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強引な三角関係
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きたきたきたきたーっっ。ついに、帰りの会まできたよーっっ。
本当に今日は長かった……前川くんに振り回されるし、ずっと一条さん達に睨まれるし、多恵ちゃんのテンションは異常に高いし。
矢野くん、結局一言も会話出来なかったけど、忘れてるってことは……ない、よね? 大丈夫、だよね?
「じゃ、今日からテスト週間で部活ないからって遊ぶなよー。テストなんてあっとゆうまに来るんだから、大人しく家帰って勉強しろー」
いつものごとく、気持ちが入ってないのではないかと疑いたくなるような緩い村中先生の締めの言葉で帰りの会が終了すると、机の横に既に手にかけていた鞄とスクールバッグを持って、後ろの扉に一目散に競歩選手並みの勢いで歩いていく。
「おい、りんごー!」
前川くんの声が後ろから聞こえてきたけど、あれはきっと空耳だと信じることにした。
階段をトントントン……と勢い良く駆け下りてたら、そのリズムのまま踊り場に出てしまい、何もないところで転びそうになって、慌てて手摺を掴んだ。
こんなところで転んだら、恥ずかしすぎる……
昇降口には1階に教室がある1年生が既に数人いたけど、2年生や3年生はまだ誰もいない。
ホッとしてスニーカーに履き替え、どこで待っていればいいのかとキョロキョロしてると、矢野くんが廊下を歩いている姿が目に入った。
約束、忘れてなかったんだ……
矢野くんの姿を見た途端、急に鼓動が速くなり、視線が釘付けになる。矢野くんも、私の姿を見て微笑んでくれる。
あぁ、私たち、これから一緒に帰るんだ。夢みたい……
矢野くんが、廊下から下駄箱までの低い3段の階段を下りてくる。もう、私たちの距離は目と鼻の先だ。それから、肩を並べて……一緒に帰るんだ。
どどどどどどうしよう。な、何話せばいいのか分かんない。何かメモとかしてこれば良かったぁ。
下駄箱のスノコにトン、と矢野くんが足を置いた時、
「颯太ー、一緒に帰ろうぜー」
矢野くんといつもつるんでる高橋くんが後ろから軽快に現れた。高橋くんは髪をいつもツンツンにあげていて、髪の毛と同じくらいテンション高くて、調子良くて、いつも先生や女子達に怒られてる。ちょっと……苦手なタイプ。
思わず、向かいの下駄箱の後ろに隠れてしまう。
「ぃや、ちょっと今日は……無理」
矢野くんはそう言って、急いでスニーカーに履き替える。すると、そこに追いついてきた赤井くんが、ふたりを見つけて合流した。
うっ、赤井くんまで来ちゃった。思わず隠れちゃったけど、こんなんじゃますます顔出せないよぉ……
「今日から部活ないしさぁ、俺ん家でゲームやろーぜ、ゲーム!」
「いやっ、俺はいいから!!」
拒否の言葉も虚しく、矢野くんが赤井くんに強引に連れ去られていく。その周りでは高橋くんがピョンピョン飛び跳ねていた。
下駄箱の影に隠れていた私と矢野くんの視線が悲しく絡まり合う。私は何も出来ず、ただ遠くなっていく矢野くんを見つめるしか出来なかった。
涙が、滲んでくる。
どうしていつも私は、勇気を出せないんだろう。矢野くんがせっかく一緒に帰ろうって誘ってくれたのに、下駄箱の後ろに隠れちゃうなんて。失望……したよね。
「おい、そんなとこで何してんだ」
「前川くん……」
振り向いて見上げると、前川くんにギョッとされてしまった。
「んな顔、すんな……バカ」
んな顔って。あぁ、泣きそうな顔になってて、きっと凄いブサイクになってるんだろうな。
目頭に力を入れて涙をギュッと押し戻し、矢野くんが既に見えなくなった校庭に向かって歩き出した。
「ごめん、なさい。じゃ……」
「あ、そうじゃねーって! りんご!!」
前川くんに関わると、ろくなことがない。
追いかけてこようとした前川くんに振り向くと、告げた。
「ひとりで、帰りたいの」
「ぁ。あぁ、分かった……」
普段の私とは違う低くて重い、はっきりと告げるその言葉に前川くんは驚いたように目を瞠り、退いた。
誰とも、喋りたくなかった……矢野くん以外、とは。
本当に今日は長かった……前川くんに振り回されるし、ずっと一条さん達に睨まれるし、多恵ちゃんのテンションは異常に高いし。
矢野くん、結局一言も会話出来なかったけど、忘れてるってことは……ない、よね? 大丈夫、だよね?
「じゃ、今日からテスト週間で部活ないからって遊ぶなよー。テストなんてあっとゆうまに来るんだから、大人しく家帰って勉強しろー」
いつものごとく、気持ちが入ってないのではないかと疑いたくなるような緩い村中先生の締めの言葉で帰りの会が終了すると、机の横に既に手にかけていた鞄とスクールバッグを持って、後ろの扉に一目散に競歩選手並みの勢いで歩いていく。
「おい、りんごー!」
前川くんの声が後ろから聞こえてきたけど、あれはきっと空耳だと信じることにした。
階段をトントントン……と勢い良く駆け下りてたら、そのリズムのまま踊り場に出てしまい、何もないところで転びそうになって、慌てて手摺を掴んだ。
こんなところで転んだら、恥ずかしすぎる……
昇降口には1階に教室がある1年生が既に数人いたけど、2年生や3年生はまだ誰もいない。
ホッとしてスニーカーに履き替え、どこで待っていればいいのかとキョロキョロしてると、矢野くんが廊下を歩いている姿が目に入った。
約束、忘れてなかったんだ……
矢野くんの姿を見た途端、急に鼓動が速くなり、視線が釘付けになる。矢野くんも、私の姿を見て微笑んでくれる。
あぁ、私たち、これから一緒に帰るんだ。夢みたい……
矢野くんが、廊下から下駄箱までの低い3段の階段を下りてくる。もう、私たちの距離は目と鼻の先だ。それから、肩を並べて……一緒に帰るんだ。
どどどどどどうしよう。な、何話せばいいのか分かんない。何かメモとかしてこれば良かったぁ。
下駄箱のスノコにトン、と矢野くんが足を置いた時、
「颯太ー、一緒に帰ろうぜー」
矢野くんといつもつるんでる高橋くんが後ろから軽快に現れた。高橋くんは髪をいつもツンツンにあげていて、髪の毛と同じくらいテンション高くて、調子良くて、いつも先生や女子達に怒られてる。ちょっと……苦手なタイプ。
思わず、向かいの下駄箱の後ろに隠れてしまう。
「ぃや、ちょっと今日は……無理」
矢野くんはそう言って、急いでスニーカーに履き替える。すると、そこに追いついてきた赤井くんが、ふたりを見つけて合流した。
うっ、赤井くんまで来ちゃった。思わず隠れちゃったけど、こんなんじゃますます顔出せないよぉ……
「今日から部活ないしさぁ、俺ん家でゲームやろーぜ、ゲーム!」
「いやっ、俺はいいから!!」
拒否の言葉も虚しく、矢野くんが赤井くんに強引に連れ去られていく。その周りでは高橋くんがピョンピョン飛び跳ねていた。
下駄箱の影に隠れていた私と矢野くんの視線が悲しく絡まり合う。私は何も出来ず、ただ遠くなっていく矢野くんを見つめるしか出来なかった。
涙が、滲んでくる。
どうしていつも私は、勇気を出せないんだろう。矢野くんがせっかく一緒に帰ろうって誘ってくれたのに、下駄箱の後ろに隠れちゃうなんて。失望……したよね。
「おい、そんなとこで何してんだ」
「前川くん……」
振り向いて見上げると、前川くんにギョッとされてしまった。
「んな顔、すんな……バカ」
んな顔って。あぁ、泣きそうな顔になってて、きっと凄いブサイクになってるんだろうな。
目頭に力を入れて涙をギュッと押し戻し、矢野くんが既に見えなくなった校庭に向かって歩き出した。
「ごめん、なさい。じゃ……」
「あ、そうじゃねーって! りんご!!」
前川くんに関わると、ろくなことがない。
追いかけてこようとした前川くんに振り向くと、告げた。
「ひとりで、帰りたいの」
「ぁ。あぁ、分かった……」
普段の私とは違う低くて重い、はっきりと告げるその言葉に前川くんは驚いたように目を瞠り、退いた。
誰とも、喋りたくなかった……矢野くん以外、とは。
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