーにに黒のリボンがかかった高級チョコレートブランドの箱を持っている。紀子ちゃんは矢野くんにその箱を渡すと、耳元で何か囁いてクスクスと笑い、軽く背中に触れて去って行った。
多恵ちゃんが私に駆け寄ってくる。
「何あれ、感じ悪っ! 紀子ちゃんだって矢野と美紗ちゃんが付き合ってるの知ってるはずなのに、信じらんないっ!」
みんなに聞こえないように小声で文句を言い、肩を怒らせている。
「う、ん……」
普通に矢野くんが女の子からチョコを受け取るだけでもショックなのに、相手が元カノである紀子ちゃんなら尚更だ。
紀子ちゃんは、もしかしてまだ矢野くんのこと好きなのかな……
耳に囁きかけたり、背中に触れたりするなんて、とても私には出来ない。凄く自然な感じで、ふたりが本当に恋人だったんだって確信した。矢野くんだって元カノにあんなことされたら、悪い気はしないよね。気持ちが戻ったり、するかもしれない。
結局、お昼休みに矢野くんにチョコを渡すことは出来ず、5限も6限も紀子ちゃんのことを引き摺ったまま授業が終わってしまった。
あぁ、ほんとに何やってんだろう私……
帰りの会が終わると、村中先生が私と一緒にいた多恵ちゃんを呼び止めた。
「今日、急な出張入ったから部活休みってみんなに伝えといてくれるか」
「えぇっ、本当ですか!?」
多恵ちゃんの目が輝く。
「なんだぁ、嬉しそうだなぁ部長。美紗チャンは寂しいだろ?」
「ぁ。はい……」
私はこうして、村中先生からよく同意を求められる。
「そうだ、村中チャン! はいっ、チョコあげる!!」
多恵ちゃんはスクールバッグから大きな容器を取り出すと蓋を開けた。縦に入れたせいで、トリュフが一方に寄ってしまってる。
「おっ、美味そうだな。これ、美紗チャンが作ったのか?」
一応学校では先生へのチョコ渡すのは禁止のはずなんだけど、村中先生は天パーの頭を下に向けて既に手を伸ばしていた。
「せんせー、わ・た・しと、美紗ちゃんで作ったんですけどー」
多恵ちゃんが不満顔で村中先生を睨みつける。
「ハハッ、分かってるって。部長は美紗チャンが一生懸命作ってる横で試食係してたんだろ? ところで美紗チャンは、もう矢野にチョコ渡したのか?」
話のついでって感じで突然の爆弾を落とされ、思わず後ずさった。
「なっ……何で、先生までっっ」
赤くなると、村中先生が薄く色のついた眼鏡越しにニヤニヤと笑う。
「ハハッ、矢野が紀子ママからチョコもらってたって噂になってたぞー。頑張れよー。美味いな、これ」
「う。うぅっ……」
村中先生にまで、からかわれるなんて……
多恵ちゃんと共に部員たちに今日の部活が中止になったのとチョコレートを配るため、部室へと向かう。多恵ちゃんは、まるで自分が勝ち取ったかのように、誇らしげに部員たちに告げた。
「今日の部活、中止になったよ」
それを聞き、部員全員が一斉に色めき立つ。盛り上がる中、多恵ちゃんがトリュフの入った容器を取り出してパカッと蓋を開け、みんなに1個ずつ取ってもらう。
「うわぁ、凄い! これ、多恵が作ったのぉ?」
安川さんが驚きの声をあげながら、パクッとトリュフを口に咥える。
「私と美紗ちゃんでね。てか、全員ホワイトデー期待してるから!」
『えぇーーっっ!!』
部員たちが綺麗に合わせた声に、クスクスと多恵ちゃんと二人で笑い合う。
『それじゃ、お疲れ様でしたー!』
さっさと帰っていく部員たちを見送りながら、多恵ちゃんが私をちらりと横目で窺った。
「美紗ちゃんはこれからどうするの?」
「私は、矢野くんの部活が終わるまで待ってるよ」
「そっか……付き合おうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう、多恵ちゃん」
多恵ちゃんはまだトリュフが幾つか残ってる容器を手に、ニコッと微笑んだ。
「それ、まだ残ってんのか?」
肩越しに覗かれ、ドクンッと心臓が跳ねた。
お弁当を食べてお昼休みに入ると、矢野くんが席を立ち上がった。
い、今だ……
私も立ち上がり、矢野くんの席に向かうけれど、
「颯太くん!」
私よりも早く声を掛けたのは……紀子ちゃんだった。
手には、金色のラッピングペーパーにに黒のリボンがかかった高級チョコレートブランドの箱を持っている。紀子ちゃんは矢野くんにその箱を渡すと、耳元で何か囁いてクスクスと笑い、軽く背中に触れて去って行った。
多恵ちゃんが私に駆け寄ってくる。
「何あれ、感じ悪っ! 紀子ちゃんだって矢野と美紗ちゃんが付き合ってるの知ってるはずなのに、信じらんないっ!」
みんなに聞こえないように小声で文句を言い、肩を怒らせている。
「う、ん……」
普通に矢野くんが女の子からチョコを受け取るだけでもショックなのに、相手が元カノである紀子ちゃんなら尚更だ。
紀子ちゃんは、もしかしてまだ矢野くんのこと好きなのかな……
耳に囁きかけたり、背中に触れたりするなんて、とても私には出来ない。凄く自然な感じで、ふたりが本当に恋人だったんだって確信した。矢野くんだって元カノにあんなことされたら、悪い気はしないよね。気持ちが戻ったり、するかもしれない。
結局、お昼休みに矢野くんにチョコを渡すことは出来ず、5限も6限も紀子ちゃんのことを引き摺ったまま授業が終わってしまった。
あぁ、ほんとに何やってんだろう私……
帰りの会が終わると、村中先生が私と一緒にいた多恵ちゃんを呼び止めた。
「今日、急な出張入ったから部活休みってみんなに伝えといてくれるか」
「えぇっ、本当ですか!?」
多恵ちゃんの目が輝く。
「なんだぁ、嬉しそうだなぁ部長。美紗チャンは寂しいだろ?」
「ぁ。はい……」
私はこうして、村中先生からよく同意を求められる。
「そうだ、村中チャン! はいっ、チョコあげる!!」
多恵ちゃんはスクールバッグから大きな容器を取り出すと蓋を開けた。縦に入れたせいで、トリュフが一方に寄ってしまってる。
「おっ、美味そうだな。これ、美紗チャンが作ったのか?」
一応学校では先生へのチョコ渡すのは禁止のはずなんだけど、村中先生は天パーの頭を下に向けて既に手を伸ばしていた。
「せんせー、わ・た・しと、美紗ちゃんで作ったんですけどー」
多恵ちゃんが不満顔で村中先生を睨みつける。
「ハハッ、分かってるって。部長は美紗チャンが一生懸命作ってる横で試食係してたんだろ? ところで美紗チャンは、もう矢野にチョコ渡したのか?」
話のついでって感じで突然の爆弾を落とされ、思わず後ずさった。
「なっ……何で、先生までっっ」
赤くなると、村中先生が薄く色のついた眼鏡越しにニヤニヤと笑う。
「ハハッ、矢野が紀子ママからチョコもらってたって噂になってたぞー。頑張れよー。美味いな、これ」
「う。うぅっ……」
村中先生にまで、からかわれるなんて……
多恵ちゃんと共に部員たちに今日の部活が中止になったのとチョコレートを配るため、部室へと向かう。多恵ちゃんは、まるで自分が勝ち取ったかのように、誇らしげに部員たちに告げた。
「今日の部活、中止になったよ」
それを聞き、部員全員が一斉に色めき立つ。盛り上がる中、多恵ちゃんがトリュフの入った容器を取り出してパカッと蓋を開け、みんなに1個ずつ取ってもらう。
「うわぁ、凄い! これ、多恵が作ったのぉ?」
安川さんが驚きの声をあげながら、パクッとトリュフを口に咥える。
「私と美紗ちゃんでね。てか、全員ホワイトデー期待してるから!」
『えぇーーっっ!!』
部員たちが綺麗に合わせた声に、クスクスと多恵ちゃんと二人で笑い合う。
『それじゃ、お疲れ様でしたー!』
さっさと帰っていく部員たちを見送りながら、多恵ちゃんが私をちらりと横目で窺った。
「美紗ちゃんはこれからどうするの?」
「私は、矢野くんの部活が終わるまで待ってるよ」
「そっか……付き合おうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう、多恵ちゃん」
多恵ちゃんはまだトリュフが幾つか残ってる容器を手に、ニコッと微笑んだ。
「それ、まだ残ってんのか?」
肩越しに覗かれ、ドクンッと心臓が跳ねた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる