矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

奏音 美都

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強引な三角関係

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 朝、胸を高鳴らせて最高に幸せだった私の気持ちは、涼子ちゃんのひと言で見事に砕け散った。

「前川くんが美紗ちゃん好きだって本当!? あの前川くんが美紗ちゃんを好きなんて嘘だよね? ありえないんですけど!!」

 敵意剥き出しの言葉。涼子ちゃんはつい最近まで3年のサッカー部の先輩が好きって騒いでたのに、それが急に前川くんのことを『かっこいい!』と言い出すようになってたんだった。

「ありえないと思うよ」

 私も、そう心から願いたい。今日は矢野くんのことだけで心をいっぱいにしたいから、前川くんの話題は避けて通りたかった。

「だよねー!! よっちゃんからLINE来た時はビックリしたけど、そんなわけないよねぇ」 

 一条いちじょう 美子よしこだから、よっちゃん。一条さんが『よっちゃん』って呼び名を嫌ってるのを知ってるから、彼女と仲のいい子達は『よしちゃん』とか『よーちゃん』って呼んでるんだけど、涼子ちゃんだけはなぜか『よっちゃん』と呼んでいた。これってもしかして……マウンティング女子ってやつなのかな。3組での華やか女子グループのリーダー格である涼子ちゃんは、うちのクラスの一条さんに対して自分が格上だと見せつけたいみたい。仲良さそうにしてるのに、裏ではそんなこと考えてるとか恐いよ……

 涼子ちゃんの言葉には明らかに、イケメンである前川くんが地味子である私を好きになるはずないという小馬鹿にしてる感が漂っていたけど、私はそれに異存いぞんはなかった。そして、その意見を涼子ちゃんがみんなに広めてこの噂を掻き消してくれればいいとさえ祈った。

「美紗ちゃん、矢野くんと付き合ってるんでしょ? 美紗ちゃんがふらふらしてるから、そんな変な噂たっちゃったんじゃないのぉ?」

 ぇ。それって、関係あるのかなぁ?

 でもここで涼子ちゃんに歯向かって波風立てたくない。今日は何しろ矢野くんと一緒に帰れる日なんだから。何を言われても、我慢して耐えよう……

 学校までの道のりが、いつも以上に長く感じた。

 涼子ちゃんと昇降口で別れ際、「よぉ! お、おはよう、りんご!」と後ろから声を掛けられる。

 嫌な予感が当たりませんようにと、おそるおそる振り向いたら、やっぱりそれは前川くんで。驚いて前川くんと私を交互に見つめる涼子ちゃんの視線が物凄く、痛い。

「ぐ、偶然だな。俺も今、来たとこなんだ。一緒に教室行こうぜ」

 なななななんで!? そんなこと、今まで一度としてなかったのに!!

「ぁ。りょ、涼子ちゃんも一緒に……」
「行く!」

 涼子ちゃんは素早く自分のクラスの下駄箱で上履きに履き替えると、私たちの下駄箱まで一緒に歩いてきた。

 う、わぁぁ……なんで私、涼子ちゃんも一緒にとか言っちゃったんだろ。すごく気まづいんですけど。

 憂鬱な気持ちで項垂れながらゆっくりと上履きに私が履き替えている間、涼子ちゃんがいつも私と話すよりも2オクターブ高い鼻にかかる甘い声で前川くんに話しかけていた。

「前川くん、久しぶりぃ。うちのクラスにも、たまには遊びに来てよぉ」

 涼子ちゃん、グッジョブ! そのままずっと、話し続けてて……

 心の中でガッツポーズする。

「え……と、名前なんだっけ?」

 前川くんのとんだ返しに、涼子ちゃんの表情が明らかに不機嫌になる。

 こ、こわっ……早く教室着いてぇぇ。
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