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不意打ち
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退院から2日後。
「行ってきまーす」
玄関で声を掛けると、家を後にした。和紗も同じ中学なんだけど、いつも用意するのはギリギリで私よりも後に家を出る。
今日から学校に行けて、良かった。
退院した日が土曜だったお陰で週末にゆっくりと休め、月曜の今日からは普通に学校に行くことが出来たので、事故にあった日と昏睡状態だった翌日を合わせて2日間休むだけで済んだ。学校が好きってわけではないけど、週末の間、病気でもないのに安静のためにとベッドでずっと寝かせられているのはすっごく退屈だった。
家に帰ってからも夢のことを考えたりしたけど、病院にいた時にはあれほど鮮明だったはずの記憶は、時間と共にどんどん薄れていっていた。
大学ノートに詳細に書かれた夢の記録は、私の机の引き出しの奥に眠ったまま、一度も頁を開いていない。
あれはきっと……
私の願望が見せた、都合のいい夢なんだ。
まだ彼女が叫んだ言葉が脳の片隅にこびりつきながらも、私は夢をそう結論づけた。
10階建てマンションの9階に住んでる私は、いつも3階の涼子ちゃんの家に寄り、そこから中学まで一緒に歩いて登校している。
かと言って涼子ちゃんと特に仲が良いわけでも、気が合うわけでもなかった。
小学生の時の分団の集合場所はマンション下のロビーで、そこからみんなで固まって登校してた。同じ学年なのは私たち二人だけだったので一緒に並ばされてたんだけど、それほど親しく喋るわけではなかったし、学年別で近所の子同士で帰る時にも涼子ちゃんは仲良しの友達とずっと喋っていた。
涼子ちゃんは同じ学区にあるおばあちゃんの住んでいる家から今のマンションに引っ越してきたので、私と違って転校生ではなかった。だから、既に友達もたくさんいたし、私みたいに環境に馴染めなくて悩むこともなかった。
中学に入ったら一緒に登校する必要はなかったんだけど、涼子ちゃんのお母さんに声をかけられたことをきっかけに毎朝登校するようになったのだった。
『美紗子ちゃん、悪いんだけどうちの涼子と一緒に学校行ってくれる? あの子ひとりで行かせると、毎朝遅刻しそうで……美紗子ちゃんならしっかりしてるから、一緒に行ってくれると安心だから。悪いわねぇ』
『いえ、大丈夫です』
分団では、涼子ちゃんは毎朝時間ぎりぎり、時には遅刻してきてみんなをやきもきさせていた。6年生になって私が分団長、涼子ちゃんが副分団長になったんだけど、誰よりも副分団長が来るのが遅いと同じ分団の子の親から私に文句が来たこともあった。
それでも、涼子ちゃんのお母さんは離婚して女手ひとつで仕事を掛け持ちしながら涼子ちゃんと弟の史生くんを育てていることをお母さんから聞いているので、おばさんの頼みは断りにくかった。
本当はエレベーター横のコンクリート階段の方が音が響かなくて好きなんだけど、マンションのちょうど真ん中に設置されている非常階段で下りると303号室の涼子ちゃんの家がすぐ目の前になるので、お天気が悪くない限りこちらから行くことにしている。
なるべく近所に迷惑にならないよう、スニーカーを響かせないように足を忍ばせて非常階段を下りる。本当は、リズム良く下りていきたいんだけどな。
手摺に触れるとひんやりと冷たかった。風も少しずつ冷たく強くなってきていて、これからは風が強い日はコンクリート階段を使おうと思った。そうしないと、ずっと制服のスカートを抑えながら歩かないといけなくなる。
「行ってきまーす」
玄関で声を掛けると、家を後にした。和紗も同じ中学なんだけど、いつも用意するのはギリギリで私よりも後に家を出る。
今日から学校に行けて、良かった。
退院した日が土曜だったお陰で週末にゆっくりと休め、月曜の今日からは普通に学校に行くことが出来たので、事故にあった日と昏睡状態だった翌日を合わせて2日間休むだけで済んだ。学校が好きってわけではないけど、週末の間、病気でもないのに安静のためにとベッドでずっと寝かせられているのはすっごく退屈だった。
家に帰ってからも夢のことを考えたりしたけど、病院にいた時にはあれほど鮮明だったはずの記憶は、時間と共にどんどん薄れていっていた。
大学ノートに詳細に書かれた夢の記録は、私の机の引き出しの奥に眠ったまま、一度も頁を開いていない。
あれはきっと……
私の願望が見せた、都合のいい夢なんだ。
まだ彼女が叫んだ言葉が脳の片隅にこびりつきながらも、私は夢をそう結論づけた。
10階建てマンションの9階に住んでる私は、いつも3階の涼子ちゃんの家に寄り、そこから中学まで一緒に歩いて登校している。
かと言って涼子ちゃんと特に仲が良いわけでも、気が合うわけでもなかった。
小学生の時の分団の集合場所はマンション下のロビーで、そこからみんなで固まって登校してた。同じ学年なのは私たち二人だけだったので一緒に並ばされてたんだけど、それほど親しく喋るわけではなかったし、学年別で近所の子同士で帰る時にも涼子ちゃんは仲良しの友達とずっと喋っていた。
涼子ちゃんは同じ学区にあるおばあちゃんの住んでいる家から今のマンションに引っ越してきたので、私と違って転校生ではなかった。だから、既に友達もたくさんいたし、私みたいに環境に馴染めなくて悩むこともなかった。
中学に入ったら一緒に登校する必要はなかったんだけど、涼子ちゃんのお母さんに声をかけられたことをきっかけに毎朝登校するようになったのだった。
『美紗子ちゃん、悪いんだけどうちの涼子と一緒に学校行ってくれる? あの子ひとりで行かせると、毎朝遅刻しそうで……美紗子ちゃんならしっかりしてるから、一緒に行ってくれると安心だから。悪いわねぇ』
『いえ、大丈夫です』
分団では、涼子ちゃんは毎朝時間ぎりぎり、時には遅刻してきてみんなをやきもきさせていた。6年生になって私が分団長、涼子ちゃんが副分団長になったんだけど、誰よりも副分団長が来るのが遅いと同じ分団の子の親から私に文句が来たこともあった。
それでも、涼子ちゃんのお母さんは離婚して女手ひとつで仕事を掛け持ちしながら涼子ちゃんと弟の史生くんを育てていることをお母さんから聞いているので、おばさんの頼みは断りにくかった。
本当はエレベーター横のコンクリート階段の方が音が響かなくて好きなんだけど、マンションのちょうど真ん中に設置されている非常階段で下りると303号室の涼子ちゃんの家がすぐ目の前になるので、お天気が悪くない限りこちらから行くことにしている。
なるべく近所に迷惑にならないよう、スニーカーを響かせないように足を忍ばせて非常階段を下りる。本当は、リズム良く下りていきたいんだけどな。
手摺に触れるとひんやりと冷たかった。風も少しずつ冷たく強くなってきていて、これからは風が強い日はコンクリート階段を使おうと思った。そうしないと、ずっと制服のスカートを抑えながら歩かないといけなくなる。
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