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そして、違和感ありの四角関係
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今すぐ下駄箱まで飛んで行きたくなる気持ちを必死に抑え、村中先生の言葉も耳に入ってこない。いや、耳には入ってくるんだけど、右から左に流れていくだけで、言葉として認識出来ない。
最後に「おし、じゃあ終わり!」だけがはっきりと聞こえてきて、それを合図に勢い良く立ち上がった。ら、私のタイミングが早かったみたいで。
「美紗チャーン、そんなにテスト終わったの嬉しいのかぁ?」
村中先生に笑われ、つられるようにクラスのみんなにも笑われてしまった。
教室で担任の先生として接するときは『水嶋さん』と呼ぶけど、バド部では村中先生は私のことを『美紗チャン』と呼ぶ。部活でもないのにそんな呼び方されるし、皆に注目されるし、タイミング誤っちゃって恥ずかしい……
そんなことをしてるうちに、皆が帰り支度をして席を立ち始める。慌てて鞄とスクールバッグを手に扉へ向かうと、多恵ちゃんに腕をからめられた。
「美紗ちゃん、明日から部活あるし、今日どっか遊びに行かない?」
「ぁ、あの……多恵ちゃん……今日、矢野くんと一緒に帰る約束してて……」
せっかく誘ってくれたのに申し訳ないと思いながらも、正直に告白した。
「そうなんだ! 良かったじゃーん!!」
バンバンと背中を叩かれ、ちょっと痛い……ってゆうか、結構痛い。
多恵ちゃんは前回の私の情けないお見送り事件を聞いてるので、今度こそはうまくいくようにと成長する娘を見守る母親のような温かい眼差しを向けてくれた。
「また邪魔が入らないように、下駄箱までついてってあげるからね!」
「うん、ありがとう」
それは心強い。私ひとりじゃ、また逃げちゃうかもしれないから。
階段を下り、廊下を歩いてると昇降口で矢野くんが立ってるのが見えてきた。
あぁー、待っててくれてる。嬉しいっ。今日こそ一緒に帰れるんだ!
チラチラと周りを見渡したけど、そこには高橋くんも赤井くんも見えない。良かった……
「お、お待たせしました」
「い、いや……って、なんで野中までいるんだよ」
矢野くんが眉を寄せて、明らかに不機嫌な表情になった。
ぇ。矢野くんこんな表情するんだ、意外。ちょっと可愛いかも……
そう思う一方で、多恵ちゃんにだからこそこんな表情を見せるんだ……って気持ちが湧き上がり、嫉妬と寂しさで胸がグルグルした。
「はぁ!? 別に邪魔するつもりないから安心してよ。わざわざ美紗ちゃんを送り届けてあげたんだから感謝しなさいよね!」
「別に頼んでねーし」
そういってフイッとしてから、私を見て慌てて顔を真っ赤にした。
「ご、ごめ……い、行こっか」
「ぁ、うん」
矢野くんが歩き出したので、慌ててスニーカーに履き替える。振り返ると、多恵ちゃんが満面の笑みを浮かべ『がんばってね!』と口パクで伝えてきた。うんと頷き、矢野くんの背中を追いかける。
横に並ぶ勇気がなくて、私は矢野くんの斜め後ろを歩いていた。これじゃ、帰り道が偶然同じになった人みたい。
どうしてさっきまで矢野くんは多恵ちゃんと自然に話してたのに、私と一緒に歩き出した途端黙りこくってしまうんだろう。私にもあんな風に声掛けたり、不機嫌な表情見せたりして欲しいな。私じゃ、だめなのかな……
もう少しで校門を出るところで、矢野くんがピタッと足取りを止めた。私もつられて足を止めると、矢野くんが振り向いて困ったように眉を下げ、長い前髪を揺らして頭を掻いた。
「いやっ……隣、歩くかなって……思ったんだけど……」
ぁ。
うわーっ、そうだったんだ! 一緒に止まっちゃって、何してんだろ私! 矢野くんは、私に隣を歩いて欲しいって思ってたんだ!! そ、そうだったんだぁ……どうしよう、顔が熱い。
「あ、歩く!」
ちょこちょこと足を進め、矢野くんの隣に立つ。ベンチに座った時と同じくらいの距離は空いてるけど、それでも、嬉しい。
最後に「おし、じゃあ終わり!」だけがはっきりと聞こえてきて、それを合図に勢い良く立ち上がった。ら、私のタイミングが早かったみたいで。
「美紗チャーン、そんなにテスト終わったの嬉しいのかぁ?」
村中先生に笑われ、つられるようにクラスのみんなにも笑われてしまった。
教室で担任の先生として接するときは『水嶋さん』と呼ぶけど、バド部では村中先生は私のことを『美紗チャン』と呼ぶ。部活でもないのにそんな呼び方されるし、皆に注目されるし、タイミング誤っちゃって恥ずかしい……
そんなことをしてるうちに、皆が帰り支度をして席を立ち始める。慌てて鞄とスクールバッグを手に扉へ向かうと、多恵ちゃんに腕をからめられた。
「美紗ちゃん、明日から部活あるし、今日どっか遊びに行かない?」
「ぁ、あの……多恵ちゃん……今日、矢野くんと一緒に帰る約束してて……」
せっかく誘ってくれたのに申し訳ないと思いながらも、正直に告白した。
「そうなんだ! 良かったじゃーん!!」
バンバンと背中を叩かれ、ちょっと痛い……ってゆうか、結構痛い。
多恵ちゃんは前回の私の情けないお見送り事件を聞いてるので、今度こそはうまくいくようにと成長する娘を見守る母親のような温かい眼差しを向けてくれた。
「また邪魔が入らないように、下駄箱までついてってあげるからね!」
「うん、ありがとう」
それは心強い。私ひとりじゃ、また逃げちゃうかもしれないから。
階段を下り、廊下を歩いてると昇降口で矢野くんが立ってるのが見えてきた。
あぁー、待っててくれてる。嬉しいっ。今日こそ一緒に帰れるんだ!
チラチラと周りを見渡したけど、そこには高橋くんも赤井くんも見えない。良かった……
「お、お待たせしました」
「い、いや……って、なんで野中までいるんだよ」
矢野くんが眉を寄せて、明らかに不機嫌な表情になった。
ぇ。矢野くんこんな表情するんだ、意外。ちょっと可愛いかも……
そう思う一方で、多恵ちゃんにだからこそこんな表情を見せるんだ……って気持ちが湧き上がり、嫉妬と寂しさで胸がグルグルした。
「はぁ!? 別に邪魔するつもりないから安心してよ。わざわざ美紗ちゃんを送り届けてあげたんだから感謝しなさいよね!」
「別に頼んでねーし」
そういってフイッとしてから、私を見て慌てて顔を真っ赤にした。
「ご、ごめ……い、行こっか」
「ぁ、うん」
矢野くんが歩き出したので、慌ててスニーカーに履き替える。振り返ると、多恵ちゃんが満面の笑みを浮かべ『がんばってね!』と口パクで伝えてきた。うんと頷き、矢野くんの背中を追いかける。
横に並ぶ勇気がなくて、私は矢野くんの斜め後ろを歩いていた。これじゃ、帰り道が偶然同じになった人みたい。
どうしてさっきまで矢野くんは多恵ちゃんと自然に話してたのに、私と一緒に歩き出した途端黙りこくってしまうんだろう。私にもあんな風に声掛けたり、不機嫌な表情見せたりして欲しいな。私じゃ、だめなのかな……
もう少しで校門を出るところで、矢野くんがピタッと足取りを止めた。私もつられて足を止めると、矢野くんが振り向いて困ったように眉を下げ、長い前髪を揺らして頭を掻いた。
「いやっ……隣、歩くかなって……思ったんだけど……」
ぁ。
うわーっ、そうだったんだ! 一緒に止まっちゃって、何してんだろ私! 矢野くんは、私に隣を歩いて欲しいって思ってたんだ!! そ、そうだったんだぁ……どうしよう、顔が熱い。
「あ、歩く!」
ちょこちょこと足を進め、矢野くんの隣に立つ。ベンチに座った時と同じくらいの距離は空いてるけど、それでも、嬉しい。
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