チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第八章 いさドラゴンカップ

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 レースに備えてチームで輪になり、ストレッチをする。みんな、いつもより口数が少なく緊張しているのが空気を通して伝わって来る。いつもは軽口を叩く勇気くんでさえ、今日は真剣な表情だった。ストレッチを終えると、海くんが手招きをし、みんなの輪が海くんを中心にして縮まる。

 海くんの視線がゆっくりと全員に向けられ、喉仏が上下すると精悍な顔つきになった。

「俺たちは、今日の大会まで自分たちの力を出し切ってよく頑張ったと思う。あとは、それを試合にぶつけるだけだ」

 それを聞き、勇気くんがニヤリとした笑みを見せる。

「おぉ、やるがよ!」

 海くんが中心に向けて、真っ直ぐ手を伸ばした。初めて会った時は無口で無気力な男の子だと思ってたけど、その胸の中にはドラゴンボートへの、そして亡くなったお父さんへの熱い思いがあったチームリーダー。

 続いて勇気くんが手を重ねる。いつも軽口叩いてるけど、リーダーシップがあって、みんなから親しまれていて、きついラグビー部の練習があるのにドラゴンボートの練習もがんばってくれて、本当は誰よりも努力家のペーサー。

 勇気くんの大きな手の上に、郁美の小さな手がポンと載せられる。チーム全員にとって母親的存在であり、ムードメーカーで、みんなをうまくまとめてくれて頼もしい存在。郁美がいなければ、「チェストー!ズ」が結成されることはなかった。

 白く細い、涼子の手。同じクラスだったけど、それまで喋ることのなかった涼子。ドラゴンボートを通じて仲良くなり、今では大事な友達になってる。

 田中くんは、大学進学を希望してて受験勉強に忙しいはずなのに、練習に熱心に参加してくれた。気遣いができる人でもある。

 前田くんと吉元くんは、勇気くんから強引に誘われてチームに入ることになって、鼓手は漕手よりも楽だと言われて傷付いたこともあったけど、それがきっかけでみんなに鼓手の役割を知ってもらうことができた。

 本田くんと中村くんは今まで一度もドラゴンボートをしたことがなくて、一番大変だったと思う。「もうやめたい」なんて言われたこともあったけど、それでも頑張ってついてきてくれて、漕手としてすごく成長した。

 名前だけならと補欠で入ってくれた、由美子と真紀。2人はTシャツ作成を提案してくれたり、横断幕を作ってくれたり、チームの士気を高めて支えてくれた。艇に乗らなくても、欠かすことの出来ない大事な『チェストー!ズ』の一員。

 そして、最後に私が手を重ねた。

 このチームで今日まで頑張ってきたんだ。信じよう、みんなの力を。そして、私も自分が持ってる最大の力でこの大会に臨もう。

 海くんがスゥッと息を吸う音が耳を鳴らす。

「チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!」

 けれど、それは海くんひとりの声だけで終わった。みんな、まさか海くんがこんな大きな声を出すなんて想像してなくて、面食らって声が出なかったのだ。

 海くんが手を引っ込め、真っ赤になった顔を腕で隠した。

 か、可愛い……海くん。

「ガハハ……いっつも海だけぇノリが悪いで、みんなに裏切られたが!」

 勇気くんは嬉しそうに笑っていた。

「もう、しない」

 拗ねてしまった海くんを、女子が中心になって慰める。

「ごめぇん、海くんがまっさかあんな大声出すと思わんくて、声が出んかったがよ。今度はみんなで声出すけぇ、ね?」
「そうだよ。私、海くんの声聞いて感動したもん。なんかすっごくやる気出た!」
「ほらほら、気をとり直してやるね!」
「海くん、かっこよかったがよー」

 海くんは気持ちを持ち直し、もう一度円陣を組んだ。手を重ねると、まだ少し赤くなった顔のまま、海くんが声を出す。

「チェストー……」
「声が出とらんが!」

 厳しい勇気くんのツッコミが入り、海くんが深く息を吸う。

「チェストォーー! 伊佐高龍舟チーーム!!」

 腹の底から出た大きな海くんの声に続けとばかりに、みんなで声を張り上げる。

『チェストォーー! 伊佐高龍舟チーーム!!』

 手を空に向かって上げ、全員とハイタッチを交わしていく。みんなのエネルギーが掌を通じて伝わって来る。自分の身体の奥からも、湧き上がってくる。

 いつの間にかみんなの親たちも拍手をしていて、一部始終見られてたのかと思うと恥ずかしくなった。
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