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手編みのマフラーと熊のオルゴール
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よし、今日こそは矢野くんに電話する!
そう決めて、お風呂上りに気合いを入れて子機を握り締めた。深呼吸し、もう既に暗記してしまった矢野くんの電話番号を指で押す。いつもは押せない最後の『1』。今日は、指を当てるとグッと力を込めた。
うわっ、押しちゃった!!
呼び出し音が鳴って、ドキーンと心臓が飛び出しそうになる。ドクドクドクドク鼓動が煩くて、電話の音に集中出来ない。
『もしもし、矢野ですが……』
ど、どうしよう。これ、矢野くんのお母さん、だよね……わ、何て言えばいいんだろう……
『もしもし?』
怪訝な声色に変わり、悪戯電話だと疑われないように慌てて声を上げた。
「も、もしもし、あの……矢野くんのクラスメートの水嶋と申しますが……颯太くん、いらっしゃいますか?」
大丈夫? 大丈夫だったかな、今の? 変な風に思われてないかな? うわっ、私『颯太くん』って言っちゃったよ。『颯太くん』、だって。本人にもそう呼べたら、いいのになぁ。
『え、颯太……ですか? 多恵ちゃん、じゃないわよねぇ?』
「ぇ……あ、多恵ちゃんの……友人、です……」
そこで多恵ちゃんの名前が出ることに、傷ついてしまう。やっぱり幼馴染って羨ましい。お母さんまで公認なんだもん。
『ちょっと待ってて下さいね。颯太ー! 颯太ー! 電話ー! 女の子から! ぇ、水嶋さんって子!』
お母さんってみんな、異性から電話がかかってくると気になるものなのかな。矢野くんのお母さんも『女の子から』って強調してる。
『うわっ、母さん! 大声出すなよ! っと、ごめ……ちょっと、待ってて』
私の返事も聞かず、オルゴールの音が流れ始めた。
矢野くん、焦ってたなぁ。どんな顔してたんだろ、見てみたい。
手持ち無沙汰になって机に座り、ノートを出して『矢野颯太』と書いてみる。
ブツッと音楽が切れた。
『ごめん、風呂入ってた』
「あ、そうだったんだ。ごめんね……急がせちゃって」
LINEだったら、こんなことにはならないんだろうなぁ。
『いや、大丈夫。何だった?』
何って……
『矢野颯太』をぐるぐる何度も丸で囲みながら、考える。
「声が、聞きたくて?」
『ッ……』
なななな何、言ってんだろ私。いや、嘘じゃないんだけど、なんか矢野くんが恥ずかしがってるっぽいから、私まで恥ずかしくなってきちゃった……
「ぇぇぇえーっと、もうすぐ、クリスマス……ですね」
うわー、何これ。唐突過ぎるよね。もっと自然な流れとかで切り出す筈だったのに。いきなり切りつけてどぉするのっ。
『そう、だね』
緊張を帯びた矢野くんの声に、ゴクリと生唾を飲み込む。
ほら、言わないと。
「も、もしも……マフラーとかもらえたら、嬉しい?」
矢野くんが息を呑み、それからゆっくりと答える。
『うん、嬉しい……』
そ、そっかぁ……うれ、しいんだ。
やっぱり電話慣れしてない私たちは、自然な会話なんか全然出来なくて。私は本棚にあった心理テストの本を取り出して矢野くんに心理テストを出したりして時間を繋いでた。
矢野くんの声を、なるべく長く聞いていたかったから……
矢野くんに、変な女って思われちゃったかな。でも、前に電話した時よりもいっぱい話せて、すごくすごく嬉しかった。
「それじゃ、おやすみなさい」
『あの。俺から、切るから』
「うん、分かった」
『じゃ……』
それから、1分ぐらいの余韻の後に矢野くんの電話が切れた。切れた途端腕が痛くなって、ずっと固定されてた腕が悲鳴上げてたのに気づいて、耳がジンジン熱くなって、強く受話器を押し付けていたことに気づいた。受話器も私の熱で、熱くなってる。
そう決めて、お風呂上りに気合いを入れて子機を握り締めた。深呼吸し、もう既に暗記してしまった矢野くんの電話番号を指で押す。いつもは押せない最後の『1』。今日は、指を当てるとグッと力を込めた。
うわっ、押しちゃった!!
呼び出し音が鳴って、ドキーンと心臓が飛び出しそうになる。ドクドクドクドク鼓動が煩くて、電話の音に集中出来ない。
『もしもし、矢野ですが……』
ど、どうしよう。これ、矢野くんのお母さん、だよね……わ、何て言えばいいんだろう……
『もしもし?』
怪訝な声色に変わり、悪戯電話だと疑われないように慌てて声を上げた。
「も、もしもし、あの……矢野くんのクラスメートの水嶋と申しますが……颯太くん、いらっしゃいますか?」
大丈夫? 大丈夫だったかな、今の? 変な風に思われてないかな? うわっ、私『颯太くん』って言っちゃったよ。『颯太くん』、だって。本人にもそう呼べたら、いいのになぁ。
『え、颯太……ですか? 多恵ちゃん、じゃないわよねぇ?』
「ぇ……あ、多恵ちゃんの……友人、です……」
そこで多恵ちゃんの名前が出ることに、傷ついてしまう。やっぱり幼馴染って羨ましい。お母さんまで公認なんだもん。
『ちょっと待ってて下さいね。颯太ー! 颯太ー! 電話ー! 女の子から! ぇ、水嶋さんって子!』
お母さんってみんな、異性から電話がかかってくると気になるものなのかな。矢野くんのお母さんも『女の子から』って強調してる。
『うわっ、母さん! 大声出すなよ! っと、ごめ……ちょっと、待ってて』
私の返事も聞かず、オルゴールの音が流れ始めた。
矢野くん、焦ってたなぁ。どんな顔してたんだろ、見てみたい。
手持ち無沙汰になって机に座り、ノートを出して『矢野颯太』と書いてみる。
ブツッと音楽が切れた。
『ごめん、風呂入ってた』
「あ、そうだったんだ。ごめんね……急がせちゃって」
LINEだったら、こんなことにはならないんだろうなぁ。
『いや、大丈夫。何だった?』
何って……
『矢野颯太』をぐるぐる何度も丸で囲みながら、考える。
「声が、聞きたくて?」
『ッ……』
なななな何、言ってんだろ私。いや、嘘じゃないんだけど、なんか矢野くんが恥ずかしがってるっぽいから、私まで恥ずかしくなってきちゃった……
「ぇぇぇえーっと、もうすぐ、クリスマス……ですね」
うわー、何これ。唐突過ぎるよね。もっと自然な流れとかで切り出す筈だったのに。いきなり切りつけてどぉするのっ。
『そう、だね』
緊張を帯びた矢野くんの声に、ゴクリと生唾を飲み込む。
ほら、言わないと。
「も、もしも……マフラーとかもらえたら、嬉しい?」
矢野くんが息を呑み、それからゆっくりと答える。
『うん、嬉しい……』
そ、そっかぁ……うれ、しいんだ。
やっぱり電話慣れしてない私たちは、自然な会話なんか全然出来なくて。私は本棚にあった心理テストの本を取り出して矢野くんに心理テストを出したりして時間を繋いでた。
矢野くんの声を、なるべく長く聞いていたかったから……
矢野くんに、変な女って思われちゃったかな。でも、前に電話した時よりもいっぱい話せて、すごくすごく嬉しかった。
「それじゃ、おやすみなさい」
『あの。俺から、切るから』
「うん、分かった」
『じゃ……』
それから、1分ぐらいの余韻の後に矢野くんの電話が切れた。切れた途端腕が痛くなって、ずっと固定されてた腕が悲鳴上げてたのに気づいて、耳がジンジン熱くなって、強く受話器を押し付けていたことに気づいた。受話器も私の熱で、熱くなってる。
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