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箱入り令嬢は密かに慕う執事に夜伽の手解きを受け、快楽に沈む

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 スペンサーがアリアの髪に触れていた手を後ろへと回して後頭部を支えると、反対側の手が彼女の腰を支えてふわりと躰が浮き上がった。

「きゃっ!!」

 突然の出来事に、アリアは小さく悲鳴をあげた。

 近づいたスペンサーとの距離に、胸の高鳴りが彼の鼓膜に届きそうで、彼のシルバーグレーの瞳をまともに見られない。見た目は細く華奢に見えるのに、支える腕の筋肉の力強さを感じ、ドキドキが一層高まっていく。スペンサーの香りに包まれ、慣れ親しんだ匂いの筈なのに、今日はやけにアリアを落ち着きなくさせた。

 まるで壊れ物を扱うかのように優しくベッドの上へとふわりと下ろされ、ラベンダーの香りに包まれる。見上げるスペンサーの艶やかな表情に息を呑み、呼吸をすることすら忘れてしまう。

 スペンサーの躰がゆっくりと下りてきて、アリアをじっくりと眺める。

「その夜着、とてもよく似合っていますよ。私の目に、狂いはありませんでした」
「ぁ、ありがとうございます……」

 見つめられているだけで、アリアの躰が小刻みに震えてくる。スペンサーがフッと笑みを見せた。

 彼の長く細い美しい指先が、アリアの瑞々しい唇を繊細になぞる。アリアの唇がピクン、と震えた。

「ここに……唇を重ねたことがありますか」

 低く腰に響くスペンサーの声に、アリアの下半身がキュンと締め付けられるような苦しさを覚えた。

「い、いえ……ありま、せん」

 アリアの答えに、満足そうにスペンサーが頷いた。

「では、教えて差し上げましょう。接吻とは、どういったものなのかを」

 そう言って、スペンサーの端正な顔立ちがゆっくりとアリアに近づいてくる。

 え、え、え……

 アリアはパニックを起こしつつも、ギュッと瞼を閉じた。

 途端に、柔らかい感触が唇に触れる。

 あたた、かい。

 唇の熱で溶かされてしまいそうになる。

 暫く重なったままだった唇が離れ、寂しさを感じていると、再び唇が触れ合った。

 そっと優しく、何度も触れては離れる唇。その感触に、アリアの躰がほわっと包み込まれるような気持ち良さを感じる。

 接吻って、こんなに気持ちいいものだったんだ。

 うっとりと薄目を開けたアリアの視線と、スペンサーの蠱惑的な視線がぶつかる。アリアは恥ずかしさを覚え、再び目を閉じた。

「では、少し唇を開けて頂けますか」

 スペンサーの言葉に疑問を覚えつつも、言われた通り、唇を開いた。

 すると、にゅるりとした感触と共にスペンサーの舌がアリアの口内へと侵入してくる。アリアは驚いて顔を背けようとしたが、スペンサーの指先がアリアの顎を捕らえ、それを許さない。

「んっ、んっ、んんぅっっ!!」

 スペンサーの舌が、縦横無尽にアリアの口内を貪るように這い回る。歯茎を舐めまわし、歯列をなぞり、上顎を擽る。舌を絡め取り、軽く吸われるとアリアの下半身がそれに比例するかのようにキュンキュンした。

「んんんんっ!!」

 酸素が頭に回らず、ボォーッとしてくるのを感じて、生理的な涙が目尻に溜まった。苦しいのに、躰の芯から熱くなって、気持ち良さが広がっていくのを感じる。

「ッハァ、ッハァ……」

 ようやく解放された口から過呼吸気味に酸素を取り込むアリアの頭を、スペンサーが撫でた。

「まぁ初めてですし、接吻はこのくらいにしておきましょうか」
 
 その言葉を聞き、アリアは血の気が引くのを感じた。

 このくらいって……もっとすごい接吻があるってこと!? そんなのされたら、私……身がもたないよ……

「では、次の過程に移りましょうか」

 スペンサーの言葉に、アリアの心は悲しみで溢れ出しそうだった。

 分かってはいたけど、スペンサーはただの儀式として私に手解きしてくれてるだけで、そこには何の感情もないんだ。
 それでも、私は……スペンサーが、私に初めて触れる人でよかった。

「はい……」

 アリアは、スペンサーとの夜伽を心に焼き付けようと決意した。

 これが終われば、スペンサーは私に触れることはない。執事と主人の関係に戻る。
 でも、今だけは……たとえ儀式であっても、スペンサーの熱を、匂いを、感触を感じていたい。

 アリアは、ゆっくりと瞳を閉じた。
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