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過去を捨てた代償
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混乱していると、その女が私に気がついた。拓海に声を掛け、彼が立ち去るのを確認した後、こちらに向かって歩いてくる。
その顔は真っ白で、唇が震えていた。ブスに磨きがかかっているな……と、他人事のように感じた。
私にそっくりな女は、私と全く同じ声で話しかけてきた。
「何しにきたのよ、美麗」
「ぇっ……!?」
な、んで、私の名前を!?
驚愕する私に、その女は卑屈な笑いを浮かべた。
「私よ。知子よ、お姉ちゃん」
頭を鈍器で殴られたような衝撃の後、一瞬真っ暗になった。全身がワナワナと震えだす。
「な、なんで……あ、んた……」
言葉が紡げない私の代わりに、知子が答えた。
「なんで私が美麗になったのか、聞きたいの?
たーくんと付き合うためよ」
拓海、と!?
私に成り代わった知子は、フーッと溜息をついた。
「私、ずぅっとたーくんのことが好きだった。
でも、たーくんが見てるのは美麗だけ。美麗なんて、いなければいいのに、っていつも思ってた」
え、拓海、が……私、を……好き、だった、の?
「全然気づいてなかったでしょ、たーくんの気持ち。それでいつも足蹴にして。そんな美麗も嫌いだった。
おかしいよね、仲良くても嫌だし、足蹴にしても嫌だなんて。ブスで内気でなんの取り柄もない美麗を、なんでたーくんは好きなんだろうって、いつもいつも思ってた。
たーくんの気持ちを振り向かせられるのなら、美麗にだってなりたいって」
「そ、んなこと、で……」
美人でスタイルもよくて、誰からも愛されてた知子が、たった一人の男性の気を引くためだけに私になった、なんて。
「バカだと思うでしょ? でも、私はたーくんさえいればいいの。他には何もいらない。同じ大学入って距離が近づいて、たーくんが告白してくれて、すごく幸せなの。
東京で別人になって幸せになった美麗が今更きて、引っ掻き回さないで!!」
知子が鬼のような形相で迫ってきた。こうしてみると、自分の顔の醜さに嫌気がさす。こんな顔になってまで拓海の心を掴もうとした知子の想いの深さに驚愕する。
「美麗、友達か?」
その声に、二人してビクッとして身を固くした。
たく、み……
私を装った知子が、取り繕った笑顔を拓海に向けた。
「拓海、今まで黙ってたけど……」
その言葉に、喉が呻きそうになる。
知子、打ち明けるつもり、なの!?
すると、知子は私を見てにっこりした。
「実はね、この人、知子なのよ。拓海には黙ってて悪かったけど、実は知子ね、東京で有名なモデルになったの」
「っ!?」
ナ、ナニ?
わ、たしが……知、子?
事もなげに話す知子は先程までのような喋り方ではなく、少し早口な私の喋り方そっくりだった。冷水を浴びせられたような気分になり、全身にゾクゾクとした寒気が走る。
「えっ、知子なのか!? 言われてみれば、知子が垢抜けたような顔してんな。美麗から東京で働いているって聞いたときはビックリして心配してたけど、成功して有名にまでなるなんてすげぇな」
そう、自分でも気付いていた。
ーー美容整形した私は……知子に、似ていることを。
その顔は真っ白で、唇が震えていた。ブスに磨きがかかっているな……と、他人事のように感じた。
私にそっくりな女は、私と全く同じ声で話しかけてきた。
「何しにきたのよ、美麗」
「ぇっ……!?」
な、んで、私の名前を!?
驚愕する私に、その女は卑屈な笑いを浮かべた。
「私よ。知子よ、お姉ちゃん」
頭を鈍器で殴られたような衝撃の後、一瞬真っ暗になった。全身がワナワナと震えだす。
「な、なんで……あ、んた……」
言葉が紡げない私の代わりに、知子が答えた。
「なんで私が美麗になったのか、聞きたいの?
たーくんと付き合うためよ」
拓海、と!?
私に成り代わった知子は、フーッと溜息をついた。
「私、ずぅっとたーくんのことが好きだった。
でも、たーくんが見てるのは美麗だけ。美麗なんて、いなければいいのに、っていつも思ってた」
え、拓海、が……私、を……好き、だった、の?
「全然気づいてなかったでしょ、たーくんの気持ち。それでいつも足蹴にして。そんな美麗も嫌いだった。
おかしいよね、仲良くても嫌だし、足蹴にしても嫌だなんて。ブスで内気でなんの取り柄もない美麗を、なんでたーくんは好きなんだろうって、いつもいつも思ってた。
たーくんの気持ちを振り向かせられるのなら、美麗にだってなりたいって」
「そ、んなこと、で……」
美人でスタイルもよくて、誰からも愛されてた知子が、たった一人の男性の気を引くためだけに私になった、なんて。
「バカだと思うでしょ? でも、私はたーくんさえいればいいの。他には何もいらない。同じ大学入って距離が近づいて、たーくんが告白してくれて、すごく幸せなの。
東京で別人になって幸せになった美麗が今更きて、引っ掻き回さないで!!」
知子が鬼のような形相で迫ってきた。こうしてみると、自分の顔の醜さに嫌気がさす。こんな顔になってまで拓海の心を掴もうとした知子の想いの深さに驚愕する。
「美麗、友達か?」
その声に、二人してビクッとして身を固くした。
たく、み……
私を装った知子が、取り繕った笑顔を拓海に向けた。
「拓海、今まで黙ってたけど……」
その言葉に、喉が呻きそうになる。
知子、打ち明けるつもり、なの!?
すると、知子は私を見てにっこりした。
「実はね、この人、知子なのよ。拓海には黙ってて悪かったけど、実は知子ね、東京で有名なモデルになったの」
「っ!?」
ナ、ナニ?
わ、たしが……知、子?
事もなげに話す知子は先程までのような喋り方ではなく、少し早口な私の喋り方そっくりだった。冷水を浴びせられたような気分になり、全身にゾクゾクとした寒気が走る。
「えっ、知子なのか!? 言われてみれば、知子が垢抜けたような顔してんな。美麗から東京で働いているって聞いたときはビックリして心配してたけど、成功して有名にまでなるなんてすげぇな」
そう、自分でも気付いていた。
ーー美容整形した私は……知子に、似ていることを。
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