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第十章 同じ空の下
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「勇気くん、痛くない?」
「ハッハ……ラグビー部では怪我なんてしょっちゅうじゃけぇ、これぐらいなんともないがよ」
「そっか。ラグビーって凄く怪我多そうだもんね」
それから勇気くんのラグビー部での練習の話になって、いつもと変わらない勇気くんの雰囲気に安心した。やっぱり昨日のは私の勘違いというか、思い違いだったんだ。
「今、救急セット持ってくるから、待ってて」
「おぉ」
けれど、女子用のテントに入ると、なぜか勇気くんも一緒に入ってきた。どうしようと焦りつつ、手当てはここでした方がいいかもしれないと思い直し、バッグから救急セットを取り出すと勇気くんを座らせ、怪我をしたところにアルコールで消毒した。
「ッッ……」
「ごめっ、痛い?」
「いや……美和子ぉ」
「ん?」
見上げると、勇気くんが私をまっすぐに見つめてる。
「好いちょっど」
えと……
「かすた、どん?」
「かすたどんやないだがよ」
勇気くんが顔を顰めた。
です、よね……
「昨日、美和子の手ぇ繋いだ時に気づかんかったけ?」
「……」
あの時、勇気くんに手を握られて、もしかして勇気くんは私を好きなんじゃないかって気持ちも心の中にあった。でも、信じたくなくて、無理やり否定して、人恋しいからだとかいって、納得させようとしてた。
「俺はぁ、美和子のことがわっぜぇ好きがよ。海には負けん!」
「な、なんで海くんがそこに出てくるのっ」
「見とりゃー、分かるがよ。あいつも美和子んこと好いちょうのは」
「ど、どうして勇気くんは……私のこと、好きって思うの?」
勇気くんは真面目な顔をして腕を組んだ。
「わっぜ綺麗なとこじゃろ。郁美みたいにガサツじゃないしぃ……あとはぁ、英語が喋れて、外国ぅ住んどって、かっこええがよ」
勇気くんの言葉に、胸の中がもやもやしてくる。
「それって……本当に恋愛感情なのかな? 勇気くんも……近すぎて、気づいてないんだと思う」
「なんのことじゃ?」
「勇気くんの近くに、私よりもっと大切にしてる誰かがいるはずってこと」
首を傾げ、私の言葉を理解しようと眉をぐっと寄せた後、勇気くんは短い髪をグシャグシャ豪快にかき混ぜた。
「あぁーっ!! 美和子の言うとる話は、まわりくどくて分からんがよ!
結局美和子は、俺んことどう思っとんね?」
どストレートに聞かれ、ウグッと息が詰まる。
「私は、勇気くんのことは好きだけど……恋愛感情としてではないし、もうすぐカナダに帰るから……付き合うことは出来ない」
「海とも……か?」
精悍な表情で尋ねられ、目を逸らすことが出来ない。
「うん……誰とも、付き合う気はないから」
その時、テントの向こうで声が聞こえた。
「鈴木さん、勇気……そこにいる?」
海、くん……
急いで勇気くんの手当てを終え、テントのジッパーを開けて出ると、近くに海くんが立っていた。
さっきの話、聞こえたかな……
胸がバクバクし、笑顔が引き攣る。
「どうしたの、海くん?」
「二人が遅いから、何かあったんじゃないかって山下さんが心配して、見に行くように言われたんだ。俺は、草スキー終わったから」
気のせいか、海くんの話し方がいつもよりそっけなくて、悲しくなる。
「おぉおぉ、海ぃ。俺と美和子の仲を邪魔しに来たんけ?」
テントから出てきた勇気くんがわざと私の肩に手を置くと、海くんがプイッと顔を背けた。
「別に……」
私の前を歩く海くんは声をかけられることを拒否しているかのようなオーラを放っていて、黙ってついていくことしか出来なかった。
「ハッハ……ラグビー部では怪我なんてしょっちゅうじゃけぇ、これぐらいなんともないがよ」
「そっか。ラグビーって凄く怪我多そうだもんね」
それから勇気くんのラグビー部での練習の話になって、いつもと変わらない勇気くんの雰囲気に安心した。やっぱり昨日のは私の勘違いというか、思い違いだったんだ。
「今、救急セット持ってくるから、待ってて」
「おぉ」
けれど、女子用のテントに入ると、なぜか勇気くんも一緒に入ってきた。どうしようと焦りつつ、手当てはここでした方がいいかもしれないと思い直し、バッグから救急セットを取り出すと勇気くんを座らせ、怪我をしたところにアルコールで消毒した。
「ッッ……」
「ごめっ、痛い?」
「いや……美和子ぉ」
「ん?」
見上げると、勇気くんが私をまっすぐに見つめてる。
「好いちょっど」
えと……
「かすた、どん?」
「かすたどんやないだがよ」
勇気くんが顔を顰めた。
です、よね……
「昨日、美和子の手ぇ繋いだ時に気づかんかったけ?」
「……」
あの時、勇気くんに手を握られて、もしかして勇気くんは私を好きなんじゃないかって気持ちも心の中にあった。でも、信じたくなくて、無理やり否定して、人恋しいからだとかいって、納得させようとしてた。
「俺はぁ、美和子のことがわっぜぇ好きがよ。海には負けん!」
「な、なんで海くんがそこに出てくるのっ」
「見とりゃー、分かるがよ。あいつも美和子んこと好いちょうのは」
「ど、どうして勇気くんは……私のこと、好きって思うの?」
勇気くんは真面目な顔をして腕を組んだ。
「わっぜ綺麗なとこじゃろ。郁美みたいにガサツじゃないしぃ……あとはぁ、英語が喋れて、外国ぅ住んどって、かっこええがよ」
勇気くんの言葉に、胸の中がもやもやしてくる。
「それって……本当に恋愛感情なのかな? 勇気くんも……近すぎて、気づいてないんだと思う」
「なんのことじゃ?」
「勇気くんの近くに、私よりもっと大切にしてる誰かがいるはずってこと」
首を傾げ、私の言葉を理解しようと眉をぐっと寄せた後、勇気くんは短い髪をグシャグシャ豪快にかき混ぜた。
「あぁーっ!! 美和子の言うとる話は、まわりくどくて分からんがよ!
結局美和子は、俺んことどう思っとんね?」
どストレートに聞かれ、ウグッと息が詰まる。
「私は、勇気くんのことは好きだけど……恋愛感情としてではないし、もうすぐカナダに帰るから……付き合うことは出来ない」
「海とも……か?」
精悍な表情で尋ねられ、目を逸らすことが出来ない。
「うん……誰とも、付き合う気はないから」
その時、テントの向こうで声が聞こえた。
「鈴木さん、勇気……そこにいる?」
海、くん……
急いで勇気くんの手当てを終え、テントのジッパーを開けて出ると、近くに海くんが立っていた。
さっきの話、聞こえたかな……
胸がバクバクし、笑顔が引き攣る。
「どうしたの、海くん?」
「二人が遅いから、何かあったんじゃないかって山下さんが心配して、見に行くように言われたんだ。俺は、草スキー終わったから」
気のせいか、海くんの話し方がいつもよりそっけなくて、悲しくなる。
「おぉおぉ、海ぃ。俺と美和子の仲を邪魔しに来たんけ?」
テントから出てきた勇気くんがわざと私の肩に手を置くと、海くんがプイッと顔を背けた。
「別に……」
私の前を歩く海くんは声をかけられることを拒否しているかのようなオーラを放っていて、黙ってついていくことしか出来なかった。
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