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涙の理由

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 授業中も休み中も、クラスメートの好奇の視線が突き刺さりっぱなしで本当に辛い。

 お弁当を食べ終えた長い昼休み、教室にいるのが居た堪れなくて、多恵ちゃんと二人で校庭に出ると、あまり人のいなさそうな焼却炉のある校舎裏へと向かった。

 湿った落ち葉に覆われた校舎裏は影で覆われていて、暗くて肌寒い。それでも、みんなの視線に晒されるよりはマシだった。

「多恵ちゃん……多恵ちゃんは、LINEメッセージ受け取ったんだよね?」
「う、ん……」
「何が、書かれてたの?」

 多恵ちゃんはちょっと躊躇いながらもスカートのポケットからスマホを取り出すと、LINEのアプリボタンを押し、スクロールした。

『2年1組』のグループメール。そこに載ってた赤井くんのプロフ写真が熊のイラストで、思わず笑ってしまう。いや、笑ってる場合じゃないんだった。

『ニュース、ニュース! さっき塩沼公園をチャリで走ってたら矢野と水嶋さん発見!
 ふたりでベンチに座ってデートしてたー!! マジ、ビビった!! てか、あの二人付き合ってたとか、知ってた奴いる? 水嶋さん、おっぱいでかいんだよなー。マジ、矢野うらやましー。俺も揉ませてくんねーかなwww』

 こ、こんなメールが拡散してたなんて……

 視界が真っ暗になって、倒れそうだった。よりにもよって赤井くん……本当に、赤井くんは私の黒歴史を次々と更新してくれる。

 矢野くんがスマホ持ってなくて、ほんとに良かった……

「ねぇ……美紗ちゃん、矢野と付き合うことにしたんだよね?」

 ここで、多恵ちゃんが確信に迫る質問をしてきた。つむじ風が吹き上げて湿った落ち葉が舞い上がり、スカートがふわっと踊りそうになり、押さえつけた。声が、掠れる。

「それが……まだ、してなくて」
「えぇぇぇぇ!! じゃあ、二人はまだ付き合ってもいないのに、こんなに噂広まっちゃってんの!? うわぁぁ、それ最悪だね!!」
「うん……そう、だよね」

 多恵ちゃんに言われて、ズーンと落ち込む。フーッと短く息を吐き、冷たい校舎の壁にもたれた私に、多恵ちゃんが壁ドンしてきた。

「で、どうすんの?」

 これ、胸キュンどころか、かなり恐いんですけど……

「それ、でね……実は、多恵ちゃんにお願いがあって……」

 朝から忍ばせておいて温かくなった二つ折りした封筒をスカートのポケットから取り出し、迫り来る多恵ちゃんの目の前に差し出した。

「これ、矢野くんに渡してもらえないかなぁ……?」
 
 多恵ちゃんは私から受け取った手紙を、スカートのポケットにしまった。

「こんな状況じゃ渡せないもんね。いいよ、渡しといてあげる」

 その言葉を聞き、ホッとした。

「で? 手紙には何て書いたの?」
「ぁ。え、と……『よろしくお願いします』って」
「何それ! かたっ!!」

 多恵ちゃんは呆れつつも、「ま、美紗ちゃんらしいけどねぇ」と納得してくれた。

 昨日、矢野くんと別れてから考えに考えた末に出した結論は……
 矢野くんと付き合う、という選択だった。

 赤井くんに私たちが一緒にいるところを見られてしまって、付き合ってると誤解され、翌日には噂になってるだろうから、ここで断ったら矢野くんが気まづい思いをするだろうから今更断れないとか自分に色々言い訳してたけど……結局、私は矢野くんの彼女になりたくて、そんな風に結論づけようとしていただけってことに気づいた。

 まだ、あの夢が正夢かだなんて分からない。

 それに、たとえ正夢だったとしても、今の自分の気持ちに嘘をついてまで矢野くんの告白を断るのは違うんじゃないかなと思えて。

 10年後の未来がどうなるかなんて、分からない。そんな未来に怯えて過ごすよりも、今の気持ちを大切にしようって……そう思えたのは、矢野くんと直接話せたからだと思う。とは言っても、矢野くんと話したことなんてほんと少なくて、すぐに帰っちゃったけど。

 それでも……緊張した矢野くんの表情から、空気から、私を本当に好きでいてくれてるんだってことが伝わってきたから。だから、そんな矢野くんの気持ちが嬉しくて。ちゃんと、受け止めたいって思えた。

 多恵ちゃんに感謝しないと。もし私と矢野くんだけだったら……直接会うなんて大それたこと、出来なかったと思うから。
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