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手編みのマフラーと熊のオルゴール

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「水野……水嶋!」
「はい」

 小さく返事をし、席を立って長岡先生の前まで行くと国語のテストを受け取る。

「水嶋は、クラスの最高得点の98点だ」

 一斉にどよめきが起こり、居た堪れなくなって俯く。思いっきり文系よりの私は、国語と社会は最高得点をとるぐらいにいいのだけど、理数系は大の苦手で、先日返ってきたテスト初日に受けた数学のテストは今までの自己最低を記録する28点だった。元々苦手な数学だけど、それに加えて矢野くんのことが頭から離れず、全然集中出来なかった。

 それにしても、28点はないよね……

 今回のテストが難しすぎたのかもなんて甘い期待をしたけれど、黒板に書かれた『平均 40点』にあっさりと裏切られた。高校なら赤点で補習レベルかもしれない。

 先生は最高得点の生徒の名前は上げるけど、成績の悪い生徒の名前を上げることはない。そんなわけで、私は本当はそれほど頭が良いわけでもないのに、なまじ国語と社会の点数がいいだけに頭が良い生徒というレッテルを貼られていた。たぶん、大人しくて真面目という見た目も加わってそう見られているのだろう。

 だからと言って、自ら28点のテストを晒して本当は頭が悪いんです、なんて公表したくないけど。

 席に戻る途中、「美紗ちゃん、すごーい!」と多恵ちゃんが小さく賞賛の声をあげ、曖昧な笑みを浮かべた。

 席に戻るとようやくみんなからの視線から逃れられ、フゥと息を吐く。

 国語は、簡単だと思う。読解問題は特に。だって、文章の中に既に答えが書かれているのだから。ただ問題を読んで、当てはまる言葉を探すだけでいい。物語の主人公の考えや感情を述べる問題だって、文章の中にヒントが散りばめられていて、そこから導き出せば理解出来る。

 矢野くんの心もそうやって文章で書かれていたらいいのに。そうしたら、私が知りたい答えを見つけることが出来るのになぁ。

 あと1週間もすればクリスマス。そして、冬休みが始まる。

 電気代が高くつくという理由で、ストーブを置くのは1月に入った3学期からなので、鉄筋コンクリートの校舎は底冷えする。それでも男子はまだズボンを履いてるからいいけど、女子はスカートなのできつい。

 防寒対策として制服の下にヒートテックを2枚重ね着して、スカートの下に短パンを穿き、更にお腹にカイロを貼っていても、いつもなら寒さで手足がかじかんで頭の芯まで冷えきっているのに、今日はなんだか頭がボーッとしている。

 どうしよう、眠気が襲ってきちゃった。

 テストが終わってからというもの毎日、寝不足の日々が続いてる。テスト期間中よりも、頑張って起きてるかもしれない。

 それは、矢野くんにクリスマスプレゼントでマフラーを編んでるから。今までまともに編み物なんてしたことなかったけど、お母さんが時間が空いてそうな時を狙って、基本の編み方を教えてもらった。『この前電話してきた男の子にあげるの?』なんて鋭い質問されちゃってドキドキしたけど。それからは、本を見ながらなんとか編み続けてる。

 力が入りすぎて、編み始めの方が硬くなっちゃった……もっと柔らかく編めばよかったなぁ。
 紺色に赤が入ったマフラー、矢野くんに似合うと思うんだけど、受け取ってくれるかな。

 矢野くんの背中を見つめながら、彼がマフラーをしてるところを想像してみる。

 あれから一緒に帰ってないけど、未だに教室で声も掛けられないけど、目線さえ恥ずかしくてまともに合わせられないけど……クリスマスだからこそ、伝えたい。

 矢野くんのことを想ってます、って。
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