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そして、違和感ありの四角関係

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 ふふっと微笑み合って歩き出そうとしたら、突然肩をグイと強引に引かれた。けど、それは矢野くんの立ってる右側じゃなくて……

「お、俺も一緒に帰る!」

 突然の前川くんの言葉に、ハァ!?

 すると、前川くんを追い掛けてきた涼子ちゃんが息を切らしながら追いついて、

「ハァッ、ハァッ……わ、私も一緒に帰る! だって、美紗ちゃん同じマンションだし」

 ハ。ハァァァァァァ!?

 私と矢野くんは困ったように顔を見合わせるけど、二人に強引に巻き込まれていた。矢野くんの左隣には私、その隣にはなぜか前川くんと涼子ちゃん。

 明らかに私と矢野くんが一緒に帰ろうとしてたことは分かってたはずなのに……察して欲しい。それなのに、私たちは何も言えず、ただ俯いて歩いている。強制的に仲良し4人組のような構図が出来上がっていた。

 矢野くんとふたりで、並んで帰るはずだったのに……

 矢野くんに何か喋りたいと思っても、他のふたりにも会話を聞かれるのだと思うと恥ずかしくて声を掛けられず、矢野くんは心を硬く閉ざしてしまったかのように表情をなくしていた。それとは対照的に明るい前川くんと涼子ちゃんが恨めしくなる。

 涼子ちゃんは前川くんに好きな食べ物やペットがいるのかとかテストはどうだったかなんてたわいのない質問を投げかけていて、あぁそうやって会話は生まれていくのかと少し感動しながら聞いてしまっていた。前川くんは涼子ちゃんに答えながら、必ず「りんごはぁ?」と振ってくる。

 そんな質問に答えるような気分じゃないのに、断ることも出来なくて愛想よく答えてしまう自分がすごく嫌だ。

 もしここで、矢野くんの手を引っ張って連れ出せたらいいのに。『ふたりきりになりたかったから』なんて言えたら……いいのになぁ。

 そんな私の願いは叶えられることなく、マンションのエレベーター前まで着いてしまった。

「ぁ。ありがとう……」

 矢野くんに向けて発した言葉は、なぜかぐねんと曲がって前川くんに受け止められていた。

「別に大したことねーって。じゃあな、りんご! おい、行くぞ矢野」

 矢野くんが振り返って私を見る。悲しそうに。私も悲しくなって、思わず睫毛を伏せた。

 ピンポーンとエレベーターの案内音と共に扉が開き、私と涼子ちゃんは静かに乗り込んだ。フゥッと大人っぽい溜息を吐き、ツンと顎を上向かせた涼子ちゃんが、私にピシッと厳しい視線を送った。

「抜け駆け禁止だからね!」

 3階に到着して扉が開き、エレベーターから出て行く涼子ちゃんを呆然と見つめる。

 なんの、抜け駆け? 私の本命は前川くんじゃないんだよ、矢野くんだよ? 

 ハァッと大きく溜息を吐く。マグネットタイプのステッカーで壁に貼り付けてある絨毯が粘着力が弱まってきたのか、上の方が剥がれてきて、びよーんと丸くなって項垂れている。

 せっかく勇気出したのになぁ。また明日からは、一緒に帰れなくなるのに……

 9階に着いて扉が開いた途端、風がビュービューと強く吹き付けてきた。制服を抑え、縮こまるようにして家路を急いだ。
 
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