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手紙
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帰り道の鶴舞駅構内、クラス全員が合唱コンクールの興奮を引き摺っていた。
「まさか本当に優勝するとはな!!」
「俺らってすごくねぇ?」
今なら、本当に凄いねって心からそう思える。
クラスがひとつになったって喜びが、みんなの心に溢れていた。
「村中ちゃぁん、ジュースお願いしまーす!」
『お願いしまーす!!』
赤井くんの言葉に、皆が口を揃えて合唱する。
「わーったから、地下鉄乗ったらお前ら静かにしろよー」
村中先生は口では生徒を嗜めながらも、嬉しそうに笑った。
ざわざわと喧騒が続く中、姿が見えなくなっていた多恵ちゃんが私の袖をちょいちょいと引っ張って、皆の列から少し離れたところに連れていく。
「これ、矢野から」
何も書かれていない、真っ白な封筒を渡される。
ぇ……矢野、くん?
その時、地下鉄が緩やかにホームへ流れ込んできて、慌てて封筒をスクールバッグの中に押し込んだ。
会話を交わすことなく、私と多恵ちゃんは地下鉄の扉へと向かう。
狭い車内にぎゅうぎゅう詰めのクラスメート達がいる中で手紙のことを聞けるはずもなく、多恵ちゃんも私も何か言いたそうな表情で互いに顔を見合わせるだけだった。
スクールバッグを持つ手に力が入り、手汗をかいているのが触れなくても分かった。電車の揺れに呼応するように、心臓がトクトクと跳ね上がる。
何気なさを装って周りを眺めると、矢野くんが男子たちに肩を組まれ、絡まれて笑っていた。
矢野くん、普通にしてるように見えるけど、多恵ちゃんにはどんな顔して、どんな風に言って渡したんだろう。手紙には、何が書いてあるんだろう……うぅっ、凄く……気になる。
興奮と期待で今すぐにでも取り出して読みたい気持ちと、がっかりしない為にもあまり期待をしちゃいけないと自制する気持ちがぐいぐいと心の中で大きく膨らんで押し合い、競い合っている。
あぁっ、むず痒いよぉっっ……
地下鉄を降り、駅を上がると学校へは戻らず、解散となった。
「お前ら寄り道しないで、ちゃんと家帰れよー!」
村中先生の言葉を合図に、多恵ちゃんが私の腕を組んだ。
「美紗ちゃん、一緒に帰ろ」
明らかに私と多恵ちゃんの帰路は違うんだけど、目的が分かってる私は逆らうことなく多恵ちゃんに捕獲され、連れ去られて行った。
駅前の横断歩道を渡った先にあるドーナツショップに多恵ちゃんは行きたかったみたいだけど、そこには既にクラスメートや先輩達が大勢いたので諦め、駅とは反対方向になる横断歩道を更に渡り、コンビニを通り過ぎて緩やかな坂を下り、その先にある人目につかない児童公園へと向かった。
そこは簡単な遊具にベンチが2つ置いてあるだけで、私たちみたいな中学生が来ることはまずない。
ベンチに座ると、多恵ちゃんがいきなりの先制攻撃を切りつけてきた。
「矢野が、美紗ちゃんを好きだったなんてねぇー!」
「やっ、まだラブレターかだなんて、決まってないし!! もしかしたら、果し状とか……」
「プッ、果し状って! 美紗ちゃんって、時々すごい天然ボケかますよね。矢野がなんのために美紗ちゃんに決闘申し込むわけ?」
「そ、そうですよね……」
確かに、果し状はないかも。
ほんとに、ラブレター……なのかな。
最近、矢野くんが話しかけてくれるようになったり、目がよく合うようになって、もしかしたら矢野くんも私のこと意識してるんじゃ……なんて、期待する気持ちも少なからずあった。それをずっと否定してきたのは、間違ってた時に傷つきたくないから……自分一人で勘違いしてたとか恥ずかしすぎるし、カッコ悪すぎる。
だけど、まさかラブレターもらうなんて、夢にも思ってなかった。
「コンクールの後さぁ、矢野に呼び出されて封筒渡された時、めっちゃびっくりしたわ。もしかして、私のことが好きなんじゃないかって思ってさぁ」
「ぇ……」
もしかして、多恵ちゃん実は矢野くんのことを好きだったらどうしよう……
そんな不安が、一瞬過る。
「『水嶋さんに渡して欲しい』って言われて、あぁなーんだって安心したけどね。だってさぁ、そんなんでぎくしゃくするの嫌じゃん?」
「そ、そっか……」
幼馴染って、そういうものなのかな……私には、よく分からないけど。
「まさか本当に優勝するとはな!!」
「俺らってすごくねぇ?」
今なら、本当に凄いねって心からそう思える。
クラスがひとつになったって喜びが、みんなの心に溢れていた。
「村中ちゃぁん、ジュースお願いしまーす!」
『お願いしまーす!!』
赤井くんの言葉に、皆が口を揃えて合唱する。
「わーったから、地下鉄乗ったらお前ら静かにしろよー」
村中先生は口では生徒を嗜めながらも、嬉しそうに笑った。
ざわざわと喧騒が続く中、姿が見えなくなっていた多恵ちゃんが私の袖をちょいちょいと引っ張って、皆の列から少し離れたところに連れていく。
「これ、矢野から」
何も書かれていない、真っ白な封筒を渡される。
ぇ……矢野、くん?
その時、地下鉄が緩やかにホームへ流れ込んできて、慌てて封筒をスクールバッグの中に押し込んだ。
会話を交わすことなく、私と多恵ちゃんは地下鉄の扉へと向かう。
狭い車内にぎゅうぎゅう詰めのクラスメート達がいる中で手紙のことを聞けるはずもなく、多恵ちゃんも私も何か言いたそうな表情で互いに顔を見合わせるだけだった。
スクールバッグを持つ手に力が入り、手汗をかいているのが触れなくても分かった。電車の揺れに呼応するように、心臓がトクトクと跳ね上がる。
何気なさを装って周りを眺めると、矢野くんが男子たちに肩を組まれ、絡まれて笑っていた。
矢野くん、普通にしてるように見えるけど、多恵ちゃんにはどんな顔して、どんな風に言って渡したんだろう。手紙には、何が書いてあるんだろう……うぅっ、凄く……気になる。
興奮と期待で今すぐにでも取り出して読みたい気持ちと、がっかりしない為にもあまり期待をしちゃいけないと自制する気持ちがぐいぐいと心の中で大きく膨らんで押し合い、競い合っている。
あぁっ、むず痒いよぉっっ……
地下鉄を降り、駅を上がると学校へは戻らず、解散となった。
「お前ら寄り道しないで、ちゃんと家帰れよー!」
村中先生の言葉を合図に、多恵ちゃんが私の腕を組んだ。
「美紗ちゃん、一緒に帰ろ」
明らかに私と多恵ちゃんの帰路は違うんだけど、目的が分かってる私は逆らうことなく多恵ちゃんに捕獲され、連れ去られて行った。
駅前の横断歩道を渡った先にあるドーナツショップに多恵ちゃんは行きたかったみたいだけど、そこには既にクラスメートや先輩達が大勢いたので諦め、駅とは反対方向になる横断歩道を更に渡り、コンビニを通り過ぎて緩やかな坂を下り、その先にある人目につかない児童公園へと向かった。
そこは簡単な遊具にベンチが2つ置いてあるだけで、私たちみたいな中学生が来ることはまずない。
ベンチに座ると、多恵ちゃんがいきなりの先制攻撃を切りつけてきた。
「矢野が、美紗ちゃんを好きだったなんてねぇー!」
「やっ、まだラブレターかだなんて、決まってないし!! もしかしたら、果し状とか……」
「プッ、果し状って! 美紗ちゃんって、時々すごい天然ボケかますよね。矢野がなんのために美紗ちゃんに決闘申し込むわけ?」
「そ、そうですよね……」
確かに、果し状はないかも。
ほんとに、ラブレター……なのかな。
最近、矢野くんが話しかけてくれるようになったり、目がよく合うようになって、もしかしたら矢野くんも私のこと意識してるんじゃ……なんて、期待する気持ちも少なからずあった。それをずっと否定してきたのは、間違ってた時に傷つきたくないから……自分一人で勘違いしてたとか恥ずかしすぎるし、カッコ悪すぎる。
だけど、まさかラブレターもらうなんて、夢にも思ってなかった。
「コンクールの後さぁ、矢野に呼び出されて封筒渡された時、めっちゃびっくりしたわ。もしかして、私のことが好きなんじゃないかって思ってさぁ」
「ぇ……」
もしかして、多恵ちゃん実は矢野くんのことを好きだったらどうしよう……
そんな不安が、一瞬過る。
「『水嶋さんに渡して欲しい』って言われて、あぁなーんだって安心したけどね。だってさぁ、そんなんでぎくしゃくするの嫌じゃん?」
「そ、そっか……」
幼馴染って、そういうものなのかな……私には、よく分からないけど。
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