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もう、離れたくない

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「秀一さん、愛してます」

 もう言わなくても分かってるって知っているけど、溢れ出した感情が止められなくて、言わずにはいられない。

 今度は、秀一から唇が寄せられる。

「美姫、愛しています」

 レンズ越しに甘く蕩けるような笑みを見せられ、美姫は泣きたい気持ちになった。

「眼鏡、外してもいいですか?」

 小さく尋ねると、秀一は黙って頷いた。

 以前秀一さんが言っていた、私以外の人に眼鏡を外してもらったことがないというあの言葉……あれは今でも、有効だろうか。

 震える指先でフレームに触れた美姫に、秀一が頬を撫でる。

「これは、貴女だけの特権ですよ」

 眼鏡を外した秀一のライトグレーの瞳が欲情を灯して、美姫を映し出す。

 瞳を潤ませ、頬を染める自分の表情に、あぁ……私はやっぱりこの人が好きなのだと、改めて自覚させられる。

 この美しく魅力的な瞳に、私は何度映り込んだのだろう。
 これから、幾度も映して欲しい。

 ずっとずっと、見つめていて欲しい……

 ゆっくり、ゆっくりと寄せられる美麗な秀一の顔に、美姫の心臓が煩いぐらいに騒ぎ出し、壊れてしまいそうに苦しくなる。大切に重ねられた唇から、互いの温度が流れ込む。

 秀一の舌先が美姫の唇をじっくりと味わうように丁寧に輪郭に沿ってなぞる。

「ッフ……」

 小さく震える美姫の肩を優しく抱くと、艶やかなリップ音と共に軽く唇が吸われた。

 一気に焚き付けられるのではなく、躰の奥底深くから、じんわりと熱が上がっていくのを感じる。もっと求めて欲しいと、求めてしまう。

 美姫は、秀一の背中に腕を回した。

 互いの吐息が、互いの舌が、絡み合う。唇も、舌も、躰も、胸も、心も離れないように……寄り添って、重なって、絡まり合う。

 高まっていく感情と、昂ぶる欲情が、二人を、絶頂の幸福へと押し上げていく。

 ただ互いの存在を感じるだけで、気持ち良い。幸せで、切なくて、涙が自然と込み上げてくる。

 秀一が、濡れた声で美姫に囁く。

「美姫、貴女の全てを愛したい……」

 秀一の逞しい腕で支えられ、美姫の躰がソファベッドの上に横たえられる。艶めかしい息を吐き、膝立ちになった秀一がシャツのボタンに指を掛け、ひとつずつ外していく。

 採寸の時に秀一の上半身は見ていた筈なのに、この胸にこれから抱かれるのだと思うと、息もできないほど胸が苦しくなる。それなのに、瞳を逸らすことが出来なかった。

 筋肉の隆起した美しい躰は芸術的なのに、それは生々しい艶めかしさも感じさせた。

「美しい私の人……」

 官能的な秀一の声音に、甘美な彼の言葉に……陶酔する。それは肌をざわめかせ、毛穴の隅々にまで行き渡り、潤いを与えてくれる。

 ーー忘れかけていた女としての悦びを、再び呼び起こさせる。

 秀一の唇が頬に寄せられ、それからうなじに口づけられる。ピクッと震える美姫の頭に、今度は口づけが降ってきた。

「背中を向いて下さい」

 背中を向けた美姫の首筋に唇が寄せられ、秀一の細く長い指がファスナーを摘み、下へ下ろしていく。その感触にゾクゾクと震えて仰け反った美姫の背中にも、口づけが落とされた。

「ッァア」

 ワンピースが肩から外され、さらにパックリと開いた背中を愛でるように、唇が何度も触れる。その度に美姫は背中を反らし、幾度も訪れる震えと快感に翻弄された。

 ゆっくりと焦らすようにワンピースが脱がされ、ベッドの下に落とされる。それから何度もストッキングを上から撫でられながら、少しずつ下ろされていった。

 長く愛して欲しい。
 でも、早く全てが欲しい。

 そんな気持ちが、美姫の中に入り乱れる。

 背中越しにベルトが外される音が聞こえ、緊張と高まりでドクドクと鼓膜にまで脈動が伝わって来る。スラックスを下ろす衣擦れの音に、美姫は躰を捻って愛しい人を見上げた。

 逞しい躰と筋肉の流麗な線が視線に映り込み、その下の黒いボクサーパンツの中心の盛り上がりに、下腹部が熱くなり、ジンジンと疼きを覚える。

 両手を伸ばすと秀一が微笑み、美姫の指の間に指を差し入れて握り、ベッドに繋ぎ止める。甘い捕縛に、躰の芯が痺れていく。

「キス、して下さい」

 甘えるように、美姫は囁いた。
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