乙ゲーやったことない私が乙ゲー逆ハーの世界に飛ばされ、攻略キャラがイタいやつばっかだと気づいた件

奏音 美都

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乙ゲーやったことない私が乙ゲー逆ハーの世界に飛ばされ、攻略キャラがイタいやつばっかだと気づいた件

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 信じられない、というか信じたくない話だが、どうやら私は乙女ゲームの世界に飛ばされ、その主人公になったらしい……

 そう説明してくれたのは、このゲームで主人公を手助けしてくれるうさぎのぬいぐるみ、ぴょん吉だ。うさぎのぬいぐるみが喋った時点で、ここが普通の世界じゃないってことだけは、よーく分かった。

 だけど……なんで私が乙ゲー(乙女ゲームのことを、そう呼ぶらしい)の世界に飛ばされちゃったわけ? 私、それまで一度もプレイしたことないし、なんの知識もないのに。

「乙ゲーの世界とはいえ、主人公のさやかは高校2年生で君と同じ名前、同じ学年だし、魔力も妖術もない普通の学校の設定だから、転校したと思って楽しんでくれればいいよ。家族構成は父、母、兄、弟で、両親は海外赴任中で不在だよ」

 え、高校生の子供置いて普通に親、海外赴任するか!? 無責任じゃね?

「兄は涼真りょうま26歳、さやかの学校の保険医で、弟の爽真そうまは1個下の15歳で同じ高校にの1年生だよ。両親の単身赴任を機に3人で引越して、今日から新しい街での生活が始まる設定なんだ」

 いやいや、どんだけ狭い街に住んでんのよ。弟が同じ高校はまだしも、兄が同じ高校の保険医とか、奇跡でしかなくない?

 あー、なんなの。困るんだけど、元の世界に戻ることもできないし、とにかくここでの生活を始めるしかないのだ。

「とにかく、明日の朝からゲームスタートだから、今夜はゆっくり休んで」

 ゆっくり眠れるわけねー。

「ん……」

 眠れないままずっと横になってたけど、いつのまにかウトウトして眠ってたみたい。

 あれ……なんか、いつもと布団の感触が違う……そっか、私。乙ゲーの世界に飛ばされたんだった。

 起き上がろうとしてもぞもぞ体を動かすと、何か別の感触が……

 横になって目を開けた途端、私の目の前で超絶可愛い男の子がにっこりと微笑んだ。

「さやたん、おはよ♪ よく眠れたぁ?」
「ギャーッッ!!」

 叫んでベッドから降りようとすると、飛びつかれた。

「えーっ、なんでさやたん逃げるのぉ!!」

 すると、ドターンと扉が開けられた。

爽真そうま! お前、またさやかのベッドに入り込んだのか!?」

 入ってきたのは、大人なイケメンの男性だった。良かった、この人はまともそう……

「さやかと一緒に寝ていいのは、俺だけだ!」

 あ、こいつもイタい奴だった。

 涼真りょうまに作ってもらった朝ごはんを食べ終え、3人で高校に向かう。

「あの、お兄ちゃんも今日が仕事初日でしょ。早く行かなくていいの?」
「何言ってんだ。悪い男にからかまれないようにさやかを守るのが、俺の役目だ」
「もうっ、涼にぃ! 僕がいるんだから大丈夫だってば! せっかくのさやたんとのふたりきりの時間、邪魔しないでよね」

 こらこら、腕を組むな、腕を!!
 
 学校初日、転校生ってことで先生に紹介された。

「花井さやかです。どうぞよろしくお願いします」
「花井さんは鈴川くんの隣に座って」

 鈴川くんは茶髪にピアス、ブレザーを着崩してて、チャラいけど顔立ちが綺麗でモテそうだ。

「花井さやかちゃんかぁ、名前の通り可愛い人だね。フフッ、どうぞよろしくね」

 さ、さぶっっ。いやいやリアルでそんなこと言う奴いねーし!!
 鳥肌たったわ。

 朝のホームルームが終わると、かなり遠くからクラスメートの男が呼びかけてくる。

「おい! おい、お前!!」

 明らかに私を呼んでるのはわかるけど、いきなり「お前」呼ばわりされる覚えはない。無視してたら、ずんずんやってきて、おでこをデコピンされた。

「いたっ!!」
「おい、俺様が呼んだらすぐに返事しろ! 俺様はな、この学園の理事長の孫、西園寺恭介だ。この学園で俺様に逆らうと痛い目みるぜ」

 は? 俺様って、いったい何様ですか!?

「バッカじゃないの! 『お前』なんて呼ばれて返事する気にならないし、俺様なんていうイタい奴と関わりたくないし、おじいちゃんの権力振りかざして偉そうにするなんて最低!」
「なっ……!」

 男は明らかに動揺した後、なぜか赤面した。なんでだー!!

「お、お前みたいな奴は、初めてだ……お前、面白い女だな」

 面白くねー。もう一度言うが、ぜんっぜん面白くねーわ。
 なに、ドSかと見せかけてのドMなの? 罵倒してほしいわけ?

 なんかもう、疲れた……

 肩を落として廊下を歩いていたら、誰かとぶつかった。

「ぁ、すみません」

 すると、氷よりも冷たい声が上から響いてきた。見上げると、眼鏡に髪をきっちりセットした厳しい顔つきのクールビューティーって感じの男子だった。

「すみませんで済むなら、警察はいらないだろう」
 
 おいおいおい、またヤバイ奴にあたっちゃったよー。

「別に、ちょっとぶつかっただけでしょ。大袈裟だなー」
「なんだ、その口の利き方は。学校の風紀を乱すものは、この生徒会副会長である大和理一が許さない!
 2年1組花井さやか、生徒会に入ることを言い渡す」

 いやいやいや、意味わかんねーし!! てか、なんで私の名前知ってんのよ!!

「いやです」
「お前に断る権限などない」

 嫌だと言ってるのに、生徒会室に連れて行かれた。

 生徒会室に入ると、そこにいたのはうちはブレザーの制服にもかかわらず、全身黒ずくめの私服を身に纏った妖艶な雰囲気の男性だった。机に長い脚をかけ、流し目で私を見つめてくる。

「君か……全校生徒が憧れる生徒会メンバーに入るのを拒否した女は。実に、興味深い……
 お前、生徒会長であるこの私、九条琴音の女にしてやろう」


 もう、こんなイタいやつばっかの世界いやーーー!!
 誰か、ここから連れ出してーー!!

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