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第十章 同じ空の下
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「ごめんね、勇気くん……」
「ほら、手ぇ」
「うん」
勇気くんの大きな手が伸び、支えてもらって体勢を起こすと、もう既に髪の毛には草がついていた。それを払おうとしていると、勇気くんに握られていた手をグイッと引かれた。
「髪なんか気にせんと、寝っ転がってみぃ! 気持ちええがよ」
「キャッ」
ドサッと身体が草に受け止められる。視界を正面に向けた途端、私の目の前いっぱいに遮ることなく星空が広がっていた。降り注いでくるかのような光が、溢れんばかりに目に飛び込んでくる。縦に広がった白靄の天の川がはっきり見える。
「綺麗……」
何度この言葉を今日、呟いただろう。語彙力のない自分が腹立たしい。けれど、そう言わずにはいられない。まるでここが科学館のプラネタリウムで、自分がリクライニングチェアに座り、星を眺めているような……そこまで考えて、ううん、違う……と否定した。
風が私の髪をくすぐり、カエルの鳴き声や、ジージー、ピーといった、よく分からない鳴き声も耳に届いてくる。頭から足に感じる、夜の湿度を含んだ少し冷たい草や土の感触と鼻腔を擽る緑の匂い。私は今ここいて、みんなで伊佐からの星空を見つめてる。
プラネタリウムよりもたくさんの、星が瞬いている空。この空を辿っていけばカナダへと繋がり、そこには朝焼けの空が広がっている。見える風景が違っていても、同じ空の下であることに変わりはない。伊佐とトロント、私たちは同じ空の下で、いつだって繋がってるんだ。
まだ勇気くんの手が握られていたことに気づき、外そうとすると力を込めて握り返された。
え……えぇっ!?
ちらっと周りを見てみると、郁美は勇気くんを挟んで反対側に寝転がっているらしく、視界に入らない。みんな夜空を見上げ、私たちが手を繋いでいることに気づいてない。というか、こんな真っ暗な中、至近距離にない限り見えないと思う。
さっき、私が手を外そうとしたのは明らかに勇気くんに伝わってるはずで、それを知ってたにも関わらず握り返してくるなんて。
無理やり解こうとすれば出来るのかもしれないけど、それでみんなに……ましてや郁美に気づかれたくないし、なんとかそっと、自然に外したかった。指を少しずつゆっくりと移動させ、なんとか勇気くんの大きくて分厚い手から抜け出そうとしていると、下の方から真紀の声が聞こえてきた。
「寒くなったがよー。帰らんね!」
すると、勇気くんの手が離れ、ガバッと上半身を起こした。私はまだ、寝転んだままだった。
「ほいじゃー、帰るか!!」
勇気くんは振り返ることなく斜面を駆け下り、また先頭に立つとテントへと歩いて行く。私もゆっくりと身体を起こし、草を払うと立ち上がった。
なん、だったんだろう……人恋しくなった、とか?
もやもやした気持ちを吹き飛ばすように首を振ると、みんなの後に続いてテントへの道のりを歩き始めた。
「ほら、手ぇ」
「うん」
勇気くんの大きな手が伸び、支えてもらって体勢を起こすと、もう既に髪の毛には草がついていた。それを払おうとしていると、勇気くんに握られていた手をグイッと引かれた。
「髪なんか気にせんと、寝っ転がってみぃ! 気持ちええがよ」
「キャッ」
ドサッと身体が草に受け止められる。視界を正面に向けた途端、私の目の前いっぱいに遮ることなく星空が広がっていた。降り注いでくるかのような光が、溢れんばかりに目に飛び込んでくる。縦に広がった白靄の天の川がはっきり見える。
「綺麗……」
何度この言葉を今日、呟いただろう。語彙力のない自分が腹立たしい。けれど、そう言わずにはいられない。まるでここが科学館のプラネタリウムで、自分がリクライニングチェアに座り、星を眺めているような……そこまで考えて、ううん、違う……と否定した。
風が私の髪をくすぐり、カエルの鳴き声や、ジージー、ピーといった、よく分からない鳴き声も耳に届いてくる。頭から足に感じる、夜の湿度を含んだ少し冷たい草や土の感触と鼻腔を擽る緑の匂い。私は今ここいて、みんなで伊佐からの星空を見つめてる。
プラネタリウムよりもたくさんの、星が瞬いている空。この空を辿っていけばカナダへと繋がり、そこには朝焼けの空が広がっている。見える風景が違っていても、同じ空の下であることに変わりはない。伊佐とトロント、私たちは同じ空の下で、いつだって繋がってるんだ。
まだ勇気くんの手が握られていたことに気づき、外そうとすると力を込めて握り返された。
え……えぇっ!?
ちらっと周りを見てみると、郁美は勇気くんを挟んで反対側に寝転がっているらしく、視界に入らない。みんな夜空を見上げ、私たちが手を繋いでいることに気づいてない。というか、こんな真っ暗な中、至近距離にない限り見えないと思う。
さっき、私が手を外そうとしたのは明らかに勇気くんに伝わってるはずで、それを知ってたにも関わらず握り返してくるなんて。
無理やり解こうとすれば出来るのかもしれないけど、それでみんなに……ましてや郁美に気づかれたくないし、なんとかそっと、自然に外したかった。指を少しずつゆっくりと移動させ、なんとか勇気くんの大きくて分厚い手から抜け出そうとしていると、下の方から真紀の声が聞こえてきた。
「寒くなったがよー。帰らんね!」
すると、勇気くんの手が離れ、ガバッと上半身を起こした。私はまだ、寝転んだままだった。
「ほいじゃー、帰るか!!」
勇気くんは振り返ることなく斜面を駆け下り、また先頭に立つとテントへと歩いて行く。私もゆっくりと身体を起こし、草を払うと立ち上がった。
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