チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第七章 大会前夜

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「ほれ、チームリーダー! 今日はいさドラゴンカップの前夜祭やけ、一言言わんね!」

 勇気くんに急き立てられ、海くんはのろのろと立ち上がった。花火が上がり、海くんの照れた横顔が花火の赤に染められる。

「え、っと……いよいよ明日は大会だ。みんな、頼りないリーダーである俺についてきてくれて、本当にありがとう。俺は、このチームに出会えて良かったと思ってる。明日は悔いのない、いいレースにしよう」

 勇気くんがすっくと立ち上がり、ペットボトルを高々と掲げる。

「ほいじゃ、『チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!』大会優勝を願って、かんぱーい!!」
『かんぱーい!!』

 乾杯した後、海くんがムッとした表情を勇気くんに向ける。

「乾杯コールはチームリーダーの俺だろ」
「挨拶で花もたせたで、乾杯はペーサーの俺やろが!!」

 言い合いする二人をよそに、郁美が手際よく箸と皿を人数分配り、声を掛けた。

「はい、そいじゃみんな食わんね! 早いもの勝ちやで、花火見惚れとったらなくなるがよ。あたしたちはぁ、色気より食い気ね」
「あぁっ、郁美! 俺ん分食うなよ!」

 郁美の声を聞いて、慌てて海くんが声を掛けた。

「そんなん、知らんね!」

 みんなの賑やかな笑い声に包まれるなか、色とりどりの花火が次々に打ち上がっていき、その大きさに、迫力に、息を呑む。

「綺麗……」

 川を挟んで堤防の向こう側から打ち上げられた花火が川内川に映り込み、幻想的な美しさを魅せていた。

 郁美が箸を動かす手を止めることなく、答えた。

「今年は7000発、花火打ち上げるってぇ話よ」

 それから、私に皿を渡す。

「はい。ボーッとしてると食いっぱぐれるがよ」

 皿の上にはたこ焼きや焼きそば、焼き鳥なんかが載せられていた。

「ありがとう、郁美。郁美って絶対いいお母さんになると思う」
「えぇー、それを言うならお嫁さんね!」
「フフッ……そうだね、ごめん」

 突然勇気くんが立ち上がり、叫んだ。

「たーまやー!!」

 花火の爆音よりも大きいその声にみんなが耳を塞ぐ。

「勇気ぃ、やぜらしかー!」
「花火といえば、これやろが。あ! じゃー、みんなで『チェストー!』ゆうが?」

 それを聞いてみんなが「いいねー」「やろーやろー」と盛り上がる。

「海ぃ、お前もやるがよ!」
「俺はいい」

 こういう時でも、やっぱり海くんはノリが悪い。私たちは花火が上がるたびに『チェストー!』と大声を上げ、盛り上がった。

「こぉら、あんたたちゃなんね、やぜろしかー! みんなの迷惑になるの分からんね!!」

 そういえば、花火大会の合同補導あるって聞いてたっけ……

「うわっ、松元先生来たが! 逃げろー!!」

 勇気くんが叫び、海くん除く男子全員が一斉に逃げ出した。シートに残った私たちは、それを見て大笑いした。

「せんせぇ、もっと早く走らんと追いつけんね!」
男衆おとこんしもきばれー!」

 明日のドラゴンカップが、楽しみになってきた。
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