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手編みのマフラーと熊のオルゴール

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「た、多恵ちゃぁぁんっ……ッグ……ウッ、ウッ……」
「ちょ、美紗ちゃん!? どうしたの!?」

 突然泣き出した私を前に、多恵ちゃんが慌てふためいてて、涙を止めなきゃって思うのに、思えば思うほど後から後から涙が湧き出してくる。ついでに鼻水も。

 嗚咽を漏らしながらも、多恵ちゃんに全て話した。

 矢野くんに手編みのマフラーを用意してたこと。涼子ちゃんに手編みのマフラーは引くし、重いって言われたこと。矢野くんが紀子ちゃんと付き合ってたこと。前川くんから告白されたこと……キス、されたこと。

「はぁぁぁぁああ、キス!?」
「ちょ、多恵ちゃん!!」

 あまりの大声に、薄い壁越しにお隣さんにも聞こえちゃうんじゃないかとビクビクしてしまう。

「それで美紗ちゃん、泣き腫らした目で帰ってきてたんだ」
「うん……ごめんね。ずっと、黙ってて……」

 今でも、信じたくない。夢……悪夢だったって思いたい。でも、あれは悪夢でも妄想なんかでもなかったみたいで。前川くんの言葉が、それを物語っていた。

「そ、れは……ショック、だったよね……」

 多恵ちゃんの言葉に、ジワッとまた涙が量産される。

「ウッ、ウッ……矢野くんに、前川くんからキスされたこと、知られ、ちゃうし……ッグ」
「なん、てゆーか……ことごとく、タイミング悪いよね」

 指摘されるひと言ひと言がもっともで、余計に悲しくなる。

 多恵ちゃんは、私の話を黙ってずっと聞いてくれた。ひとりで抱え込むには大きすぎた重荷を、多恵ちゃんが減らしてくれたように心が少し軽くなった。

 和紗が帰ってきたのを合図に立ち上がったので、多恵ちゃんを玄関で見送る。

「やっぱりこれは美紗ちゃんと矢野の問題だから、ちゃんとふたりで向き合った方がいいと思うよ」

 突き放すような言い方に胸がズキッとしたけど、多恵ちゃんは間違ってない。

「うん。そう、だよね……」

 なのに……分かってるのに、苦しくなる。私は多恵ちゃんと違って、気軽に男の子に話しかけられないし、上手く話せない。簡単に言ってしまえる多恵ちゃんを逆恨みしたくなるような気持ちまで湧き起こりそうになり、ギュッと拳を固く握り締めて俯いた。

 多恵ちゃんは私が落ち込んでることに気づき、さっきより柔らかい声で話しかけた。

「ふたりは両思いなんだからさ、美紗ちゃん自信持ちなよ! もっと矢野に自分の思ってること話したらいいし、甘えていいと思うよ。って、私は今まで付き合ったことないけどさ、ハハッ」
「ありがとう、多恵ちゃん」

 少しだけ気まづくなりかけたふたりの空気が和んだのを感じて、ホッとした。多恵ちゃんと喧嘩なんて、したくない。それに、多恵ちゃんは私のことを思って、言ってくれてるんだから。

 多恵ちゃんと冬休みも遊ぼうねと約束して、手を振った。
 部屋に戻り、受け取った四角い箱を開ける。そこには茶色い熊のオルゴールが入っていた。

 わっ、可愛い。矢野くん、どんな顔して買ったんだろ……見たかったな。

 熊の横についてるネジを回すと、優しい『カノン』の音色が響いてきた。私の好きな、曲。

 あぁ、矢野くんって感じ。いいなぁ。

 優しくて、癒される。私のために一生懸命選んでくれたんだって思うと、胸がほんわかと温かくなった。

 オルゴールの箱には、薄いピンクのメッセージカードが入ってた。

『水嶋さんへ

 メリークリスマス

 矢野颯太』

 黒字の『メリークリスマス』の後には赤ペンで書かれたハートマークが2つ斜めに踊っていた。

 こ、これは一体……どういう意図を持って付けられたのだろう。す、好きって意味なのかな。こんなことするんだ、矢野くん……可愛い、かも。

 それから、ふと……紀子ちゃんにも同じことをしたのかな、なんて勝手に考えて、勝手に落ち込んだ。

 スクールバッグからぐしゃぐしゃになったマフラーを取り出し、綺麗に畳んでシルバーの袋に入れ、赤いリボンを縛り直す。

 やっぱり……渡せないよ。

 物置になってるクローゼットを開けると、透明ケースの蓋を開け、見えないように奥にぐっと押し込むようにして入れた。
 
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