ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都

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ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

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 そう思った途端、私は走り出していました。けれど、何かに押し戻されてしまいます。

 これが……『カキン』の力。それでも、私は……諦めるわけにはまいりませんわ!!

 もう一度グーッと力を込めて押してみると、スーッとその力が消えていきました。

 急いでライアン様とルナ嬢の前にたちはだかります。

「お待ち下さいませ!!」

 ライアン様が、いきなり現れた私に目を見張りました。

「アンジェリカ!!」

 と、思ったら……私の躰は、ライアン様の逞しい腕に包まれていました。

「ラ、ライアン様……」
「良かった、アンジェリカに会えた……もう一生会えなかったら、どうしようかと思っていた」
「ライアン様がルナ嬢と口付けを交わすと聞いたら、いてもたってもいられなくて……勢いで、はしたなく飛び出していました。申し訳ございません……」
「嬉しいよ、アンジェリカ。もう君に愛想を尽かされたのではないかと心配していたんだ」
「私こそ……ライアン様が心変わりされたのではないかと、気が気ではありませんでした」

 見つめ合っていると、ルナ嬢が割って入りました。

「ちょっと、ちょっとちょっとー!! 何、勝手に出てきてイチャついてんのよ!! てか、どうして課金したのにアンジェリカがここに来れるのよ!!」
「ルナ、いい加減にしてくれ。もうこれ以上、私たちの仲を引き裂こうとするのは許さない」
「なんですってぇ!! だったら、持ってるお金ぜーんぶ課金して、何が何でもライアンを手に入れてやるんだからー!!」

 あぁ、最大の呪いがかけられるのですね……!!

 恐ろしさに目眩がします……ですが、ライアン様とご一緒でしたら、どんな苦難でも乗り越えてゆけますわ。

 覚悟を決めてライアン様とふたり抱き合い、ギュッと強く瞳を閉じましたが……いくら待っても、一向に何も起こる気配がありません。

 ルナ嬢の声が、虚しく響きます。

「ぁ、あれ……お金、入れられない……ぇ、どうなってるの!? 
 えぇっ、『ライアンの婚約者を蹴落とす特別ラブイベント終了』って、どういうことなのよー!!」

 ルナ嬢が、力なく地面に崩れ落ちました。

 彼女が言っている意味がまったく分かりませんが、どうやら『カキン』の呪いを発動することができなかったようです。

 もしかしたら、私がライアン様の前に飛び出そうとしたあの時に、その力が失効したのかもしれません。

「う、嘘っっ!! あんなにお金注ぎ込んだのに、それで攻略できないって、なんなのよこのクソゲー!! こんなムリゲー、二度とやるかぁぁ!!」

 散々罵ってから、ルナ嬢の姿がスーッと幽霊のように消えていきました。

「う、そ……」
「なん、だ……」

 ライアン様と立ち竦み、茫然とします。

 いったい、なんだったのでしょう……

 騒ぎを聞きつけたのか、ライアン様のご両親が現れました。おじ様が私に気づき、お声をかけられました。

「おや、アンジェリカじゃないか。いつになったら遊びに来てくれるのかと、心待ちにしていたところだったんだよ。ご両親は元気かね?」
「え。だって、ルナ嬢が……」
「ルナ嬢? 誰だね、それは?」

 おば様がにっこりします。

「さぁさ、中へ入って。夏とはいえ、この辺りは夜は冷えるわ。アンジェリカちゃんが風邪でもひいたら大変だわ」

 ライアン様が私の背中を抱いて家の中へと導こうとしてくださいましたが、私は躊躇っていました。

「どうしたんだ、アンジェリカ?」
「ぁの……ライアン様は……私が止めていなければ、ルナ嬢と口づけていたのですよね……」

 私と一生会えないぐらいならというお気持ちからそう決心されたとはいえ、心がもやもやしてしまいます。

 ライアン様の私の背中を抱いていた手が下り、拳をグッと握り締めました。

「すまない、アンジェリカ……大切な君を傷つけてしまって。
 でも私は……ルナ嬢と唇を合わせるつもりはなかったんだ。これを使って、回避しようとしていた」

 そう言ってライアン様がポケットから取り出したのは、柔らかくて弾力のあるボールでした。

「まぁ、そうでしたの……」
「アンジェリカと婚姻を結ぶその日に、初めての口づけを交わすと誓ったのだ。私のすべては、君だけのものなのだから」
「ライアン様……」

 私とライアン様は顔を見合わせ、それからにっこりと微笑み合いました。

 どうやら、私たちの幸せな日常が戻ってきたようですわ。


 夏休み明け、進級した私たちのクラスに転入生が入ってきました。

「皆様、転入生のルナさんです。ルナさんは、ライアンさんの席の隣が空いていますので……」
「あ、先生! 私、席はディビッドの隣に座ります。それから、学園の案内も彼に頼みますから大丈夫です!」

 どうやら、今回のターゲットはディビッド様のようですわ。
 ディビッド様のご婚約者であるケイト嬢は、いったいどうするおつもりかしら……

 ルナ嬢はまだ、『キャラコウリャク』とやらを諦めていないようです。
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