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手紙

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 多恵ちゃんが、私のスクールバッグを覗き込んだ。

「ねぇねぇ、何が書いてあるか開けてみてよ。あん時の矢野の真っ赤になった顔! ぜーったいラブレターだって確信してんだよねぇっ。ふふっ、あいつがラブレターとか、笑える!!」

 言われて、ドキッとした。

 そりゃあ地下鉄に乗ってる間、気になって仕方なくて、今すぐにでも開けたいって思ってたけど……
 
「ぇっと……多恵ちゃん、ごめんね。
 後で、ちゃんと報告……する、から」

 そこに何が書かれているのかは分からないけど、もし矢野くんが真剣な思いで書いてくれたのなら、ここで多恵ちゃんの興味本位なノリに乗じて開けるべきではないと思った。

 それに……もし、私が同じことをされたら、立ち直れないぐらい凄く傷つくと思う。

 多恵ちゃんは私の顔を見つめた後、慌てて目の前で両手を激しく振った。

「いやいや、いいのいいの!! ごめっ、なんか悪ノリだったよね。美紗ちゃんにとっては、初めてのラブレターだったのに。ほんっと、ごめんっっ!!」
「こ、こっちこそごめんね!! なんか、重い感じになっちゃって……」

 ざらりとした空気を感じて、喉をコクリと鳴らす。

 私、感じ悪かったかな。せっかく多恵ちゃんは協力してくれようとしてたのに、空気重くしちゃったよね。

 だからって、ここで手紙を開けるのが正解とは思わないけど、どう言えば多恵ちゃんを傷つけることなく答えられるのかなんて分からない。

 砂場で遊んでいた男の子がお母さんに連れられて去っていくと、多恵ちゃんと二人きりになった。

 いつの間にか陽が落ち始め、多恵ちゃんの髪がオレンジ色に染まっている。夜が迫っている匂いがした。

 フーッと細く息を吐いて、なだめるように多恵ちゃんが私の背中にそっと手を置いた。彼女の掌から、優しさが伝わって来る。

「もし気まづい感じになるのが嫌だったらさ……私の方から伝えとくから、気軽に言ってね」
「ぇ?」

 どういうこと?

「断りにくいでしょ? あんま話したこともないようなクラスメートから告白されても。美紗ちゃん、男子苦手だし。
 大丈夫、矢野ならさ、まぁ落ち込むだろうけど男子なんだしなんとかなるよ。暫くは美紗ちゃんも矢野と顔合わせづらいだろうけど、そのうち時間が経てばまた普通になるだろうし」
「ちょ、ちょっと待って……」

 多恵ちゃん、私が矢野くんを好きじゃないって前提でどんどん話進めちゃってる……

 少し上目遣いに多恵ちゃんを見つめ、勇気を振り絞って伝えた。


「わ、たし……矢野くんのこと……嫌いじゃないっていうか……

 寧ろ、好き……だよ?」

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