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手紙
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「お姉ちゃん? 味噌汁持ったまま何ボーッとしてるの?」
夕食の最中にお母さんに指摘され、ハッとして慌てて味噌汁を啜った。
い、いけない。つい矢野くんの手紙のこと考えちゃってた。
「ふふっ……お母さん、年頃の女の子にはね、色々あるの」
「ちょ、和紗! な、何もない何もない!! ちょっと考え事してただけ」
ニヤニヤする和紗に眉を寄せて睨んでから、ご飯に意識を集中した。
もう、完全におもしろがってる。話すんじゃなかったなぁ……
壁時計を見るともうすぐ8時。早くお風呂に入らないと、多恵ちゃんとの約束の時間に間に合わなくなっちゃう。
「ごちそうさま!」
台所の流しに食器を置き、軽く濯いでから浴室へと向かった。
8時半になったところで多恵ちゃんのスマホに電話する。と、着信音も鳴らないうちに多恵ちゃんが電話に出た。
『美紗ちゃん、どうだった?』
わっ、いきなりですか……多恵ちゃんらしいけど。
「う、ん……ラブレター、っぽい」
『ぽい?』
「ぁ、たぶん……ラブレター。悪戯で、なければ……」
『矢野は悪戯なんかでラブレター渡すようなことはしないから!』
多恵ちゃんの力強い否定の言葉に、ふわっと気持ちが軽くなった。
『それでそれで? 何て書いてあったの?』
電話越しでも、多恵ちゃんにぐいぐいと肩を押されているような気がする。
「ぇと、『好きです。付き合って下さい』って……」
頭の中で勝手に矢野くんの声でリフレインされ、恥ずかしくなって思わず頬を押さえた。
『えぇっ!? それだけ?』
多恵ちゃんの言葉に、今まで舞い上がってたテンションが急降下する。
「それ、だけ……だから、私……矢野くんが、本当に私のことを好きなのか……なんで好き、なのか……よく、分からなくて」
自分で言った言葉に、傷付けられる。
なんで矢野くん、私を好きなんだろ……クラスにも学年にも、可愛い子なんてたくさんいるのに。どんなきっかけで、どうして私を意識するようになって、付き合いたいって思うようになったのか、理由を知りたいよ……
少しの沈黙の後、決意に満ちた多恵ちゃんの言葉が響いた。
『よし。これはさ、本人と直接話すしかないよ。あぁっ!! 矢野も携帯持ってないんだったぁ、めんどくさぁ。ちょ、すぐに電話かけるから待ってて!』
そう言ってすぐ、ブツッと通話が切れた。
待ってて、って……多恵ちゃん、これから矢野くんに電話して、私と話が出来るようにセッティングしようとしてくれてるんだ。
申し訳ない気持ちとありがたい気持ちが、複雑に入り混じる。
これから矢野くんと電話で直接話すことになるのかな。ど、どうしよう心の準備が……な、何話せばいいんだろう。うわっ、緊張して手が震えてきちゃった。
それからふと、気がついた。
……矢野くんも、携帯持ってないんだ。
自分だけがクラスの除け者だと思ってたので、他にも仲間がいて、それが矢野くんだと知って嬉しくなった。自分たちには、特別な絆があるんじゃないか、なんて勝手に運命のように感じてしまったりして。
夕食の最中にお母さんに指摘され、ハッとして慌てて味噌汁を啜った。
い、いけない。つい矢野くんの手紙のこと考えちゃってた。
「ふふっ……お母さん、年頃の女の子にはね、色々あるの」
「ちょ、和紗! な、何もない何もない!! ちょっと考え事してただけ」
ニヤニヤする和紗に眉を寄せて睨んでから、ご飯に意識を集中した。
もう、完全におもしろがってる。話すんじゃなかったなぁ……
壁時計を見るともうすぐ8時。早くお風呂に入らないと、多恵ちゃんとの約束の時間に間に合わなくなっちゃう。
「ごちそうさま!」
台所の流しに食器を置き、軽く濯いでから浴室へと向かった。
8時半になったところで多恵ちゃんのスマホに電話する。と、着信音も鳴らないうちに多恵ちゃんが電話に出た。
『美紗ちゃん、どうだった?』
わっ、いきなりですか……多恵ちゃんらしいけど。
「う、ん……ラブレター、っぽい」
『ぽい?』
「ぁ、たぶん……ラブレター。悪戯で、なければ……」
『矢野は悪戯なんかでラブレター渡すようなことはしないから!』
多恵ちゃんの力強い否定の言葉に、ふわっと気持ちが軽くなった。
『それでそれで? 何て書いてあったの?』
電話越しでも、多恵ちゃんにぐいぐいと肩を押されているような気がする。
「ぇと、『好きです。付き合って下さい』って……」
頭の中で勝手に矢野くんの声でリフレインされ、恥ずかしくなって思わず頬を押さえた。
『えぇっ!? それだけ?』
多恵ちゃんの言葉に、今まで舞い上がってたテンションが急降下する。
「それ、だけ……だから、私……矢野くんが、本当に私のことを好きなのか……なんで好き、なのか……よく、分からなくて」
自分で言った言葉に、傷付けられる。
なんで矢野くん、私を好きなんだろ……クラスにも学年にも、可愛い子なんてたくさんいるのに。どんなきっかけで、どうして私を意識するようになって、付き合いたいって思うようになったのか、理由を知りたいよ……
少しの沈黙の後、決意に満ちた多恵ちゃんの言葉が響いた。
『よし。これはさ、本人と直接話すしかないよ。あぁっ!! 矢野も携帯持ってないんだったぁ、めんどくさぁ。ちょ、すぐに電話かけるから待ってて!』
そう言ってすぐ、ブツッと通話が切れた。
待ってて、って……多恵ちゃん、これから矢野くんに電話して、私と話が出来るようにセッティングしようとしてくれてるんだ。
申し訳ない気持ちとありがたい気持ちが、複雑に入り混じる。
これから矢野くんと電話で直接話すことになるのかな。ど、どうしよう心の準備が……な、何話せばいいんだろう。うわっ、緊張して手が震えてきちゃった。
それからふと、気がついた。
……矢野くんも、携帯持ってないんだ。
自分だけがクラスの除け者だと思ってたので、他にも仲間がいて、それが矢野くんだと知って嬉しくなった。自分たちには、特別な絆があるんじゃないか、なんて勝手に運命のように感じてしまったりして。
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