矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

勇気を出して

５

「すみません、お願いします」
「あ、はいっ」

　カウンターに人が来てしまい、会話が中断されてしまった。どうしてこうも、タイミングが悪いんだろう。

　矢野くんは漫画を手にしたまま待ってくれていて、余計に焦ってしまう。

　貸し出し処理を終えると、急いでカウンターを出て矢野くんの元へと歩み寄った。

「ぁ、あの……何、だった？」

　バクバクと心臓の音が打ち鳴らすのを感じながら矢野くんの返事を待っていると、

「すみませーん、これ借りたいんですけどぉ」

　えぇっ、また！？

「は、はい。すみませんっ」

　慌ててカウンターへ戻ろうとする背中に、矢野くんの声が耳に届く。

「ごめん。忙しそうだからいい」

　矢野くんが足早に去っていく。その背中を見つめながら、不安が渦巻いていくのを感じた。

　何を、言いかけたんだろう。すごく、気になる……

「あの……これ、間違ってませんか？」

　言われてカードを見ると、返却日に今日の日付を書いてしまっていた。

「ぁ。あぁっ、すみませんっっ！！」

　今は、図書業務に集中しないと……