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手紙
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家に帰ると、靴を脱ぐ時間すら惜しくて歩きながらスニーカーの踵をぐいと指で押して乱暴に履き捨て、短い廊下の途中にある和紗とのふたり部屋に入り、ドアを閉める。
和紗はまだ帰ってなかった。合唱コンクールの後、友達とどっか寄り道でもしてるんだろう。
ホッとして勉強机の前に座ると、土偶が情けない顔で私を見つめてる。土偶を掴んでくるっと背を向けてから考え直し、また元の位置に戻した。気合いを入れるようにフッと短く息を吐き、スクールバッグからゆっくりと白い封筒を取り出す。
封筒を持つ手が震えていて、心臓がバクバクと波打っている。封筒には何も書かれてないし、まだ中に何が書かれているのかも分からないのに、緊張しすぎな自分が笑えてくる。
封筒にはしっかり糊が貼ってあって、封筒をトントンと机に叩いて中身を下に寄せるとハサミで慎重に細く切って開封した。中には何の飾り気もない白い便箋が1枚入っていた。四つ折りになった紙を開くと、そこには触れれば指に鉛筆の粉がつくぐらいの強い筆圧で書かれた実直な文字があった。
『水嶋 美紗子さんへ
好きです。付き合って下さい。
矢野 颯太』
文字が目に飛び込んできた瞬間、バクンと大きく心臓が跳ねる。カーッと一気に脳髄までかっ切れるように熱くなり、ピストルで撃ち抜かれたように机に突っ伏した。
ラ、ラブレターだった。間違いなく、矢野くんから私へのラブレター……胸が、苦しい。どうしよ、嬉しすぎて死にそう。何これ、凄い威力なんだけど……っっ。
なんの飾りもないシンプルでいて、心のど真ん中目掛けてストレートに伝わって来る文章。矢野くんのことを深く知らないけれど、でも、なんだかとても彼らしいと思えた。
落ち着け、私の心臓。ここにあるのは矢野くんの書いた手紙であって、矢野くん自身じゃないんだから。
文字がこんなにも胸をドキドキさせることを、初めて知った。
ドキドキするのは仕方ない......だって、初めてもらったラブレターが、矢野くんからだったんだから。
顔だけを上げると、目の前に手紙が飛び込んでくる。たった3行の短い文章を、何度も何度も目で追った。読むたびに、非現実のように思えていた文章が、どんどん現実に近づいてくるような気がして。
何度読んでもドキドキは収まらず、胸は苦しくなる一方だった。それなのに、矢野くんの文字から視線を逸らせない。
「なぁに、ラブレター?」
「わっ!!」
突然和紗に耳元で聞かれ、思いっきり仰け反った私は両手に手紙を持ったまま勢い良く椅子ごと床にガターンと倒れてしまった。
「ちょ……大丈夫、お姉ちゃん?」
痛い。
「うわーっ、そっかぁ。気になってた人から告白されるなんて、凄いじゃん!! お姉ちゃんに彼氏かぁ……私の方が絶対に先に彼氏作ると思ってたのに、ちょっと悔しいかも」
確かに和紗の方が恋愛は積極的だし、小学生の時に付き合いはしなかったものの、両想いって噂になった男の子もいた。って、あれ? 何気に私、下に見られてる? まぁ、恋愛偏差値低いことは自覚してるし、仕方ないんだけど。
「い、いや……でも、まだ付き合うって決めてないし」
「え、なんで!?」
「意識はしてたけど、まだ好きなのかもよく分からないし、まさか付き合うとか思ってなかったし、それに……もしかしたら、何かの罰ゲームとかだったりするかもしれないし」
「多恵ちゃんがそんなことすると思うわけ?」
和紗も多恵ちゃんとは何度も会ってるし、一緒に遊んだこともあった。
「……しない、と思う」
「だったらさ、もう決まりじゃん! 別に、100%好きって確信持って付き合う必要なんてないんだし、付き合ってるうちに好きになることもあるんだからさ、とにかく付き合ってみなよ!」
なんだか、和紗が恋愛のエキスパートに見えてきた。
「そ、そうかな……」
「そうそう!!」
そう言われると、そんな風に思えてくるから不思議。
和紗はまだ帰ってなかった。合唱コンクールの後、友達とどっか寄り道でもしてるんだろう。
ホッとして勉強机の前に座ると、土偶が情けない顔で私を見つめてる。土偶を掴んでくるっと背を向けてから考え直し、また元の位置に戻した。気合いを入れるようにフッと短く息を吐き、スクールバッグからゆっくりと白い封筒を取り出す。
封筒を持つ手が震えていて、心臓がバクバクと波打っている。封筒には何も書かれてないし、まだ中に何が書かれているのかも分からないのに、緊張しすぎな自分が笑えてくる。
封筒にはしっかり糊が貼ってあって、封筒をトントンと机に叩いて中身を下に寄せるとハサミで慎重に細く切って開封した。中には何の飾り気もない白い便箋が1枚入っていた。四つ折りになった紙を開くと、そこには触れれば指に鉛筆の粉がつくぐらいの強い筆圧で書かれた実直な文字があった。
『水嶋 美紗子さんへ
好きです。付き合って下さい。
矢野 颯太』
文字が目に飛び込んできた瞬間、バクンと大きく心臓が跳ねる。カーッと一気に脳髄までかっ切れるように熱くなり、ピストルで撃ち抜かれたように机に突っ伏した。
ラ、ラブレターだった。間違いなく、矢野くんから私へのラブレター……胸が、苦しい。どうしよ、嬉しすぎて死にそう。何これ、凄い威力なんだけど……っっ。
なんの飾りもないシンプルでいて、心のど真ん中目掛けてストレートに伝わって来る文章。矢野くんのことを深く知らないけれど、でも、なんだかとても彼らしいと思えた。
落ち着け、私の心臓。ここにあるのは矢野くんの書いた手紙であって、矢野くん自身じゃないんだから。
文字がこんなにも胸をドキドキさせることを、初めて知った。
ドキドキするのは仕方ない......だって、初めてもらったラブレターが、矢野くんからだったんだから。
顔だけを上げると、目の前に手紙が飛び込んでくる。たった3行の短い文章を、何度も何度も目で追った。読むたびに、非現実のように思えていた文章が、どんどん現実に近づいてくるような気がして。
何度読んでもドキドキは収まらず、胸は苦しくなる一方だった。それなのに、矢野くんの文字から視線を逸らせない。
「なぁに、ラブレター?」
「わっ!!」
突然和紗に耳元で聞かれ、思いっきり仰け反った私は両手に手紙を持ったまま勢い良く椅子ごと床にガターンと倒れてしまった。
「ちょ……大丈夫、お姉ちゃん?」
痛い。
「うわーっ、そっかぁ。気になってた人から告白されるなんて、凄いじゃん!! お姉ちゃんに彼氏かぁ……私の方が絶対に先に彼氏作ると思ってたのに、ちょっと悔しいかも」
確かに和紗の方が恋愛は積極的だし、小学生の時に付き合いはしなかったものの、両想いって噂になった男の子もいた。って、あれ? 何気に私、下に見られてる? まぁ、恋愛偏差値低いことは自覚してるし、仕方ないんだけど。
「い、いや……でも、まだ付き合うって決めてないし」
「え、なんで!?」
「意識はしてたけど、まだ好きなのかもよく分からないし、まさか付き合うとか思ってなかったし、それに……もしかしたら、何かの罰ゲームとかだったりするかもしれないし」
「多恵ちゃんがそんなことすると思うわけ?」
和紗も多恵ちゃんとは何度も会ってるし、一緒に遊んだこともあった。
「……しない、と思う」
「だったらさ、もう決まりじゃん! 別に、100%好きって確信持って付き合う必要なんてないんだし、付き合ってるうちに好きになることもあるんだからさ、とにかく付き合ってみなよ!」
なんだか、和紗が恋愛のエキスパートに見えてきた。
「そ、そうかな……」
「そうそう!!」
そう言われると、そんな風に思えてくるから不思議。
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