74 / 91
勇気を出して
3
しおりを挟む
連れられたのは、お約束ともいうべき女子トイレだった。一条さんを真ん中に、壁際に立つ私をぐるりと囲む逃げ場のない状況。
一条さんが、顎をキッと上げて睨みつける。
「水嶋さんって、矢野くんと別れて前川くんと付き合ってるって聞いたけど、本当?」
ぇ? えぇぇぇぇっっ!! なんでそんなことに!?
「や、矢野くんと別れたつもりは……私はないし、前川くんと付き合ってなんてないよ」
取り巻きの女の子たちが次々に口を挟む。
「でも前川くん、最近水嶋さんと一緒にいるじゃん!」
「しかも昨日、ふたりで一緒に歩いてるの見た子がいるし」
「技術室の前で前川くんが告ってたって聞いたよ!」
ひぇぇ、恐るべし、女子のネットワーク……
揃いも揃って背が高い子ばっかりだから、囲まれてる感がハンパない。
「どうなのよ!?」
一番右側にいた石田さんにバンッと壁を蹴られ、ビクッと震える。脳裏に『集団リンチで女子中学生死亡!』という新聞記事が浮かび上がり、ブルブルッと震える。
矢野くんに気持ちを伝えないまま死ぬなんて、やだ……
「……たし、かに……前川くんには、好きって言われたけど……」
そう言った途端、「うそー!!」「やっぱりそうだったのー」「なんでぇー!?」と次々に声が上がり、大騒ぎになった。そこには、なんで前川くんが私なんかを好きになるのよっていう思いが籠っているのをヒシヒシと感じた。
「でも、ちゃんと断ったから!!」
勇気を出して大きな声で言うと、納得するどころか「えぇーっ、前川くん振るとかありえない!」「水嶋さんってさぁ、自分が綺麗とか思ってんの?」「生意気ー」とか言われるし、どっちにしても批判しか受けないのだと知った。
ハァ……私、女子の世界で生き抜いていける自信、全くないよ。
真ん中に立ってた一条さんは、取り巻きの子達が大騒ぎする中、黙って私の話を聞いていた。一条さんは背がすらっと高くて、腰まである長い黒髪はツヤツヤしてるし、目鼻立ちもはっきりしていてモデルみたいで、本当に華やかグループのリーダーに相応しい。密かに、涼子ちゃんより綺麗だと私は思ってる。
「ねぇ……水嶋さんは、前川くんのことが好きなわけじゃないのね?」
一条さんが長い睫毛を瞬かせ、尋ねた。大きな瞳に見つめられてドキドキしながらも、小さくコクリと頷いた。
「私が好き、なのは……矢野くんだから」
「良かった……」
心からホッとした表情を浮かべた一条さんは、本当に前川くんのことが好きなんだってことが伝わってきて、それを見た途端応援したくなった。私だって、誰かを好きになる気持ちが分かるから。
「一条さんみたいな美人から告白されたら、きっと前川くんだって好きになると思うよ」
私の言葉に、一条さんが頬をピンクに染めた。わっ、可愛い。いつも美人でツンとしてて、近寄りがたいイメージがあったけど、こんな表情もするんだ。
「私は……ダメ。みんなから生意気とかプライド高そうって思われてるし、相手のこと見てるだけで、睨んでるって思われるし……
私、水嶋さんみたいに小さくて可愛かったら良かったのに。そしたら私も、前川くんに好きになってもらえたかもしれないのに。水嶋さんが、羨ましい」
「えぇぇぇっっ、わ、私は小動物っていうかペット的な可愛さであって、人間ですらないし! 私は一条さんみたいに美人だったら良かったのにって凄く思うよ! 綺麗でスタイルが良くて、運動神経も良くて……私にはないもの、いっぱい持ってるもん」
コンプレックスなんて何一つないんだろうなって思ってた一条さんが、まさか私のことを羨ましく思ってたなんて、考えもしなくてビックリした。
「怖がらせちゃってごめんね」
そう言って一条さんは解放してくれて、取り巻きの子達も謝ってくれた。
きっと、取り巻きの子達は一条さんに憧れてて、彼女に気に入られたいが為に同調したり、気に入られるような行為を進んでしていたんだろうなって思うと、さっきまで恐いと思ってた子達もちょっと可愛く思えてきた。
本当に、外見や少し話したぐらいじゃ、その人の本質は分からないんだなぁ。私は今まで、見た目で判断して恐そうとか、苦手って決めつけてたんだ。
ほんの一歩踏み出しただけで、世界はこんなにも変わっていく。変えることが、出来るんだ。
一条さんが、顎をキッと上げて睨みつける。
「水嶋さんって、矢野くんと別れて前川くんと付き合ってるって聞いたけど、本当?」
ぇ? えぇぇぇぇっっ!! なんでそんなことに!?
「や、矢野くんと別れたつもりは……私はないし、前川くんと付き合ってなんてないよ」
取り巻きの女の子たちが次々に口を挟む。
「でも前川くん、最近水嶋さんと一緒にいるじゃん!」
「しかも昨日、ふたりで一緒に歩いてるの見た子がいるし」
「技術室の前で前川くんが告ってたって聞いたよ!」
ひぇぇ、恐るべし、女子のネットワーク……
揃いも揃って背が高い子ばっかりだから、囲まれてる感がハンパない。
「どうなのよ!?」
一番右側にいた石田さんにバンッと壁を蹴られ、ビクッと震える。脳裏に『集団リンチで女子中学生死亡!』という新聞記事が浮かび上がり、ブルブルッと震える。
矢野くんに気持ちを伝えないまま死ぬなんて、やだ……
「……たし、かに……前川くんには、好きって言われたけど……」
そう言った途端、「うそー!!」「やっぱりそうだったのー」「なんでぇー!?」と次々に声が上がり、大騒ぎになった。そこには、なんで前川くんが私なんかを好きになるのよっていう思いが籠っているのをヒシヒシと感じた。
「でも、ちゃんと断ったから!!」
勇気を出して大きな声で言うと、納得するどころか「えぇーっ、前川くん振るとかありえない!」「水嶋さんってさぁ、自分が綺麗とか思ってんの?」「生意気ー」とか言われるし、どっちにしても批判しか受けないのだと知った。
ハァ……私、女子の世界で生き抜いていける自信、全くないよ。
真ん中に立ってた一条さんは、取り巻きの子達が大騒ぎする中、黙って私の話を聞いていた。一条さんは背がすらっと高くて、腰まである長い黒髪はツヤツヤしてるし、目鼻立ちもはっきりしていてモデルみたいで、本当に華やかグループのリーダーに相応しい。密かに、涼子ちゃんより綺麗だと私は思ってる。
「ねぇ……水嶋さんは、前川くんのことが好きなわけじゃないのね?」
一条さんが長い睫毛を瞬かせ、尋ねた。大きな瞳に見つめられてドキドキしながらも、小さくコクリと頷いた。
「私が好き、なのは……矢野くんだから」
「良かった……」
心からホッとした表情を浮かべた一条さんは、本当に前川くんのことが好きなんだってことが伝わってきて、それを見た途端応援したくなった。私だって、誰かを好きになる気持ちが分かるから。
「一条さんみたいな美人から告白されたら、きっと前川くんだって好きになると思うよ」
私の言葉に、一条さんが頬をピンクに染めた。わっ、可愛い。いつも美人でツンとしてて、近寄りがたいイメージがあったけど、こんな表情もするんだ。
「私は……ダメ。みんなから生意気とかプライド高そうって思われてるし、相手のこと見てるだけで、睨んでるって思われるし……
私、水嶋さんみたいに小さくて可愛かったら良かったのに。そしたら私も、前川くんに好きになってもらえたかもしれないのに。水嶋さんが、羨ましい」
「えぇぇぇっっ、わ、私は小動物っていうかペット的な可愛さであって、人間ですらないし! 私は一条さんみたいに美人だったら良かったのにって凄く思うよ! 綺麗でスタイルが良くて、運動神経も良くて……私にはないもの、いっぱい持ってるもん」
コンプレックスなんて何一つないんだろうなって思ってた一条さんが、まさか私のことを羨ましく思ってたなんて、考えもしなくてビックリした。
「怖がらせちゃってごめんね」
そう言って一条さんは解放してくれて、取り巻きの子達も謝ってくれた。
きっと、取り巻きの子達は一条さんに憧れてて、彼女に気に入られたいが為に同調したり、気に入られるような行為を進んでしていたんだろうなって思うと、さっきまで恐いと思ってた子達もちょっと可愛く思えてきた。
本当に、外見や少し話したぐらいじゃ、その人の本質は分からないんだなぁ。私は今まで、見た目で判断して恐そうとか、苦手って決めつけてたんだ。
ほんの一歩踏み出しただけで、世界はこんなにも変わっていく。変えることが、出来るんだ。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる