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プロローグ
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小金井先生が黒板に向かってチョークを走らせたタイミングで、多恵ちゃんが小さく四角に折ったメモを後ろの席の男子に渡しているのが視界の端に映る。後ろを振り向かず、確実にメモが見える位置で渡しているのが手慣れている。
中学生の多恵ちゃんを目にし、懐かしさと同時に寂しさを覚える。
耳が隠れるぐらいのショートボブに涼しい一重の瞳、小さくて可愛い丸みのある鼻に似合わないぐらい大きい口は笑うと更に大きく開く。明るくて活発で、いつも私を守ってくれた、大好きだった私の友達。
野中 多恵ちゃんは、私が唯一クラスで仲良くしていた女の子であり、部活も同じバドミントン部でダブルスを組んでいた。あんなに仲が良かったのに、今ではもう連絡を取ることがなくなって、東京でOLをしているらしいとしか知らない。
何をきっかけに、私たちは疎遠になってしまったんだろう……
小金井先生の目を掻い潜って、次から次へと多恵ちゃんのメモが生徒の手から手へと渡されていく。中には先生が通るすぐ横で渡している子もいて、見ているこっちがハラハラしてしまう。
もしかして、このメモって……
それを思い出した時、このメモが原因で多恵ちゃんと少しずつ距離が離れていき、やがて中学を卒業して高校に入ってからは連絡をとらなくなったことを思い出した。
メモの行き先を見たくないと思いながらも、目で追わずにはいられない。
メモの最終目的地は、思った通り、中学生の私だった。
彼女はメモを受け取ると、まるで敵に狙われている小動物のように背中を小さく丸く縮こませ、先生の様子をビクビクと窺いながら、そっと紙を開いた。
私の立っている位置からはメモの字が読めなかったけど、ここから見えずとも、そこに書かれている内容を私は知っていた。
『矢野が別れたいって言ってる』
多恵ちゃんからの、伝言だ。
彼女は俯き、唇をきつく噛み締めた。そんな後ろ姿を見ていると、胸がギュッと痛くなる。
だって私は、彼女の気持ちを分かっているから。
もう気持ちが冷めてしまったの?
別れたいならどうして直接、言ってくれないの?
なぜ、こんな形で伝えるの?
悲しみとやるせなさと怒りとがグチャグチャになって、今すぐにでも立ち上がって矢野くんの席まで行き、机をバンと鳴らして自分の気持ちをぶちまけたかった。
喚き散らして大声で泣くことが出来たら、どんなにいいだろうって考えてた。
けれど、現実の私はただ俯いて渡された紙を見つめているだけ。泣くことさえ、出来なかった。
だって私は、泣けるほど真剣に矢野くんと付き合うことができなかったから。彼だけを責める権利なんて、私にはない。
私は、矢野くんに彼女として何もしてあげられなかった。
話しかけることも、気持ちを伝えることも出来なかった。
だから、別れを告げられて当然。
仕方ないことなんだ。
そう、諦めてしまった過去の私。
中学生の私は顔を上げると矢野くんの背中を見つめながら睫毛を震わせ、それから小さく溜息を吐いて俯いた。
ーーねぇ、それでいいの?
彼女に向かって、心の中で呼び掛ける。
中学生の多恵ちゃんを目にし、懐かしさと同時に寂しさを覚える。
耳が隠れるぐらいのショートボブに涼しい一重の瞳、小さくて可愛い丸みのある鼻に似合わないぐらい大きい口は笑うと更に大きく開く。明るくて活発で、いつも私を守ってくれた、大好きだった私の友達。
野中 多恵ちゃんは、私が唯一クラスで仲良くしていた女の子であり、部活も同じバドミントン部でダブルスを組んでいた。あんなに仲が良かったのに、今ではもう連絡を取ることがなくなって、東京でOLをしているらしいとしか知らない。
何をきっかけに、私たちは疎遠になってしまったんだろう……
小金井先生の目を掻い潜って、次から次へと多恵ちゃんのメモが生徒の手から手へと渡されていく。中には先生が通るすぐ横で渡している子もいて、見ているこっちがハラハラしてしまう。
もしかして、このメモって……
それを思い出した時、このメモが原因で多恵ちゃんと少しずつ距離が離れていき、やがて中学を卒業して高校に入ってからは連絡をとらなくなったことを思い出した。
メモの行き先を見たくないと思いながらも、目で追わずにはいられない。
メモの最終目的地は、思った通り、中学生の私だった。
彼女はメモを受け取ると、まるで敵に狙われている小動物のように背中を小さく丸く縮こませ、先生の様子をビクビクと窺いながら、そっと紙を開いた。
私の立っている位置からはメモの字が読めなかったけど、ここから見えずとも、そこに書かれている内容を私は知っていた。
『矢野が別れたいって言ってる』
多恵ちゃんからの、伝言だ。
彼女は俯き、唇をきつく噛み締めた。そんな後ろ姿を見ていると、胸がギュッと痛くなる。
だって私は、彼女の気持ちを分かっているから。
もう気持ちが冷めてしまったの?
別れたいならどうして直接、言ってくれないの?
なぜ、こんな形で伝えるの?
悲しみとやるせなさと怒りとがグチャグチャになって、今すぐにでも立ち上がって矢野くんの席まで行き、机をバンと鳴らして自分の気持ちをぶちまけたかった。
喚き散らして大声で泣くことが出来たら、どんなにいいだろうって考えてた。
けれど、現実の私はただ俯いて渡された紙を見つめているだけ。泣くことさえ、出来なかった。
だって私は、泣けるほど真剣に矢野くんと付き合うことができなかったから。彼だけを責める権利なんて、私にはない。
私は、矢野くんに彼女として何もしてあげられなかった。
話しかけることも、気持ちを伝えることも出来なかった。
だから、別れを告げられて当然。
仕方ないことなんだ。
そう、諦めてしまった過去の私。
中学生の私は顔を上げると矢野くんの背中を見つめながら睫毛を震わせ、それから小さく溜息を吐いて俯いた。
ーーねぇ、それでいいの?
彼女に向かって、心の中で呼び掛ける。
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